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立川寸志の伊勢ばなし②初日/老舗居酒屋で「飲む」

 伊勢に入って事務局Mさんと打ち合わせを終え、ホテルの部屋で体制を整えながら私の頭に去来するのは、O記者からのメールにあった「今晩は伊勢を代表する老舗居酒屋にお連れします」の文言でした。伊勢の居酒屋に関してはあえて事前調査をしなかったのは、O記者に身をゆだねていれば間違いないからではあるが、そりゃもう店に入った瞬間に「おぉ~!」となりたいからに決まってるでしょ。旅先での居酒屋探訪の醍醐味はその「おぉ~!」につきるのです。

店構えから圧倒的!「一月家」のお茶割と湯豆腐

「ここです」タクシーを降りて店の前に立っただけで、「おぉ~!」となってしまいました。伊勢の老舗「一月家」。私は飲み食いの折には写真を撮らないことにしています。というか、写真を撮れないのです。飲む、食う、喋るに夢中で撮るヒマがない。これはノンアルの食事でも同じ。写真撮った後の飲食物は少し味が落ちるでしょ。抜かれるじゃないですか、何か魂みたいなものが。
 だから店構えだけ、写真を撮りました。この伊勢CWのレポートでも何十回と掲載されたことでしょうが、私も「一月家」の店構えを。ほれぼれしますね。もうこれだけで飲めちゃう。

看板、暖簾、引き戸…それぞれの幅がたまりません。

 広い店内は重厚さと開放感にあふれている。分厚く長いカウンターと広い座敷。現代の東京にはない昭和の味。座ってるだけで至福…などとは私は言いません。すぐにビールビール!
 肴はまず湯豆腐。こちらの湯豆腐は日本三大湯豆腐の一つに数えられるそうですが、あとの二つは忘れました。というか諸説あるという話を聞いただけかもしれない。三大湯豆腐の一つ説を唱えたのが居酒屋評論の走りで居酒屋番組を長く続けているデザイナーO氏だということらしいので、まあなんというか、そういうことなんだと理解しました。
 一口いただいて、そう、無理に三大湯豆腐にしなくてもいいのでは、ここの湯豆腐が一番でいいじゃないかと。O氏からすれば全国各地の居酒屋の色んな湯豆腐の顔を立てねばならいない事情があるのだろうが、私は思いましたよ、もう「一月家」の湯豆腐が一番、と。
 黒板のメニューに気になるものが。「さめたれ」「ふくだめ」。ひらがななので情報がない。「さめ」は鮫だろうけど、「たれ」って部位? 「ふく」はフグか。「だめ」って駄目じゃないだろう。「気になりますか、。じゃあ寸志さん頼んでください」。O記者は何も教えてくれずにやにやするばかり。出てきたのは…あ、「さめたれ」は房総土産でもらったクジラのタレの感じか! サメを醤油で甘めにつけて干されて、そう、エイヒレの分厚いやつだ。「ふくだめ」は…私の大好物トコブシを煮たのでした! いいねえ。酒が進む進む。
 「じゃあそろそろ名物お茶割に…」O記者の指導でお茶割へチェンジ。この肴には日本酒でしょうと個人的には思っていたのだが、濃いめのお茶割がドンと運ばれてくる。お店のおネエさんが「水置いておきますね」と大ぶりのグラスの水とポットを置いていく。え? チェイサー? そう、「一月家」のお茶割はチェイサー必須の濃さなのだ。その上お茶のまろやかさと甘みでついつい飲みすぎる。いやー、実際飲みすぎました。
 O記者が声をかけた伊勢のキーパーソンたちが次々にやってくる。そのたびに乾杯するものですから、もう楽しくてヘロヘロ。伊勢初日から幸せでしたが、これでいいのか、私。

立川 寸志(Tatekawa Sunshi) 落語家

https://tatekawasunshi.com/

【滞在期間】2022年11月25日〜12月1日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)