ちょちょら組・伊勢忍者キングダム
伊勢観光四日目には「忍者キングダム」を訪れた。地方B級スポットと言われると聞こえが悪いかもしれないが、沖縄公演の際には「美ら海水族館」に目もくれず、「パイナップルパーク」を選ぶ我々にとっては、ぴったりのテーマパークである。
市内から電動自転車を40分漕ぎ続け、二見の「夫婦岩」を経由して到着したのはお昼過ぎ。「忍者キングダムへようこそ」と掲げられた門をくぐると、ぽん太がくすくす笑っている。
「どしたの?」
「全員30歳を越えてるおっさん四人が、自転車で忍者キングダムに入るの面白くないですか?中学生みたいで」
たしかに…
これで「また明日なっ」と解散しようものなら、翌朝学校に通わないと辻褄が合わない。そんな現実に蓋をし、施設入り口に行くと「観光協会の方から連絡いただいてます。どうぞ視察のバッチをつけてお入りください」とありがたい待遇で迎えてもらう。
恐縮しつつ、ならば全力で視察をしようと、「視察」と書かれたバッチを胸に中に入る。
施設内には忍者をもとにしたテーマパークが無数にあり、忍者修行と題したアスレチックパークや謎解き、お化け屋敷や乗馬体験と、忍者からは若干コンセプトから離れているものもあるが、バラエティに富んでいる。隣接された温泉に立ち寄ろうものなら、満足な一日が過ごせること間違いなし。
B級スポットの好きなポイントは、スタッフさんのちょっとした隙のある対応で、すれ違いの忍者に「にんにん」と声をかけると、ちゃんとまぁまぁの間を置いて「ぁぁっ、にんにんっ」と返してくれるそんなゆるさ。
個人的には千葉にある某○ズニーランドの完成された全力さよりも、これくらいの緩さの方が寄席っぽくて身体に合っている。
中でも印象深いのは、居合斬りのゲームコーナーで、訪れた我々を「こんなとこになんの用ですか?」みたいな驚き方で迎えてくれた忍者だ。
ゲームのルールは単純で、竜の口から出たボールを、刀身にあてるというもの。
「やらせてもらいます」
忍者にお願いすると
「はい、ではボール落としますね」
まさかの、忍者自らが竜の後方にまわり手作業でボールを落としていくストロングスタイル。
さすがのB級っぷりだ。
機械になどは頼らない。そしてなぜ、竜なのかの説明もとくにない。そのあと投げた手裏剣の的は鬼の面であったから、そちらの世界観は守られているのだが、こちらは、「竜」
じんわりと、良い。
抜刀して、ボールをあてようとするが、やってみるとかなり難しく、結局一球も当てられなかった。
「全然だめですね、修行して、出直してください」
変に励まさないとこもかなりの好印象。
惜しかったですよ、見込み良いです、なんて歯の浮くような台詞は欲しくないのだ。
続いたかしめは、ミュージカルで刀を使う役所を務めたので自信あり。
言葉通りに5球のうち2球を当て
「どうですか」っと忍者に伺うと
「いや、全然ですね。こんなに大きな的なんだから、すべて当てないと。0も2も同じようなもんですよ」
と、見事なまでのドSぶり。そして
「うちの先生なんて射たれたBB弾を刀身で斬り裂きますからね。このボールとBB弾じゃ大きさ全然違うでしょ。修行して出直してください」
完膚なきまでの決め台詞が清々しい。
手裏剣修行のコーナーでも、冴えない結果でゲームを終える。
くの一スタッフから
「修行して出直してください」
30歳のおじさん四人に容赦ないムチが飛ぶ。
非常に悔しい。必ず上手くなって結果を出し、この塩対応スタッフ達を見返したい。
「頑張りましたね、これで貴方も一流の忍者よ」なぞ褒められようものならば、涙を流して喜んでしまうだろう。
ドM心を満たしてくれる場所である。
ドMの忍者好きには、ぜひお薦めしたい場所である。
ただ、そんな緩さだけでもない。
イベントスペースでの大岡越前と石川五右衛門のお裁きのミニ芝居は見事で、平日の閉園時間もギリギリもあってお客はぼくら四人だけだったが、発声も笑いの取り方も、噺家が恐縮するほどの完成っぷりで驚いた。
「今日は満員ですね。あ、後ろは振り向かなくて良いからね」
「おいおい、お客さん四人って、演者の数が勝ってるじゃねぇか」
「お客さん、ぼっーとしてちゃだめだよ、ここで拍手。芝居にどんどん参加しないと」
五右衛門が台詞の合間に挟むアドリブは、お客様を和ます噺家のそれと全く同じ手口で、役者も頑張ってんだなと親近感を覚える。そんな良い芝居だった。
「にんじゃちゃんねる」なるYouTubeも紹介いただき、登録者数は5000人以上で数十万会再生の動画もざらにある。
みなさまもぜひ。
視察一同大満足で、夕暮れ時分に忍者キングダムをあとにする。
「ここからの帰りは各自勝手で、じゃあまたね~」
それぞれが自転車で門をくぐる。
翌朝、教室で「忍者キングダム面白かったな」と顔を合わせたくなった。
そんなとこ。
文・橘家文吾
ちょちょら組 落語家
橘家文吾 (Tachibanaya Bungo)
https://www.tachibanayabungo.com/
柳亭信楽 (Ryutei Shigaraki)
https://www.shigalucky.com/
三遊亭ぽん太 (Sanyutei Ponta)
https://pontathe2nd.amebaownd.com/
立川かしめ (Tatekawa Kashime)
https://peraichi.com/landing_pages/view/tatekawakashime/
【滞在期間】2022年11月7日〜11月13日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)