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立川寸志の伊勢ばなし⑨伊勢の近現代を「歩く」~河崎の街
河崎の街は、江戸時代に水運で発達した問屋街にルーツを持つ。勢田川の左岸には街並みが保存されていて落ち着いた雰囲気を醸し出しているが、古い蔵を改装したカフェや雑貨店などもあり、伊勢でも静かな注目を集めている地域です。
伊勢河崎商人館は江戸時代中期からの酒問屋の店を修復した資料館。日本最古の紙幣「山田羽書(はがき)」なども展示されています。江戸時代創業ではありますが、川を使った水上輸送は明治から昭和戦前まで地域の物流の主役でしたから、モダニズム漂う暖炉のある応接間など、近現代の面白さも発見できる施設です。
この酒問屋では明治末から昭和50年代までサイダーを製造販売していました。サイダー製造場の後は広場になっており、その隅にサイダーろ過設備が残されています。写真左手がそれです。
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写真を撮り終えた時、「おや? あれは…?」と塀の外の建物の壁に目が行きました。赤茶色の三角のファサードの上部に、あれは――理容店のサインポールでは?
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近づいて見たら間違いなくサインポールでした。サインポールの漆喰壁画、のようですね。後で外へ出て確認したところ、建物はたしかに理容店のようでした。お休みか閉店かは不明でしたが、また一つ伊勢の近現代を発見しました。明治大正の河崎あたりの賑わいとモダンな雰囲気が想像できます。
あの番組も訪れた不思議な陶器店。
伊勢河崎商人館から少し歩いたところにある「和具屋」には近現代の伊勢を象徴する名物があります。
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和具屋は元禄時代(1688~1704)創業と伝わる陶器問屋。店に入ると左右に商品の陶器が陳列販売されています。注目は足元。奥の倉庫から商品を運搬するために使っていたトロッコのレールが残されているのです。
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さらに奥へ進むとそこは「まちかど博物館」部分で、入場料200円が必要です。そこはひときわ大きな蔵になっており、古文書、絵図、古書。古葉書から、家具、工具、民具、生活用品、おもちゃまで、カオスの態で所蔵されている。店部分からややカーブを描いて蔵へ入ってきたレールの終着点には、ありました、運搬用のトロッコ!
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この和具屋にもNHKのあの歴史散策番組は来たようです。行くとこ同じだなあ。また鉄道ファンのレール系マニアの方々も訪れて、製造年などを確認していたとのことです。鉄方面の方でなくても、この伊勢の近現代名所は圧倒されるに違いありません。
立川 寸志(Tatekawa Sunshi) 落語家
【滞在期間】2022年11月25日〜12月1日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)