【ネタバレ注意】『ミッドサマー/ミッドソマー』考察、解説ᛞᚱ
はじめまして。
ミッドソマー好きな余り、ノートでアカウント作って、初めてちゃんとまとめた考察を投稿するほどのミッドソマーオタク、漁火です。
ミッドソマー観た人向けのネタバレ満載考察です。
伏線&ディティールや、運用されたルーン文字、北欧神話にまつわる話、北欧文化......などについて解説します!順番ばらばら。
過激・残酷描写シーンの画像も一応入れてあるので注意!
では、大丈夫な人はどうぞご覧ください。
冒頭の絵
開幕で最大級のネタバレをしてくるという。でもまあ、ちらっと見ただけじゃわかんないもんな!
この絵で注目したいのは、ペレを笛吹き男として描いてるところ。笛吹き男のおとぎ話は、子供たちが笛吹き男の後に付いてって二度と戻れなくなった話。おとぎ話では子供達が、ミッドソマーではダニー達が、ということだ。
ちなみにここのBGM名は「Prophesy」、つまり予言。BGMにまでサプライス要素(?)を仕込んでくるとはね...。
ところで骸骨の両側にいる二羽のカラスだが、ただ死の象徴として描かれているかもしれないけど、フギンとムニンである可能性も。
フギンとムニンとは、世界中を飛び回って様々な情報を主のオーディンに伝える二羽のワタリガラス。彼らを従えている故に、オーディンは鴉神と呼ばれることも。
そしてこの絵が2つに分かれると、雪に覆われた森が現れる。「真夏」(夏至祭)というタイトルなのに、真冬からすべてが始まる。この構築が美しい。
なぜかというなら、上の絵の通りに、この映画は、ダニーが、「絶望の冬」から「狂喜の夏」へ辿り着くまでの成行きであり、彼女の「死」んだ心が「生」き返るまでの旅でもあるからだ。
ダニーの両親の死
ダニーが妹のこと心配して電話をかけたが出なかった両親。ベッドの上でぐっすり寝ているだけのようだが、実はこのシーンでは微かにガス音が聞こえる。この時点で既に妹の巻き込み自殺は実行中。
...やがて家族の死を告知され、泣き叫んで、絶望を迎えるダニー。ひたすら彼女をなだめるクリスチャン。そこから画面は雪降る真っ黒な夜へ移り、音楽がぱっと終われば、明るい夏空が映る。ミッドソマーの始まりである。
今まで観たホラー映画の中で、間違いなく一番ヤバかったオープニングだ。まじで脳髄に来る。
追記:そういえば裏に置かれているダニーの写真だけど、花冠を被ってるんだよねー…。
ダニーの部屋に飾ってる絵
家族を失ってから数ヶ月が過ぎ、ひとりベッドの上に横たわるダニー。同時に画面に映る絵は、まさの伏線だった。
この絵は、スウェーデン籍の画家、ヨン・バウエルによる作品。
王冠を戴く金髪の少女とクマ。そう、まさにのちにメイクイーンになるダニーと、熊の皮に詰め込まれるクリスチャンじゃないか!!!
よくもまあ、こんなにもぴったりな絵を見つけられたな...。それともこの絵を参考にしてシナリオを作ったのだろうか。
「オズの魔法使い」とミッドサマー
これに関しては、アリ監督本人も認めているが(実際に本作を「変態のためのオズの魔法使い」と自分で呼んでいた…)、実は、ミッドサマーって、よく観れば「オズの魔法使い」そのまんまである。
まず、マーク宅には、はい、これ。
そう、カカシとドロシーのワンちゃんトトのぬいぐるみがある。あと、パーティーシーンでは、カカシの絵が冷凍庫の上に飾ってあるのがぼんやりと見える。
そしてダニーたちは、ホルガに着く前には、黄色い花の咲き乱れる道を歩いていた。
まさに、「オズの魔法使い」の、黄色いレンガ道ではないか!
また、ダニー・クリスチャン・マーク・ジョシュは、それぞれ、ドロシー・臆病なライオン・カカシ・ブリキの木こりに当てはまる。
・「家に帰りたい」(=家族の元に帰りたい)ダニー
・「弱虫」で、ダニーと別れたくても別れる勇気のない、クリスチャン
・「脳」のない、アホのマーク
・ホルガの規律を尊重する「心」のないジョシュ
「家」、「勇気」、「脳」、「心」。「オズの魔法使い」のメインキャラクターズの欲しがるもの(必要とするもの)が、そのままダニーたち四人に反映されているし、その結末にも影響をあたえている。
カカシにされたマークはもちろん、他にもクリスチャンはバーサーカーの化身として、熊(ライオンと同じくして凶暴な獣)の皮に詰められた。バーサーカーとは、熊の皮をかぶった、畏れの知らぬ「勇気」の象徴として語られる。ずばり、臆病なライオンというモチーフと、ヴァイキングバーサーカーのモチーフとを合わせたわけだ。アリ監督すごい。
真っ逆さまショット
スウェーデンに到着し、目的地、ホルガ(Hårga)への途中。息が詰まるほどに重厚な音楽に、真っ逆さまに撮られる道路。
この表現はアリ監督の素晴らしい前作、へレディタリー/継承でも使われていた。アリ作品のここから全てが狂っていくことの合図だろうか。
幻覚
誰も気づくと勝手に思ってるんだけど、マッシュルームをキメたダニーたちの状態を表すべく、木とか花とかがしょっちゅうゆらゆらと歪んでる。
例えばペレにキスされる際に、ダニーの花冠にある、呼吸するような花や、ダニーの手足に生えてくる草などなど。
これはミッドサマーのVFX製作者の一人が、You Tubeにうpした映像だけど、1:17からのシーンには鳥肌が立った。なぜなら、全ッッッ然気づかなかったから。
女の子が花びらを撒くのと同時に、存在するはずのない花が生えてくるとか。こういう細かいところで、アリ監督の美に対する追求が覗かれる。好き。
メイポール
いよいよホルガに着いたダニー達は、祭りの始まりを宣言する儀式に立ち会う。儀式の場所には大きなメイポールが佇んでる。
メイポールは現実のミッドソマーにおいて象徴的な物。この映画においても変わりはない。
メイポールは、形は男性器を表していて、生命と豊穣の象徴だそうだ。しかし、ホルガのメイポールは普段のと少し違ってる。
ルーン文字が飾ってる。ペレも言ってたが、ホルガの人々はルーンの魔力を信じており、ルーンについて学び、日常的に運用してる。
この2つのルーンはᚠ(Fehu/フェフ)とᚱ(Raidho/ライドー)。2つともこの映画において大きな意味を成すルーンだ。
まずは「ᚠ」だが、このルーンは「家畜・富」を意味するルーン。
大自然と共に生きるホルガの人々にとって、家畜はとても大事に違いないし、村の生活を維持するための富も必要だろうね。
そして「ᚱ」は、「旅・車輪・乗り物」を意味する。しかもこの「旅」とは物理的な旅行のみならず、精神上の旅をも指してる。
ディレクターズカットにあるこの、初めてのお食事シーンでは、見ての通り、皆「ᚱ」の形に並んで座っている。
事実上、ホルガの若者たちは一定の年齢になると、「Pilgrimage」、外地へ巡礼の旅を出なければならないだそうだ。だからこそ、この旅を意味するルーンが、彼らにとって大切なお守りだろう。
「治癒」のルーン?
この壁画の左側に飾ってる3つのルーンの中、一番下のサボテンみたいなやつ。これ、何度もミッドサマーに出ているが、全然なんのルーンなのか判明できなくて手を焼いたよね。友人と午前三時までずっと探してやっと、「治癒」のバインドルーンだ、という情報を手に入れた。これ以外の情報全く無いんで、読み方もわからない。【求】このルーンの更なる情報【譲】なし
バインドルーンとは、2種類かそれ以上のルーンを組み合わせた、まあルーンシジルみたいなものと言えるだろう。
このルーンは、飛び降り儀式の老人の墓石にもあるし、三角の聖殿の正面にも刻んである(よく見ないとわからないけど…)。
治癒のルーンだとすると、これを聖殿に飾るのは、クリスチャンたち生贄は、死ぬことと、至高神に捧げられることとで、「癒やされた」ことを示すためだろう。
ホルガの人々にとって、死とは栄誉であり、救済なのだから。
聖殿とヴァルクナット
これに関しては、あくまで私個人の憶測にすぎないが、聖殿を三角形にするのは、「ヴァルクナット(Valknut)」を象徴するためなのかと。
ヴァルクナットとは、三角形を3つ繋げて成る、とても古いヴァイキングの符号。黄色の聖殿も、三角形の集合。
また、古老なだけあって、ヴァルクナットに関する研究も少ないが、オーディンと関係ある符号だと考えられる。ヴァルク(Valk)は、ヴァルキュリア(Valkyrie)のと共通していて、「戦死者(それとも戦士)」を意味するそうだ。
上に載せてる画像は、ストーラ・ハマール石碑、もしくは絵画石碑・刻画石碑の刻画の一部。この刻画は、ヴァイキングの戦士が、戦虜(せんりょ)を、「血のワシ」にして、オーディンに捧げようとする話を描いたものと言われることがある。つまりヴァルクナットは、古代の献祭とも関係のあるシンボルかもしれない。
それなら、ヴァルクナットを倣って聖殿を造るのは至って合理だろう。
「9」という数字
9。この数字はミッドソマーに繰り返して出ている。例えば:
・90年に一度の大祭
・9日間続くお祭り
・石碑の上の9つのルーン
・9人の生贄
これらは全部、北欧神話にちなんで、9と関連しているのだ。
9という数字は北欧神話の中でも重要なポジションにある。まず、ユグドラシルによって、9つの世界は支えられてる。
また、「オーディンはルーン文字の秘密を得るために、ユグドラシルの木で首を吊り、グングニルに突き刺されたまま、9日9夜、自分を最高神オーディン(つまり自分自身)に捧げたという」(Wikipediaより引用)。ここでも9が登場。
ちなみにこの神話は、↓の壁画に描かれてる。
上下にある、♢に☓をつけたような符号は、ほかでもなく神槍グングニルを表する符号で、聖殿の中にもこの符号が大きく飾ってある。
生贄達は最高神オーディンへ捧げられる、と示しているのだ。
扉の上のルーンシジル
マーヤ初登場のときに映ってた、扉の上のシジル。うわぁ画質悪ッ。
このシジルは多分、ᛏ(Tiwaz/テイワズ)とᛦ(Algiz/アルジズ)とᛚ(Laguz/ラーグ)、この3つのルーンで組成されてる。
「ᛏ」は、「軍神テュール・勝利・正義・勇気・犠牲」を象徴する、とても男性的なルーンで、「エネルギー・やる気・活力」を与えるという。
「ᛦ」は「守護・保護」のルーン。対象を苦痛から免れさせるルーンである。
そして、性交の直前にクリスチャンが着替えた服には、丁度この2つの刺繍がついてる!
つまり、クリスチャンを象徴するルーンだ!ここの「ᛏ」はやる気を与えるためというか、ヤ♂る気を与えるためかな...。
じゃあ「ᛚ」はどうだろう。
「ᛚ」は「水・感性・気持ち・女性」を意味するルーン。水と女性、というキーワードに対応する壁画はこちら:
シナリオにはあったが、本編に入らなかった水の儀式。その儀式を描く壁画だ。「女性」たちが松明を持ち、裸になって「水」のなかに入る儀式。そう、ホルガ式の「ᛚ」を表現した儀式だ。
...ってことは、扉のこのシジルは、クリスチャンとマーヤの壮絶(?)なア♂レの前触れだったんだね。
で、それについてだけど、おセッセはホラー映画のお約束かもしれないが、こんなにもきっっっしょいセックスシーンは初めてだぜ、アリ・アスターさん。実際に観てて一番キツかったシーンがそこだったし。
壁画に隠された秘密・伏線
ダニー達が泊まる青年ハウスは、隅から隅まで壁画で飾られてる。こんなきれいな部屋に一度は住んでみたいよね。しかし、これらはなんと、ただの飾りじゃなく、実はほとんど伏線だったという。やべえ.......。
まずはこれ。血のワシ(Blood Eagle)の壁画。
血のワシとは、ヴァイキングが行っていた儀式的な処刑法の一つだと言われ、「刃物で犠牲者の肋骨を脊椎から切り離し、生きたまま肺を体外に引きずりだして翼のように広げる」(Wikipediaより引用)という、世にも恐ろしい処刑法。検索してはいけない言葉に入っても全然おかしくないレベル。
そして、生贄の一人となったサイモンの末路でもあった。かわいそう。
小さめだけど飛び降りの儀式(=Ättestupan/エテッシュテュッパン)の壁画も。
そしてこれは、まあ、明らかにアレだよね。クリスチャンとマーヤのアレ。恐らく胸を張ってホラー史上1位のキモさを誇ってもよしな、アレ。
しかも、この絵にはお馴染み(?)のグングニルのシンボルも描かれてる。クリスチャンが生贄になっちゃうことを暗示してるんだな。
ちなみにこの絵は、ちょうどクリスチャンの寝床のところに置かれている。
で、ダニーが寝る前に見てたこの壁画なんだけど、どうやらこれもエテッシュテュッパンを表する壁画だったみたい。真ん中にいるのは崖から飛び降りる老人。手首を切っているのは、石碑に血を塗るためだな...。
そして両側に咲いてる花は再生と豊穣の象徴、とのこと。
あ、ここにもクリスチャンがいたんだ。
ウプサラの神殿、そしてブロット
この壁画は、なにを象徴しているの?ってずっと考えてたけど、北欧神話とか宗教とか色々調べる途中で、ふと「ウプサラの神殿」というキーワードを見つけた。
ウプサラの神殿は、かつて存在していた、北欧における異教信仰の聖地をいう(Wikipediaより引用)。それは現在のスウェーデンのガムラ・ウプサラ(スウェーデン語で「古ウプサラ」の意)にあったとされている(Wikipediaより引用)。この神殿の祭神は、トール、オーディン、豊穣神フレイの3柱。北欧原始宗教の中心地と言っても過言…ではない。危うくまた過言デッキ使っちゃうところだった。
これがウプサラの神殿を描いた画像。外見上、壁画と似てると思うんだよね。
中世ドイツの年代記編者の一人であるブルーメンのアダムによる記述では、この神殿はまるで黄金で造られておる、と書いてある。平和と正義と真実を司る司法神フォルセティの金色に輝く宮殿「グリトニル」と、なんとも酷似してる。もしかしたら、ホルガの聖殿が黄色いのは、このためかも。
ブルーメンのアダムは引き続いて、この神殿では、「9年ごとにスウェーデンのあらゆる地方の共同体の祝祭が開催される」、そして、「この祝祭では、(人間を含めて)あらつる生物の雄が9体ずつ犠牲にされる」と書いてる。この犠牲祭のことは、ブロット(Blót)と呼ぶそうだ。
…え?9年に一度、9人が生贄にされちゃう…?大祭の間隔が10分の1に短縮されたミッサマやんけ…
さらに、これら犠牲とされた生き物は、神殿の側の木立ちにかけられ、その木からぶら下げるという。
ーーあったわ…。
そう、ホルガでも、動物を殺しては生贄にする習俗がある。なぜ知ってるって?脚本でそう書いてるからだよ。
この壁画は、ウプサラの神殿で行われるブロットをそのまま描いてるんだ。そして真ん中にある立派(?)な花草は、ウプサラの神殿の側にあるという、いつでも緑の聖なる木を表徴したものかも。
ブロットは、冬至か春分に行われるとされるが、ミッドサマーは、間違いなくブロットを参考にしてるんだな。
食卓
明るい空の下で楽しい朝食。まだエテッシュッテュパンについて何も聞かされていないダニー達。かわいそう。
まあそれはさておき、食卓なんだけど、これはルーン文字、ᛟ(Odal/オセル)の形にしてる。
「ᛟ」は「相続された財産/土地・故郷・所有物」を意味するルーン。
ホルガの人々は、代々この土地で過ごしてきた。そしてこれからも受け継がれていく。ホルガの生活と精神をよく表したルーンだね。
エテッシュッテュパン
最初のクライマックス、エテッシュッテュパンがついに。ここで少しエテッシュッテュパンについて説明するよ。
「エテッシュッテュパン」とは、日本で言うと姥捨山のようなもん。ただ、古代スウェーデンの老人たちは、山で餓死するより、潔い死を迎えたいようだ。儀式的な飛び降り自殺で。現在のスウェーデンにも、エテッシュッテュパンと命名された崖が所々あるっぽい。本当かどうかは知らんけど。
石碑のルーン
もうこの石碑はミッドソマーの目玉の一つと言っても、過言。(過言デッキ使うな)まあでも正直この画面好きすぎてツイッターのアイコンにしてたよ。(いまのアイコンはでびでび・でびるだけど←さりげなく推しVを宣伝していくスタイル)病んでるわ。
で、見ての通り、石碑にはルーンが9つ刻まれてる。
上にも紹介した「ᛦ」、「ᚱ」、「ᛏ」、「ᛚ」以外に、
「贈り物」のルーン、そして幸福な結末を象徴する ᚷ(Gyfu/ギュフ)、それから「忍耐・制限・需要」を意味する ᚾ(Nied/ニイド)
の2つがある。
こうして、この9つのルーンによってスペルは組み立てられ、各々の魔力と意味を組み合わせ、エテッシュッテュパンを執り行う老婦人への加護となるだろう。
追記:真ん中の下のルーンを、「秘密、隠された知識、秘奥、運命、未知な力」のルーン、ᛈ(Peortho/ペースロ)としたのは間違いだった。けど、「ᛈ」はミッドサマーには運用されている。たとえば90年に一度だけの生贄候補ガチャで使われる球には、「ᛈ」が描かれている。ほかにもいくつかの壁画に見られる。
ダニーの悪夢
エテッシュッテュパンが終わった後の夜。
実は、ディレクターズカットによると、ダニーはこの夜に、クリスチャンと喧嘩をしていた。一刻も早く去りたいダニーと、論文書くからここに留まるというクリスチャン。クリスチャンは喧嘩中、ダニーに対して、「アメリカに帰りたいなら一人で帰ってろ。俺はここに留まるから」と言って、ダニーを取り残してその場を去った。とんだクズ野郎やん。最後ああなったの全部自業自得やで。
そんなこともあって、精神的に限界まで追い詰められたダニーは悪夢を見る。
悪夢は、クリスチャン達にホルガに自分だけが取り残されちゃう夢から始まる。そして口から黒い煙と聞こえない叫びを吹き出すダニー。
顔面を破壊される老人。エテッシュッテュパンの場所に、自分だけを残してあの世に行ってた家族。
↑のこのシーンを見ると息が詰まっちゃいません?私は詰まっちゃいます。(エビオ肯定文)
へレディタリーでもこうだったが、アリ監督は悪夢で人物の本当の不安と抱える恐怖を示す癖があるのかもね。
じゃあこの悪夢で示されたダニーの最大の不安とは?それは、「残される、見捨てられることに対する不安」だ。
一気に家族を全員失ったダニーは、無意識に、エテッシュッテュパンを行う老人に自分の両親と妹の面影を重ねたんだろう。家族の死、それはダニーにとっての最大のトラウマ。だからエテッシュッテュパンの後に彼女は人知れずに泣き叫んでた。
家族(というか妹)は彼女を一人ぼっちにした。そして彼女は、また一人になっちゃうのが怖い。
クリスチャンから安心感を全く感じれないし、マークやジョシュとも特に仲がいいわけでもないし、ペレを完全に信用することも出来ない上に妙な風習を持つホルガにいる。
疎外感に苛まれて苛まれていたたまれない。だから、情熱的に彼女を家族として取り込もうとするホルガの人々に、やがて流されるがままになってしまったんだろう。
恋のスペル
同じ夜、皆がぐっすり寝てる中。マーヤ、動きます!
この時に彼女がクリスチャンのベッドの下にひっそり入れたのは、ᛒ(Berkanan/ベルカナ)が刻まれた、彼女のお手作りラブラブマジカルスペルだった。
「ᛒ」は、「生育、誕生、新生」を象徴するルーン。赤ちゃんがほしいマーヤに相応しいルーンだよね。また、「ᛒ」自体は、「カバノキ」という意味。なので、呪物に使われるのは恐らく樺の木片だと思う。
恋のスペルだけじゃなく、クリスチャンのごちそうにとんでもない加工をするマーヤ。まさに行動力の化身。
スキン・ザ・フールとネクロパンツ
ホルガのご先祖の木におしっこするという許すまじ暴行を加えたマーク。彼を待っていた残酷すぎる結末とは一体...?
ホルガに着いたばっかりの時。コニーはイングマに、「あそこの子供達はなに遊んでるの」って聞いた。そしたらイングマは、「スキン・ザ・フール」って答えた。で、この「アホの皮を剥ぐ」こそ、マークの結末だった。
冒頭の壁画をもう一度見てみよう。あの絵にも、そして最後に焼かれちゃう前にも、彼はピエロ(=馬鹿者)の装束になってる。
キレイな剥製にされちゃったね。
剥製にされただけでなく、一回被られたんだ。皮が。
私、魔女のキキ!こっちはマークの皮を被ってるサイコパス!
ジョシュが殺される前に見たのは、マークの皮で出来たお面を被っているウーフ。イングマ以外のもう一人の生贄志願者。
それと、この時、ウーフは下半身丸出しのように見えるけど、実はマークの皮で出来たパンツを履いている(と思う)。ヒャッハー!最高に狂ってやがってんな!
見やすい(当社比)ようにするとこう。足とスネの間を分ける明らかな線が見える。しかもお○ん○んぷるんぷるんさせてるんだし。生皮履いてるっのがはっきりわかんだね。
で、なぜ死人の皮を履くのか(死人の皮のお面を被ってる時点でアウトなんだけど)。それは、マークの下半身は、実在するヴァイキングの伝統的な魔術アイテム、「ネクロパンツ」にされたからだ。
この壁画に描かれてるのがネクロパンツ。
ネクロパンツとは、死んだばっかの男性の下半身の皮膚を、丸ごと剥ぎ取り、パンツにして作られる。伝承によると、持ち主に尽くすこと無い富をもたらしてくれるという、一家に一着は欲しい、素敵なマジックアイテムだ。
また、ネクロパンツを作るには、パンツにされる人から同意を得なくてはならない。いやいやマークがそんな要求に首を頷くわけないやろ......って思ってたけど、彼は自分が狙ってるイングヤーに連れ去られたし、ホルガにはドラッグならいくらでもあるしで、不可能でもないな...。
追記:アリ監督によれば、これは確かにネクロパンツなのだが、ヴァイキングの戦士たちの、戦死した敵の皮を履くという伝統によるらしい。この伝統(というか伝承)に関する資料は見つからなかったが、これでイングヤーがその後、顔に傷を負ってるのに納得がいく。おそらくマーク反抗して、負傷したのだろう。
ググればネクロパンツの実物の写真が出てくるので、気になる人はぜひ(?)
実はスタンバイがいた
ルビーラードを盗撮するためにひっそりルビーラードを保存する書庫に潜入するジョシュ。そこで彼を待っていたのは......
私、魔女のキキ!こっちはマークの皮を被ってるサイコパス!(二番煎じ)
ところが、ほとんど気づかれないことに、
ジョシュの頭に無慈悲な木槌を振り降ろした者は、既に画面に映ってた。
いい子の皆、盗撮しちゃダメだぞ!
ジョシュが偽マークの足音を聞き、驚いて振り向く時に一瞬だけ映ったんだ。よっぽど見入らなければ気づかないだろう。
こういうの好きねえ、アリ・アスターさん!
ホルガローテン(Hårgalåten)
メイクイーン大会の前に、司会者のおばさんは、
「昔々、黒き者が現れ、ホルガの若者を誘惑し、死ぬまで踊り続けさせた」と、ダンス大会の由来を解釈した。
まず知ってほしいのは、ホルガはスウェーデンに実在する村の名前で、毎年ミッドサマーを開催しているらしい。
そのホルガの昔話に、「ホルガダンセン」というのがあって、民謡ホルガローテンの元となっている。
http://www.worldfolksong.com/songbook/sweden/hargalaten.html
こちらの記事で詳しく記述しているが、この伝承は、踊れ踊れおばさん(?)の言った話と完全一致している。
メイポールの側に輪となって踊るという夏至祭の伝統に、現実のホルガの民間説話を混ぜた。それから、ホルガローテンの記事のバフォメット(=黒き者)がヴァイオリンを持っているように、メイクイーンダンスのときの音楽もまた、ヴァイオリンをメインとした演奏だ。
ちなみに去年のまだ暑い頃、この音楽を聴きながら登校したことがあるけど、ちょうど天気がやばいほど良くて、空の青さと太陽の明るさと木の葉の緑っぽさとで吐き気がしました。最高。
現実のホルガの住民がこのフィルムをどう思うのか、気になって気になってキムチになりました。辛いもの苦手なのでキムチ食べれないが(?)。
樹々の顔
左上の樹々、顔っぽくね...?てか見覚えあるくない...?
あっ......。
食卓、その2
めでたく過酷なダンスバトルを勝ち抜いてメイクイーンになったダニーは、住民たちと食事することになった。細かいところは省略するけど、この食卓No.2くんを見て、形そっくりだし、なにより氷面のように見えるから、ᛁ(Isa/イサ)を表しているじゃないかな~と。
「ᛁ」は氷のルーンで、関係・感情が冷めることを象徴している。また、エゴ、自分自身(=自分のために動くこと)のルーンともされている。
クリスチャンへの愛情が冷めきると、やっとダニーは、クリスチャンを優先にすることから解き放たれ、自分自身のためのチョイスをすることができるようになった。自我を取り戻せたとも言えるだろう。クリスチャンざまあ。
アリ・アスターがここで「ᛁ」を使うのは、ダニーとクリスチャンの関係の破滅と、間もなく迎える結末を示すようだ。
ジョシュの足裏
生贄の一人にされたジョシュ、その死体、というか足一本は、裸のまま逃げ出したクリスチャンに発見された。そのとき、足裏にルーンが刻まれているのがわかる。
このルーンは、ᛗ(Mannaz/マンナズ)と言い、「人類・人々」のルーン。「個人」という意味を持ちながら、「他人との繋がり・協力」をも現すという。
ルビ・ラダーを盗撮しようとしたジョシュは、ホルガ側からみれば、間違いなく知りながらも尚、最大の禁忌を犯そうとした、人たり得ぬ存在。「他人(の文化)をもっと尊重するべき・考えるべき」という意を込めて、彼の死体にこのルーンを刻んだのだろうか。もちろん、我々観客の視点では、彼の論文題材を横から奪おうとするクリスチャンのほうが、他人を尊重しないクズだろうが、それはホルガにとってではない。
さらに「ᛗ」は「協力」を象徴するルーンでもあるので、彼とクリスチャンの協力関係のメタファーだと思う。
しかし、彼の死体を「植えた」のはなぜなのだろうか。自然と一体となった、と示すためなのか。
刺繍、ルーン
登場人物のお祭り衣装には、だいたいルーンの刺繍がついてる。もちろん、適当につけたのじゃなくて、その人物に合わせてつけてる。すこ。
まずは長老のシフおばあさん。彼女の服装についてるルーンは、ᚨ(Ansuz/アンスズ)というルーン。
「ᚨ」は「口、コミュニケーション、神、言語」を代表する、知恵の満ち溢れるルーン。
祭りの司祭である彼女は、まさにホルガの口であり、ホルガの人々の代わりに神々とコミュニケーションを取るのが役目。彼女にぴったりなルーンだよね。
↑シフの小屋のフェンスにも、「ᚨ」の形をした穴がある。
ダニーのミッドソマー衣装。青一色の綺麗な刺繍が施されてる。
胸の所には「ᚱ」と ᛞ(Dagaz/ダガズ)の模様が見える。ペレが描いた肖像画にもこの二文字が書いてある。
「ᛞ」とは、「一日・太陽・覚醒・大きな改変・新たな認知」を代表するルーン。
これを「ᚱ」と合わせると、ダニーは、「旅を通して、新たな認知を得て、真新しい自分になる」という未来が約束されたんだろう。
鮮やかになっていく狂気
ミッドソマーの衣装のすごい所といえば、その人物を代表するルーン刺繍の他にも一つ、私自身がとてもすこっ…と感じた所がある。
それは、青色と赤色の比例の変化。
よく見れば、祭りが始まったばっかりの頃は、
↑のように、衣装はほぼ白一色で、青と赤のほんの少しだけ。
しかし、物語が進むに連れて、人物衣装の色はどんどん変わっていく。
エテッシュッテュパン後、夜の儀式の場で。
※このシーンはディレクターズカットにのみ観られる。コニーの死に方にもつながるので、気になる方よ、ディレクターズカットは逃げて通れない道だぞ☆
メイクイーン大会。
エンディング。
このように、少しずつ少しずつと衣装は鮮やかになっていく。血が流れば流れるほど、赤の主張が強くなる。衣装のカラーで狂気さの具合を表している。これぞアリ・アスターの審美眼。
あと、ミッドサマーにおいて、キーワードとなる色は、「青色と黄色」ならびに、この2つの色の対照。このことに留意して鑑賞すれば(例えば衣装とか、聖殿の色合いとか)、また別の視点から、ミッドサマーを楽しめるのだと思う。
❁☀ᚠᚨᛞᚱᚷᚾᛁᛈᛉᛏᛗᛟᛒᛚᛞᚷᚾ❁☀ᚠᚨᛞᚱᚷᚾᛁᛈᛉᛏᛗᛟᛒᛚᛞᚷᚾ❁☀ᚠᚨᛞᚱᚷᚾᛁᛈᛉᛏᛗᛟᛒᛚᛞᚷᚾ❁☀
以上、私の考察・解説は終わりました。
どうでしょうか。これでミッドソマーをより楽しめるようになったら幸いです。補充してほしいことがあったらぜひお気軽に!
では、