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フジテレビやり直し記者会見と文春誤報訂正の雑感

記事冒頭の画像は、以下の日本テレビ記事から引用
https://news.ntv.co.jp/category/economy/5d753cfb49214ad58d53eadd25d65345

先日、私は世間を大いに賑わせているフジテレビ問題について、何となく思うところをダラダラと記事に書いた。
この記事は17,000字以上になってしまった。

上記の記事を公開したその日の午後、フジテレビは誰でも参加可能、時間無制限という極めて異例の記者会見を開いた。
また、その直前には、嘉納修治会長と湊浩一社長が辞任を発表した。
この記者会見は、1月17日にフジテレビが開いた記者会見の失敗を受けたもので「やり直し会見」とも呼ばれた。
これは、フジテレビの置かれている厳しい状況を考えればやむを得ない、当然の対応だと思う。

16時から開始した記者会見は、実に10時間30分にも及ぶ異例のものとなった。
これは歴史上、ウクライナのゼレンスキー大統領の12時間の記者会見に次ぐものだという。

この記者会見を受けて、上記記事に少しだけ加筆をしたのだが、他にも書きたいことがあったし、文春の誤報訂正についても触れたいので、改めて記事を投稿することにした。


記者会見でフジテレビの回答で確認するべきポイント

まず、今回の事件について、フジテレビは以下の優先順位で問題が有無を評価しなければならない。

  1. フジテレビは今回の事件において加害者の立場にいたのか

  2. フジテレビは今回の被害者の人権や心情や将来を考慮した対応が取れていたのか

  3. フジテレビの今回の対応はコンプライアンスやガバナンスの点で問題は無かったのか

  4. フジテレビは視聴者やスポンサーや株主に対して誠実な対応が取れたのか

最も優先度が高いのはフジテレビは今回の事件において加害者の立場にいたのかだ。
今回の性トラブル事案について、フジテレビが組織的、あるいはフジテレビ内の未だに処罰されない要職に就く人間が、中居正広の問題行動に直接的な加担では無いにせよ、それを誘導・補助するような共犯的な行動が無かったが問われる。
この問いがYESとなればフジテレビは非倫理的かつ反社会的な企業とみなされ、この後どのような言い訳や釈明、贖罪を行っても、現在の厳しい状況から好転する機会は得られないだろう。
言い換えると、フジテレビが中居正広や被害者を今回のトラブルが起こるように直接的に導いたのであれば、もうフジテレビという企業は存続できないということだ。
フジテレビの記者会見に臨んだ幹部としては、この点はどうしても記者会見ないで釈明するか、少なくとも言質を取られずYESではないと主張し続けなければならなかった。

次に重要なのは被害者の人権であるが、これは性被害という特殊な事案であるからこそ優先される事項だ。
被害者への配慮に欠ける対応は無かったか、被害者より社内権力者の立場や企業利益が優先されることは無かったが問われる。

あとはコンプライアンス、ガバナンス、視聴者等の配慮と続くが、この辺りは多少の失点があってもフジテレビとしては許されるように思う。
このような問題が単独で世間で取り沙汰されたとしても、これまでのテレビ局同様、ここまで大きな問題には至らなかったであろうから、いわば副次的な問題として良いだろう。

これ以外の、今後の再発防止策や、経営状況、経営立て直し策などは、1月27日時点のフジテレビの状況を考えれば、記者会見でフジテレビ幹部から具体的な情報は話せないだろうから記者会見での質問は無駄であるし、そもそもこの手の情報は文面で問い合わせた方が良い内容である。

このように考えると、本来この記者会見でフジテレビ幹部から聞き出すべき事項は以下の優先順位がつけられたはずだ。

  1. 事件当日の密室で開かれた飲み会についてA氏による被害者への誘導や圧力はあったのか

  2. 被害者がフジテレビの主要な人物に怒りをあらわす報道があるのはなぜか?フジテレビ側は被害者にどのような対応をしてきたのか

  3. 事件発生後も中居正広をフジテレビの番組で起用し続けたのはなぜか?急な降板は不自然だとしても番組改編時に降板させることもできたのでは

  4. フジテレビは今回事件の犯罪性についてどの程度認知していたのか?警察に通報することは考慮しなかったのか

  5. 今回の事件についてフジテレビの対応はコンプライアンスルールおよびガバナンス規定に沿ったものであったのか

「1.A氏による被害者への圧力と誘導」は、フジテレビ自体の加害性が問われる最も重要な点であり、フジテレビもそれはわかっているようで、「事件当日の」A氏の関与は一貫して否定している。

「2. 被害者への配慮」は、やはり今回の騒動は被害者自身が守秘義務により事件の真相を語らないにせよ、泣き寝入りはしなかったことが原因にあるし、被害者がフジテレビへの憤りも週刊誌記事の中で表していることから、フジテレビの被害者への対応に問題がなかったかが問われる。

「3. 事件後の中居正広の起用」は、被害者への配慮とも関係するが、公共の電波を使い多数のスポンサーの提供で流れたコンテンツに、人権侵害を起こした人間を隠したまま起用し続けたという、テレビ局特有の問題が問われる。
また、事件を隠蔽してでも中居正広という視聴率をとれるスターを使い続けたかったというフジテレビに向けられた疑惑もある。

おそらくここまでの、いわゆるフジテレビの組織的加害性被害者人権への配慮に係る具体的な疑惑が、フジテレビがテレビ局とし未曾有の制裁を現在進行形で受け続ける原因となる問題であり、この3点を記者会見で記者達は真相を明らかにする必要があった。
逆にフジテレビにとっては、この3点で十分な釈明ができれば、フジテレビは社会的信用を回復できただろう。

残りの「4. 犯罪性の認知」「5. コンプライアンスとガバナンス」については、確かに企業として大きな問題であるが、今回の騒動のようにフジテレビの存亡を揺るがすまでの問題とも考えづらい。
この程度であれば、過去にフジテレビに限らず他のテレビ局もやってきたし、視聴者の多くは心情的に許せなかったかもしれないが、程々の対応でテレビ局自体は大きな損害を被らずに事業を継続することができたからだ。

他にも視聴者大衆の関心事として、日枝相談役取締役の責任と進退の問題などもあったが、これは私個人の所感としては大衆の権力者への嫉妬の類で、今回の騒動の本質ではないように思われた。

記者会見の結果

実際の記者会見を見るに、結論を言ってしまえば、上記に挙げた3つの疑惑について、記者会見上でこれまでフジテレビが主張する以上の大きな情報は出てこなかったと思われた。

この記者会見について他にも、一部(とはいえかなりの割合の)記者の質の低さや自論に偏った傲慢さ、港社長の会社代表としての受け答えのおぼつかなさ、被害者のプライバシーへの配慮のなさなど、憤りを含めて色々と思うことはあるが、これらはすでに世間で語られている意見とあまり相違もないので、この記事であらためて語らなくても良いように思える。

あらためて、上記の3つの疑惑に絞って、フジテレビの回答はどうだったのかと、結局フジテレビはどのような問題を残しているかを、私個人の解釈を書いてみたい。

A氏による被害者への圧力と誘導(文春の誤報訂正についても含む)

これについてのフジテレビの主張は一貫していて、当日のA氏の関与はなかったとしている。
この疑惑は、週刊文春の報道においても、12月25日の記事ではA氏の関与を示す以下の記述から発している。

 X子さんの知人が打ち明ける。
あの日、X子は中居さん、A氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました。多忙な日々に疲弊していた彼女は乗り気ではなかったのですが、『Aさんに言われたからには断れないよね』と、参加することにしたのです」
 なぜなら、X子さんにとってA氏は仕事上の決定権を握る、いわば上位の立場にあった。そして、悪夢のような出来事が起こる。

引用記事は下記リンク(太字は筆者が追加)

しかし、この記事をよく読むと「あの日、X子は中居さん、A氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました」とあり、「誰が」被害者であるX子さんを誘ったのかは明らかにしておらず、上位の立場であるA氏によって食事に誘われたかのようにミスリードを誘っている。

さらに、週刊文春1月7日の記事では、以下のように当日の食事が中居正広の誘いであったものが明記されている。

あの日、X子は中居さんからA氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました。中居さんと仕事上で面識はありましたが、A氏から紹介され、それまでに何度か食事をしています。彼女にとって中居さんやA氏は仕事上の決定権を握る、いわば力関係が上の立場であり、断れるわけがない。彼女は『行くしかない』と、指定された中居さんの自宅マンションに行ったのです」(X子さんの別の知人)

引用記事は下記リンク(太字は筆者が追加)

ただし、この週刊文春1月7日の記事では、上記箇所の前にもA氏の影響について長々と書かれている上、上記内も直接中居正広から誘われたことよりも、A氏の影響についての記述が大部分を占め、明らかにミスリードを誘う文章になっていた。

記者会見においても、港社長は当日のA氏の関与を否定していたが、その根拠を内部の聞き取りとメール履歴の確認という、あまり確度の高くない調査であると話してしまったことで、会見内でA氏の関与についての疑惑を晴らすことはできなかったように思う。
もし、港社長から上記のような週刊文春の記事の問題点を指摘すれば、だいぶ趨勢は変わったように思えるが、そのような対応はなされなかった。

記者会見の翌日、週刊文春は訂正記事を出している。

 昨年12月26日発売号では、事件当日の会食について「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていました。しかし、その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の”延長”と認識していた」ということが判明したため、1月8日発売号以降は、その後の取材成果を踏まえた内容を報じています。
 12月26日発売号に掲載された記事は現在でも「週刊文春 電子版」で読むことができますが、お詫びした上で、修正を追記しています。
 これまで報じたように、事件直前A氏はX子さんを中居氏宅でのバーベキューに連れて行くなどしています。またX子さんも小誌の取材に対して、「(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」と証言しています。以上の経緯からA氏が件のトラブルに関与した事実は変わらないと考えています。

引用記事は下記リンク

結局、事件当日の問題飲み会について、中居正広と被害者が2人きりになるように仕組んだ第三者の人間は、A氏を含めておらず、事件の直接的な原因は中居正広にあったと見るべきだろう。

そもそも、このテレビ局員が意図的に男女を二人きりにして、男性に女性を「上納」するシステムは、以下の「閨閥 マスコミを支配しようとした男」という小説で、頼近美津子、鹿内春雄、露木茂の三名の会食中に、露木茂だけが中座し、頼近美津子と鹿内春雄の二人きりにしたエピソードが掘り起こされて、真実味を増した憶測になった。

実際にテレビ業界内で、このような「上納」は習慣化していたのかもしれないが、少なくとも今回の事件については「上納」というアクションはなかった。

仮にこの「上納」システムが女性に対する強制性を持って常習化していれば、今回の騒動を機に被害を受けた女性が数十人単位で出てきてもおかしくないが、数人の匿名の告発者がいるだけだったところを見るに、案外、このシステムはいわゆる男女が恋愛関係に至るきっかけの「知人の紹介」程度のもので、高収入の関係者が多いテレビ業界という村社会では、一般人には計り知れないバランスでうまく回っていたのではないだろうか。

話を戻すと、結局のところ、フジテレビが今回の事件について共犯者の立場として関わった可能性はほぼ無いように思える。
ただし、週刊文春の記事でもあるように、被害者を二人きりの中居正広の部屋に向かわせた会社の権限を傘にした間接的な圧力があったのかどうかは、記者会見上でも明らかにならなかったし、第三者委員会の調査がある以上、記者会見の場でフジテレビ幹部から明言
はできなかっただろう。

これは、第三者委員会の調査結果を待つしかない。

被害者への配慮

事件後のフジテレビの被害者に対する対応について、質問を投げた記者の関心の低さもあり、あまり多くの情報は得られなかった。
あの場にいた記者の多くも、本心では被害者の心情にはあまり関心がないように見えた。

わかったのは、事件後に被害者とのコミュニケーションはあまり取れていなかったのと、被害者が仕事を辞める際に港社長との面会の機会があったが、港社長から被害者への謝罪はなかったことくらいだと思われる。

少なくとも、週刊文春の記事の内容では、被害者とされるX子はフジテレビへの憤りをあらわにしており、この点のすれ違いが解消する目処は立っていないように見えた。

ちなみに、今回のフジテレビの一連の対応について、少なくとも週刊誌報道が出るまでの対応に限定すれば、フジテレビ側に非は無かったは言い過ぎでも、まあ普通はリスク覚悟でこうするよな、と個人的には思っている。
組織内において性に関する事案が発生した場合、コンプライアンスより被害者保護を優先する観点からやはり通常の犯罪とは異なり内部にも事案の秘匿は行うだろうし、事案を推測させるような動きも控えるだろう。
港社長がこの事案を知った時点で、すでに中居正広と被害者の和解が成立済だったとすると、被害者に対してこの事案をどの程度触れて良いものなのか、被害者がフジテレビの業務に復帰するのであれば、被害者を受け入れる企業としてはもう何も無かったように振る舞った方が良いかも、という判断だって十分にあり得る。
その意味で一般企業に置き換えればフジテレビの対応は満点とはいえないが及第点の対応は取っていたように思うが、加害者が人気タレント、被害者が(一部の憶測では)女子アナウンサーという特殊な事情が、この問題を複雑にしてしまったように思える。

事件後の中居正広の起用

この点は、スポンサーや視聴者を含む多くの人間の関心事であり、フジテレビ内部からも事件後に中居正広を起用した番組スタッフから不満が出ている点で、記者会見で具体的な経緯が説明されるべき事項であった。

記者会見では、港社長から「被害者を刺激しないため」「今回の事案を知る人間はごく一部のみ」という理由のみで、何度かの番組改編、スポットでの番組起用で、どのようなプロセスを経て中居正広を起用し続けたのか、起用をやめる判断を取れなかったのかという具体的な説明はなかったように見えた。

この件の疑惑は「フジテレビは、被害者心情や社会的倫理よりも、視聴率を優先したのではないか」という点に尽きるし、この質問も記者会見中に記者からは出ていたが、港社長は否定した。
否定はしたが、やはり具体的な決定プロセスが示されていないので、疑惑が晴らされたようには思えなかったし、おそらくこれは多くの視聴者やスポンサーも同じように捉えただろう。

記者会見の影響と今後の展開

止まらないスポンサー離れ

今回の記者会見が成功であったか失敗であったかの基準は、やはり今回の件でフジテレビから離れてしまったスポンサーが戻ってくるかどうかだろう。
これは、記者会見から二日経った時点で動きが出ている。

記者会見後、フジテレビのスポンサーを継続していた西松屋がCM出稿の停止を発表した。

また、キリンホールディングはフジテレビCM出稿キャンセルの継続を発表した。

このように現時点では、今回の記者会見の結果を見るに、フジテレビの厳しい状況は今後も続くとみて良いと思う。

希望があるとすれば、週刊文春の記事訂正で少しは世間の潮流が変わるかもしれないが、今のところその様子は見られない。

今後のフジテレビがすべきアクション

では、フジテレビはこれから先どうすれば良いの?という問題がある。

第三者委員会の調査結果を公表することもあるし、事前に女性を守るための独自ルールの制定もあるだろう。これは記者会見内でフジテレビ幹部からも実施を明言している。

しかし、今回の騒動の背景には、これまでのフジテレビの数々の不祥事、不適切報道、例を挙げれば日本人の心情を無視するような韓国優先の番組作りなどがあったと思われる。
このような過去のフジテレビの所業についても、これを機に検証番組を作成して、どのようなプロセスや内部社員の心情や力関係があったのかを公開するべきだろう。
そして、改めて視聴者が求める番組作りができる体制への変革が必要だと思われる。

また、フジテレビと被害者の間についての和解も急務であるだろう。
特に先の週刊文春の記事訂正で、大衆が被害者側への反感を持つような事態もあり得る状況である。
さらに言えば、被害者と憶測されている女性は社会への発信を続けており、今後の展開次第で被害者に攻撃が向く可能性は常にあることから、被害者保護の観点でも被害者が納得する落とし所をフジテレビ側から被害者へ提供するべきである。
フジテレビが被害者へ具体的に何を差し出すかであるが、問題のA氏が無事なままでの和解は被害者の心情的に難しいだろうから、A氏への何らかの制裁は必要になるだろう。
フジテレビの信頼回復のためにも、被害者と何らかの形で和解をすることが、フジテレビと世間との手打ちにもなるだろう。

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