「いま」
2022年 3月
「いまはむかし」の「いま」
「むかしはいま」の「いま」
「いま」、世界中の人々がテレビやSNSで戦争を見ている。本物の戦争の生中継。ロシアとウクライナの戦争を、まるでサッカーの試合を観るように眺めている。
「いまのいま」起きていることを、自分事として、どう受け止めたらいいのか…。他人事ではないんだ。
「戦争を止めてほしい」
けれども、何も出来ずに右往左往している。自分に出来ることは、淡々と自分がやってきたことを続けること。
映画を創り、観せ、続けることだ、と思い返す。
東京・田端にある小さな映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」で、今月は毎週水曜日に、新作『いまはむかし』を含めて、四本の私の作品の特集上映をやってきた。
『奈緒ちゃん』『やさしくなあに』『ルーペ』『いまはむかし』を、朝からまる一日上映、私も毎回トークをやる。
名作(?)揃いの特集上映に、迷監督トークで、毎回満員御礼…と言いたいところだけど、苦戦しているのだ。どうして、お客さんが来ないんだろう…切ない。
自分が切ないだけでなく、映画館に申し訳ない。まわりの、心優しい友人たちは、「コロナ禍」での上映だから仕方がない、健闘している方だと思うよ。」と言ってくれるけど…悔しいなあ。
それにしても、今回の四本立ては「いま」観るべき映画だと思う。
新作『いまはむかし』は、80年前のあの戦争の時代に、父・伊勢長之助がかかわっていた国策映画を紹介することで、日本とアジアの歴史を問い直すドキュメント。
『ルーペ』は、『奈緒ちゃん』のカメラマン・瀬川順一さんが、スタッフの一員だった日中戦争の記録映画『戦ふ兵隊』での出来事、「ルーペ論争」のことを語り明かしたインタビュードキュメント。
『奈緒ちゃん』『やさしくなあに』は、障がいのある私の姪っ子、奈緒ちゃんとその家族を、35年間あまりにわたって撮り続けた、ホームムービーのようなパーソナルドキュメンタリーだ。
素直に言って、どの作品も「戦争を止めてほしい」という映画だと思う。
私はこの四作品の上映を「反戦」ではなく「厭戦」、「厭戦四部作」と呼んでみたい。「戦争を止めてほしい」という気持ちを、普通の人々の普通の日々をベースに語りかける映画として、観てもらいたいのだ。
日常を気負うことなく見つめ、語りかける。そのことにこそ、ドキュメンタリーの存在意義があると私は思う。迷いにまよいながら、オドオドと語りかける表現にこそ、力がある、と思いたい。
他人事ではなく、自分事として、「いま」を見つめなければ、「ホントのこと」は見えてこないはずだから…。
「いま」のことがワカラナイからこそ、「むかし」のことを、しっかり受け止めてみよう。そして、「いま」のことをしっかり受け止めることなしに、明日の「いま」は始まらないのだから。
耳を澄ませて、見つめ、考え続けよう。
あきらめずに。
「戦争を止めてほしい」という思いを、深めたい。
「いま」、私は映画を創り、観せ、続ける。
伊勢 真一
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上映情報
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本日最終日!3月16日(水) シネマ・チュプキ・田端
いせフィルム特集上映開催!
『奈緒ちゃん』『やさしくなあに』『ルーペ』『いまはむかし』
詳しくは、シネマ・チュプキ・タバタのサイト内、特設ページをご覧ください。
https://chupki.jpn.org/archives/8999
最新情報は、いせフィルムのツイッターをご確認ください。
https://twitter.com/iseFilm