DoubRingは抽象化のトレーニングツール
DoubRingのもう一つの目的
note上で概要や事例を紹介しているDoubRingについて、その目的や活用方法について補足します。
ここまで紹介してきたように、DoubRingの直接的な目的は、言葉の定義や言葉同士の関係性が実は人によって大きな個人差やばらつきがあることを可視化することでコミュニケーションギャップを解消することです。
ところが実はさらにもう一つの大きな目的があります。それは、DoubRingが抽象化という概念と不可分のものであり、抽象化思考力を鍛えるためのトレーニングツールとして使えるということです。
それではなぜDoubRingが抽象化と不可分なのでしょうか?
それはDoubRingの特徴を考えればわかります。「理想と現実の関係は?」あるいは「自然と人間の関係は?」のように、DoubRingが表現しているのは「言葉の関係性」です。
ここで出てきたキーワードである「言葉」と「関係性」、これらはまさに抽象化の産物そのものであり、人間の知的能力の特徴を示すものです。
「言葉」という抽象化
まず「言葉」から見ていきましょう。言葉というのは具体的な個別事象が持っている特徴を抜き出すことでシンプルに表現するものです。
例えば皆さんはこの写真の対象物を「一言で」表現しろと言われたらどのような言葉を選ぶでしょうか?
恐らく一番多いのは「子犬」ではないでしょうか?それはこの写真の中央の対象物の特徴である、「目と耳が2つ、鼻と口が一つ、足が4本(直接見えないが十分想像は可能)、体全体が毛におおわれている」ということや「顔つき」などからこれを犬と判断し、さらに目の垂れた愛らしい表情からこれを子犬と判断したのではないでしょうか?(もちろんこれを単に「犬」や「ゴールデンレトリーバー」と表現した人もいるでしょう)
これがまさに「様々な特徴からシンプルな言葉に変換する」という側面での抽象化です。
ところが「子犬」「犬」「ゴールデンレトリーバー」の違いがあったように、この「様々な特徴を抜き出して言葉で表現する」点からいけば、同じ写真を見ても言葉の選び方は一通りではありません。
もしかすると動物より植物に興味がある人は「草」と表現するかも知れない(かなりの天邪鬼ではありますが)し、あるいはペット用品に関心がある人ならば、(犬の後ろ半分が入ってしまっている)「エサ入れ」と表現するかも知れません。
このように抽象化というのは、一つの具体的な事象からでも抽象度の違い(犬か子犬か)やどこを選び取るか(動物か植物か食器か)という点で「個人や時と場合によって大きく異なる」のです。
「関係性」という抽象化
さらにDoubRingで扱うもう一つの抽象化が「関係性」です。人間の知的能力のもう一つの大きな特徴が「事象間の見えない関係性を認識する」ことです。例えば「原因と結果の関係性」を見つけることで、一つの事象から次に何が起きるかを予想することができます。
また「目的と手段の関係性」から直接目に見えない将来の目標を設定し、それに向かって様々な目に見える手段を有機的に関係者の間で関連付けることで効率的に将来の目標を達成するといったことにも活用できます。
このような関係性というのも、「唯一絶対の真理」があるわけではなく、個人や時と場合によって違いが生じます。以前に解説した「成功と失敗の関係」を例にとれば、「成功と失敗は対極の関係」と考える人もいれば、「成功と失敗はコインの裏表」と考える人もいたり、また「失敗は成功するまでの過程にすぎない」と考える人もいるでしょう。
このように、DoubRingという思考の可視化ツールによって改めて言葉の関係性を示して複数の人たちで共有することで、自分がどのような抽象化をしているかを改めて認識することができ、その思考プロセスを振り返ることができます。
例えばこの応用例としては、子供たちや初学者が具体的な事象から抽象概念を学び始ぶ際に、抽象度の高い言葉を示して(例えば「戦争と平和の関係は?」「政治と経済の関係は?」「責任と権限の関係は?」など)、その関係性を可視化することで、お互いの考え方の違いを共有しながら改めてその言葉の意味を深く考えてみるといったことが可能になるでしょう。
このようにしてDoubRingは抽象化のトレーニングツールとして用いることができるのです。