勇気

2022年 4月

　「戦争をやめてほしい」
　誰もがそう思っているはずなのに、戦争が始まってしまった。

　新作『いまはむかし〜父・ジャワ・幻のフィルム〜』はもう二度と戦争をしてはいけない、というメッセージを、映画人としてプロパガンダ映画を製作し、80年前のあの戦争に加担した、父・伊勢長之助の在り方を見つめ直すことで、描いた映画だ。
　父が、戦時中、三年間にわたって創り続けた100本に及ぶプロパガンダ映画…。
　戦後、反戦の思いを込めて製作したニュース速報『世紀の判決 ─東京裁判』…
相矛盾する映画の存在を通して、「戦争」を考えるドキュメンタリー映画を創ろうと思いたったのは三十数年前、完成したのは昨年の夏だ。まさか半年後に新たな「戦争」が始まるとは、思ってもいなかった。

　昨秋、東京で封切られ、11月にはオランダ・アムステルダムの国際ドキュメンタリー映画祭の3部門でノミネートされ、大きな反響を呼んだ…。「勇気」のある映画だと。

　そしてつい先日、アメリカ・ハワイでの「AAS Film EXPO」という、世界の研究者たちの集まる学会で『いまはむかし』（Now is the Past）が上映された。そこでもまた「勇気」という言葉で賞賛されたのだ。どうやら本当に「勇気」ある映画なのかも…。

（以下、ハワイ上映の感想から─）

“歴史についての大変重要な映画ですね。これが私的な、家族の歴史であるという事実で、さらに心に強く訴える物語になっています。あなたのお父さんが制作に携わっていたプロパガンダ映画を観るのはとてもつらかったことでしょう。”

“本作品がとても気に入りました。私は韓国から参加しており、なぜ韓国の映画製作者たちがベトナム戦争時の戦争犯罪についてドキュメンタリーを撮らないのかと考えておりました。この問題を取り上げた、あなたの勇気を讃えます。”

“本作品は、アジアに共通する苦しみの記憶について、しかし日本の政治においては皮肉なことに今なおタブーとされることに取り組んだ点において、大変勇気がある。醜い事実に直面した時にも直視するこの映画の姿勢に対し、私は敬服している。”

“ウクライナでの戦争を考えると、本作品の上映はとてもタイムリーだと思いました。本作品を見るのはつらいのですが、ここに含まれる情報は大変重要です。この作品が、あなたが受け継いだ苦しみを癒しているといいなと思います。平和が広まりますように。”

　アメリカ、韓国、中国、インドネシア、ネパール等から集まった方々が真剣に映画を受け止めてくれた。上映後のQ&Aでは最初の質問が、「どうしたら、今のロシアとウクライナとの戦争を止められると思いますか？」だった。会場の多くの人が考えていることも、同じだったに違いない。
　私は「私も聞いてみたい質問です…。ずっとそのことを考えているのですが、私に言えることは、“いま”は“むかし”です。
歴史に遺された事実、記録をもう一度しっかり見つめ直し、考え続けることを、一人ひとりが他人事ではなく自分事としてすることだ…と思います。」と、答えた。
　それから一時間以上、映画の問いかけに答えるような、語り合いが続いた。

　「いまはむかし」「むかしはいま」

　「いま」だからこそ上映してほしい。　
　「いま」だからこそ観に来てほしいのだ。
　映画を観て「戦争をやめてほしい」と
いう思いを、自分自身に問い続けることも、「勇気」に違いない。

　映画を創ることも観ることも、
「勇気」に触れることなのだ。

（かんとく・伊勢真一）

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緊急上映会のお知らせ
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自主製作・自主上映でヒューマンドキュメンタリーを創り続けてきた。
「他人事」を「自分事」に繋いでいく道筋を一人ひとりが探っていく上映の場を、今、創っていきたい。
（伊勢真一 ドキュメンタリー映像作家）

5月5日（木祝・こどもの日）
場所：日比谷図書文化館 B1F 大ホール（東京都千代田区日比谷公園1-4）
 丸の内線・日比谷線 霞ヶ関駅 B2出口／千代田線 霞ヶ関駅 C4出口
■11時〜『奈緒ちゃん』 ＊上映後トークゲスト：細谷亮太（小児科医）
■13時30分〜 『いまはむかし』＊上映後、「細谷亮太を囲んで」（ホスト：伊勢真一）

5月11日（水）
神奈川 テアトル フォンテ ホール （神奈川県横浜市泉区和泉中央南5-4-13）
 TEL. 045-805-4000    相鉄線 いずみ中央駅前
■11時〜 『やさしくなあに』＊上映後トークゲスト：西村信子（奈緒ちゃんのお母さん）
■14時〜 『いまはむかし』 ＊上映後、「斉藤とも子（女優）を囲んで」 （ホスト：伊勢真一）

料金：
『いまはむかし』 2,000円
『奈緒ちゃん』『やさしくなあに』各1,500円　
一日券（2作品）3,000円
［ご予約優先］　
問合せ：
TEL. 03-3406-9455   E-MAIL. ise-film@rio.odn.ne.jp（いせフィルム）／ TEL.090-1059-5863（西村）

主催：いせフィルム　
協力：いせフィルム横浜応援団　クロスフィット　エンサイクロメディア