<伊勢滞在記>尾角 典子(Okaku Noriko)
伊勢のワーケーションを申し込む方々というのは、きっと神道や自然崇拝などに興味がある人が多いと思うのだけど、実際私もその1人。民話のように流動的に変化しながら伝承されていく物語の特性や、神話や儀式などの見方によって深さが変わっていくような秘密的な特性などに惹かれる者でございます。
普段はコラージュの手法を使い、想像上の風景を組み立ててアニメーションを作っています。
ワーケーション事業が始まってから、私は2回ほど予定を立てたのですが、いずれもコロナにより断念する事になり、これはもう無理かと思っていたけれども、、担当の三宅さんからリマンダーメールを頂いて予定を確認してみたら、、、あれ行ける!!!という事になりました。決まる時はすんなり予定が進んでいくもので、結果的に今行くのが私的にベストタイミングだった。2年前に比べたら、伊勢でのインプットを制作に活かせる基礎知識とプロジェクトが確実に増えているし、行って然るべきタイミングだったのだろうと1人納得。あと、滞在日程内の11月8日に月蝕があるという事に後から気づき、そういう不思議パワーが好きな自分としては月蝕の日に伊勢にいるなんて、、、なんか素敵やん!とこの完璧なタイミングに感動。
結論から言うと、伊勢に訪れさせて頂くことが出来て、本当に良かったです。
お世話になった三宅さんはじめ、伊勢の皆さま本当に有難うございました。
今回のワーケーションはリサーチベースでも良いと言うことだったので、心置きなく伊勢を満喫できたし、経験したこと、感じたこと、学んだことは滞在後の制作にとても影響を与えていくと実感しています。
・伊勢へ
伊勢には一度行ったことがあるけれども
その時は京都から車だったからか、伊勢は遠いというイメージだった。
今回京都から電車を乗り継ぎ、約3時間で到着。
本当は特急などを乗り継いだら2時間程で到着するのだけど
この3時間の急行と普通電車を乗り継いで2000円ちょいという値段に魅力を感じ、今回はこちらでトライ。
在来線の先に伊勢があるなんて思っていなかったので、日常の先に伊勢がある感じが私には面白く感じた。
・1日目
伊勢1日目は休日ということもあり、市役所は休み。
駅前で担当の三宅さんが迎えに来てくださり、事業の説明をうける。
三宅さんと別れた後、旅館からまた伊勢市駅へ戻り伊勢市観光協会さんから電動自転車を借り、明日の早朝参拝に備える。ワーケーション中は何度でも借りれる計らいになっており、とても便利だった。
https://ise-kanko.jp/StDocs/rentacycle/
人生初の電動自転車に感動。これだとどこまでもいける気がする。
電動自転車の速さと乗りやすさに感動して、当てもなく伊勢の町を電動自転車で走りまくる。
途中でどこか本当にわからなくなり、これはまずいと慌てて地図を確認しながら旅館の紅葉軒さんのところに戻る。今日は到着日なので比較的ゆっくり。
・2日目
1日目の夜、何故か興奮しすぎて眠れず。狙っていた早朝参拝を見逃す。とはいえ、起きたのは朝の8時半頃。日頃深夜帯に活動している私にしては早い。朝食を頂き、今日の準備。
今回の伊勢滞在の目的は神道に触れる、観察する、学ぶということだった。
イギリス在住が長かった私は、西洋的、東洋的ものの考え方の違いを観察するのが好きで、これらの観察から出る閃きが作品制作の土台の一部となっている。
日本といえば神道。日本的な何かを感じ取れたら嬉しい。
人々が神道という日本特有の信仰とどう関わるかの中からも、人間らしさというものが現れてくる気がしているので、それを今回の伊勢滞在で存分に味わおうと思った。
外宮、内宮を巡りその後、猿田彦神社、月讀宮、倭姫宮、神宮美術館へ。
前回伊勢に来た時は日帰りで外宮と内宮参拝のみだったけど、今回は滞在するので何回もいけるという贅沢に気づく。気になっていたけど行けてなかった猿田彦神社内にも行けた。神社内にアメノウズメの佐瑠女神社があった。なるほど、最近御神紋も面白く拝見してる身としては、猿田彦神社の御神紋は五瓜梅鉢っていうんだー。と面白い。調べてみたらスサノオ系の御神紋。
そして佐瑠女神社は鶴なんだ!ほぉー!と何故か1人でなるほど!と2つの繋がりが分かったようなわかってないような。でも、そんなパズルを考える時間も楽しい。
その後、訪れた月讀宮では読めない漢字の神社あり。
葭原神社だそう。あしはら。
そこで、九州から来られた参拝者さんとお話をすることがあった。
彼の前世はこの神社の宮司さんだったそうだ。そして白蛇さまに関係があるとかなんとか。
そういう話が普通に飛び交っているのが面白い!と思った。普通の席でそんな話をしたらトンデモになるかも知れないけど、ここではそういう話はアリかも知れないと感じる。昔出雲に行った時も、案内役のおじさまが、イザナギ・イザナミのお話をしてくれて、黄泉平坂で2人は別れ、その後イザナギが禊をして生まれた神様の子孫が天皇なんですよ。と神話の世界から少なめなグラデーションを経て現実世界に移行している感じが、日本人って神話の世界と現実世界を行き来できる民族なんだなと感心。これってすごい特技だと海外生活が長い私は思う。
その後、倭姫宮へ。林の中の道が気持ちよき。
神宮美術館の「生きる正倉院ー伊勢神宮と正倉院が紡ぐもの」展へ。
展示物は色んな宝物たち。その中の一つに、昔からある儀式のマニュアル本みたいなのがあった。これらの書物を参考に儀式は代々継承されているようだった。伊勢神宮で執り行われる儀式の記録(やり方)が書かれてはいたが、私にはその儀式の由来を書物からは読み解ききれなかった。継承の仕方はなんとなく分かったけど、やはり「なぜそれをするのか」という由来も知りたい。
今日、伊勢をうろうろ電動自転車で走り回り、各所参拝しながら気づいた事は2つ。1つは一般参拝する人々は作法が皆、微妙にバラバラだった。右足から入るとか左足から入るとか、1礼だ2拍手じゃ、なんじゃかんじゃあるのだろうけど、皆うろ覚えなのか前の人の真似をしたりすることもあるし、お辞儀が変だったり色々。私も前の人の真似をしたりした。わからないからこそ、神様に失礼の無いようにという意識から周りを見て確認しているのかな。あと、お賽銭箱のある場所で、「後ろに人が詰まっているので、広がって参拝してください」と守衛さんに言われていても、みんな真ん中で参拝したがるところとか。(多分真ん中の方が端より神様に近いと思っている)。見えないものに対して「居る」と思える感覚、失礼の無いようにと畏怖の念を抱ける事。神様にみられている感を感じる。お天道様はみているとか日本では言いうけど、つくづくこの民族は愛らしいし、不思議だと感じた。
もう一つの気づきは、伊勢市内の道路沿いにあるどこまでも続く、赤福の広告の多さ。半端ない数でした。さすが、赤福。ええじゃないか。
・3日目
念願の外宮の早朝参拝を敢行!気持ちよかった。薄暗い中に朝早くから大勢の人々が参拝に来ていた。
今日は勉強と作業の日と決める。自転車を返却し、図書館までの道のりの途中、外宮の月夜見宮に寄る。
大きな御神木があり、気が素晴らしかった。以前来た時、私は外宮が好きだと感じたのだけど、今回は倭姫宮とこの月夜見宮がお気に入りになった。
図書館で勉強を始める。さすが伊勢だけに伊勢関係の文献が多い。
面白い、伊勢歴史や神道概説などの本を通読。
旅館に帰ってから、溜まっていた本来の仕事をやろうとするけど早朝参拝の疲れから眠気がひどい。
気付いたら夜9時頃すでに寝ていた模様。
・4日目
起きたらすでに朝食の時間。ご飯を食べ、宿を移る準備。
紅葉軒さん、有難うございました。
おく文さん、よろしくお願いいたします。
今日はイギリス時代に知り合った三重出身のお友達が津市から車で会いに来てくれて、二見へ連れて行ってくれた。まずは気になっていた御塩殿神社に行く。全く誰もいない、とても気持ち良き空間だった。
お塩を生成しているところは、藁葺き屋根になっていて、どことなく昔の、竪穴式住居みたいに見える。
もしかしてお塩売ってるかなと思ったけど、そこはやはり特別なお塩なので一般販売はしていなかった。
海側に続く道も綺麗に砂紋がしてあって綺麗だった。これを毎日やっている人がいるんだ。
お寺の文化だと思っていたけど、神社でもこういう事やるんだ。
その後、二見興玉神社へ。なるほど、本来の参拝はここから始まると。
なんでこの場所なんだろう。我々は車なのですぐ来れたけど、昔の人は一回ここまで来てまた外宮・内宮のほうに戻るってのは大変だっただろうなぁ。
二見興玉神社での海に立つ岩という自然物と、神話と信仰が色々混ざってる技にも面白みを感じる。
その後伊勢といえばうなぎ。という事でうなぎを食べようとするも夜は鰻屋は閉まっているようで、食べられず。諦めて帰宅。友人に聞いたところ、別に三重はうなぎ生産量が多いというわけではなく、三重県人はうなぎが好きなんだということを聞く。へぇー
同時期にワーケーションで来ているクリエイターの方が他に居なかったし、ずっと1人行動だったけど、久しぶりに誰かとご飯が食べれて嬉しかった。
・5日目三宅さんに皇學館大学の先生方を紹介して頂く。クリストファー・メイヨー先生、新田恵三先生、浦野綾子先生、小林郁先生は英国ケント大学と「パフォーマンス」を中心とする共同研究プロジェクトを行っている方々。そのケント大学の方達が先月伊勢に来られた際に行われた神道古典の儀礼、仕組み、伊勢参りや御師の歴史などの講義を聞かせて頂きました。貴重なお時間をどうもありがとうございました。とても素晴らしいインプットができました。
面白かったのは神道古典という書物があって、今の神道はそれが基本になっているという事。
そして神名帳という存在を知れたこと。あと、神道の起源は中国だったり、土着由来だったり色々混ざっているから、これと特定できないこと。
儀式などの由来を知りたかった私は一気にすっきり!!
神道には経典がないという最大の特徴も、さまざまなものを受け入れてきた日本人らしさが出ていると思った。経典がないものを信仰している日本人の受け入れ力を私はすごいと思う!
新田先生が「神道には良くも悪くも経典がない」と仰っていたが、このポイントは制作に影響してきそう。
帰りに自転車を借りてうろうろしながら帰宅。
月夜見宮に行き、神主の方と少しお話しする。
神社の名前が月夜見宮だから月が綺麗に見えるのではないか?明日の月触はここでみれますかー?なんて聞いてみる。月が良く見えるからツキヨミという名前ではないし、暗くなったらここは閉めますよーとのこと。その他にも、神社の歴史など色々教えてもらった。
・6日目
今日は待ちに待った、月蝕の日。皆様ご存知、なんと天王星触と重なるのは約400年ぶりだそう。
しかもこの日に私は御神楽を奉納する日と決めていたのです。このイベントがちょっとした私の儀式と化していまして。月が太陽に隠れて月触で、、それで太陽の神様に奉納するということは、、、えーと、、、、
プラマイゼロになるのか、ダブルポイントになるのかよくわからない。けど、月蝕の日に太陽の神様に奉納というチグハグな感じに興味を唆られ御神楽を奉納しにいざ内宮へ。今日は奉納のために用意していたスーツに身を包む。下宮から歩いて15分くらいの場所に旅館があったので、そこから自転車に乗って伊勢市駅へ。そしてバスに乗っていけばいいかなと思いつつ、やはり電動自転自転車が気持ち良すぎて、そのまま内宮まで自転車で行くことに。2回目の内宮。まさかスーツを着て自転車を漕ぐとは思ってなかった。
参拝を済ませ、神楽殿へ。一番安い御神楽を申し込んだ。
宮司さんに、「参拝はもうお済みですか?」「はい」
「間に合うかなぁ。どうかなぁ。まあ大丈夫そうだし、はいっちゃってください!」
なんと滑り込んだ御神楽には別のグループもおり、私の御神楽は自動的に別大々神楽へアップグレードされていた。
倭舞だけでなく、人長舞、舞楽とも見えてとても良かった。これは音楽や踊りをやっている方々は必見と思った。普通の舞台はお客さんを向いているけど、これは踊りを奉納するので、参拝客も巫女さんたちも皆、神様の方を向いている。衝撃的に素晴らしい体験をした。その空間自体に日本のなんたるかを凝縮したものを見せられた気分になった。
参拝も終わり、一度宿へ戻る。
月蝕を見るために外宮か内宮まで自転車で戻るかと悩んでいたら
旅館の方が親切に月の見える部屋を開けてくれる。
そちらから、旅館の窓からゆっくり月蝕を鑑賞することが出来た。
その後、頂いたチケットを持ってスーパー銭湯、みたすの湯へ。 https://mts-ise.com/yu/
こちらも自転車のように、ワーケーション中はこのチケットを持っていれば何回も行けるという素晴らしい品!
みたすの湯に到着した時もまだ月蝕は続いていて、やっと反対側から月が顔を出し始めた頃だった。
パワーが強いのであまり見ない方が良いとも聞いていたけど、滅多にない機会なので、露天にあった1人で入れるお風呂につかり伊勢での最終日を噛みしめながら月を眺める。なんとも贅沢なひと時だった。しかもそのお風呂の向きがちょうど月の出ている方角だったので、お風呂に浸かりながら上を眺めるとちょうどお月さまがあるというナイススポット。いく分か、月が顔を出す様子を眺める。月を見過ぎたからか、頭が痛くなってきたのだけど、贅沢な気分で夜風にあたりながら性懲りもなく月を見る。
・7日目
お世話になった三宅さんが朝にご挨拶に来てくださって感謝を告げる。
電動自転車を返却した後、駅で赤福を買い今回は特急で京都へ帰京。やはり特急は早かった。
あっという間に京都に到着し、無事私の伊勢ワーケーションは終了したのでした。
尾角 典子(Okaku noriko) アニメーション/コラージュアーティスト
https://www.instagram.com/norikookaku/
https://norikookaku.myportfolio.com
【滞在期間】2022年11月3日〜11月9日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)