「逢いたいな…」
2024年 2月
昨年6月に「がん」の手術をしてから、毎月のように病院通いをして、経過観察を受けてきました。主に転移があるかどうかをチェックするためです。今のところ転移は無くホッとして新年を迎えた矢先、金沢巡業の雪解け道で、スッテンコロリン、右肘を骨折してしまった。
ほぼ一ヶ月、ギプス生活を余儀なくされ、新作『大好き〜奈緒ちゃんとお母さんの50年〜』編集のラストスパートにブレーキがかかってしまった。映画の神様が与えている試練、と受け止めてはいるけれど…。
自分で始めたこととはいえ、我が“奈緒ちゃんシリーズ”はよくぞ半世紀も撮影を続けた、と思っています。「長くは生きない…」と言われていた、姪っ子 奈緒ちゃんとその家族の記録は、今編集中の『大好き』で第5話になります。
「元気な奈緒ちゃんを撮る」という想いだけで始まった映画なので、奈緒ちゃんが元気でいる限り撮り止める理由が無いんだ。ただ、奈緒ちゃんに逢いに行く。ただただ、奈緒ちゃんの家族に逢いに行く、というだけの繰り返しで続けてきた撮影だから、撮りためた映像を、どう編集するか、どう構成して行くかで、物語にたどり着く、
ドキュメンタリーならではの映画創りだけど、なかなか大変なんだ、これが。
肉体労働のような編集作業が一年近く続いて、今ようやくと少しは頭を使う段階に入ってきたところかな? “頭を使う”といっても、理屈をこねるわけではなく、「いいなあ」と思ったり、気になる映像と音のハーモニーを探ったり、という感仕事だけどね。
大事なのは、言葉になる前の想いが、
どれだけ濃密か、ということだ…というか、どれだけ本当に語りたい想いがあるか、心の底から、うめき声のように湧き出てくる、むしろ言葉にならない声で、“映画”という歌を唄うことができるか、ということだと思う。
「言葉になる前の想い」「言葉になった後の想い」にこそ、本当のことがあるのだ…。そう想い切ることで、映画は映画ならではのイメージの奥行きにたどり着ける、と思っている。「言葉にすると嘘になる」と想い切ることを拠点にして出来上がる作品をこそ、“映画”と呼んでみたい。
「愛してる」と言葉で言わずに「愛」という想いを手探りで確かめようと、するようにね。
新作のタイトル『大好き』は、まだ編集の途中でふと浮かんできた言葉だ…。
奈緒ちゃんがお母さんのことを“大好き”で、お母さんが奈緒ちゃんのことを“大好き”で、いいな…相思相愛って、と編集しながら素直に思ったから。けど、片想いにだって「大好き」はあるしね。
「好き」の上に「大」を付けて「大好き」。50年に及ぶ“奈緒ちゃんシリーズ”の「いのち」を巡る長い旅は、「大好き」の奥行きを歩み続ける想いの時間だった。
たどり着くことのない旅に違いないけど。
で、映画を観る人が奈緒ちゃんを巡る時間を、そのまま自分の生きてきた時間と重ね合わせて見つめていく時に、「大好き」の中身が、観る人それぞれの「言葉になる前の想い」として受け止められるのだ。
映画は、観る人と出逢ってはじめて映画になってゆくのだから…。
春、
50年間の映画の舞台、
奈緒ちゃんの家のすぐ隣にある
公園の桜が咲いて散り始める頃に
映画『大好き〜奈緒ちゃんとお母さんの50年〜』
は完成する筈です。
逢いたいな…
きっと逢えますように。
(カントク・伊勢真一)
上映情報
〈北林和美記念上映会〉
会場:高橋真澄さん家
2/23(金・祝)
13時~『ありがとう~奈緒ちゃん・自立への25年~』
※上映後、西村信子さん(奈緒ちゃんのお母さん)と伊勢真一監督のトーク
問合せ:いせフィルム TEL:03-3406-9455
E-mail:ise-film@rio.odn.ne.jp
〈ごちゃまぜ映画会〉
会場:本郷台・あーすぷらざ TEL:045-896-2121
3/9(土)
■10時~ 『いのちのかたち~画家・絵本作家 いせひでこ~』
※上映後、いせひでこさんと遠藤郁美さん(音声ガイド制作)と伊勢真一監督のトーク
■13時30分~ 『傍(かたわら)~3月11日からの旅~』
※上映後、能登半島地震被災者支援スタッフ(公益社団法人青年海外協力協会職員)と伊勢真一監督のトーク
予約・問合せ:いせフィルム TEL:03-3406-9455
E-mail:ise-film@rio.odn.ne.jp
西村 TEL:090-1059-5863
〈大倉山ドキュメンタリー映画祭〉
http://o-kurayama.jugem.jp
会場:大倉山記念館 TEL:080-4777-9772
3/10(日)
16時05分~『Pascals~しあわせ のようなもの~』
※上映後、伊勢真一監督のトーク
予約・問合せ:実行委員会 TEL:080-4777-9772
いせフィルムTEL:03-3406-9455
E-mail:ise-film@rio.odn.ne.jp
※日程等が変更となっている可能性もありますので、ご来場の際は必ず事前に主催者・会場ホームページ等をご確認ください。