Daahoud (ダフード) あまりにも短い活動期間 : リズムラボ

 Daahoud (ダフード) は、爽快なテンポ感でトランペットとドラムが多彩なメロディと活気あふれるリズムによってその冒頭を彩るスイング・ジャズ曲です。
 1973年にMain stream Records (メイン・ストリーム・レコーズ) からリリースされたドラムのMax Roach (マックス・ローチ) と、トランペットの Clifford Brown (クリフォード・ブラウン) のアルバムに収録された楽曲で、この録音自体は1954年に行われました。
 収録元となっているアルバム名は "Brown and Roach Incorporated" と "Clifford Brown&Max Roach" の二枚です。
 Daahoudはこのアルバムの一曲目、つまりアルバムの顔として収録されています。
 AABA形式32小節の最も一般的なJazzの形をとった楽曲でです。

参加ミュージシャン

Clifford Brown (クリフォード・ブラウン) - trumpet
Max Roach (マックス・ローチ) - drums
Harold Land (ハロルド・ランド) - tenor sax
George Morrow (ジョージ・モロー) - bass
Richie Powell (リッチー・パウエル) - piano

1950年代のアメリカ

 第二次世界大戦が終わった後の数年間は白人中流階級にとって安定と繁栄の時代で。アメリカ合衆国は急速に消費文化の方向に動きました。
 需要が増して使い勝手の良さが求められ、それに対する広告も増加。この頃の豊かなアメリカ人は、自動車・皿洗い機・生ごみ処理機・テレビ・ステレオといった「生活を豊かにするもの」を求めた。
 こういった流れの中、レコードプレイヤーを売るために、レコードが必要とされて音楽家の録音の事業に家電メーカーを擁するレコード会社が参入する。といった形が見て取れます。
 53年に朝鮮戦争が終わり、54年には合衆国のCIAによるグアテマラ政府の転覆工作が行われた年でもあります。当時の合衆国内でのメディアはこれらの出来事をどの様に報道し、クリフォードやマックスらはどの様にその影響を受けていたのか。その影響は彼らの音楽に何を与えたのか。想わずにはいられないような事実が連なっています。

1954年の出来事

 アメリカに関連する出来事としては、メジャーリーガーと結婚したマリリン・モンローが夫婦そろっての来日というニュースや、第五福竜丸がアメリカの水爆実験によって発生した多量の放射性降下物(いわゆる死の灰)を浴びるという事実がありました。
 この事件はアメリカの資料に第五福竜丸の名称の記載の無いものも今回確認できました。日本の日本語の資料とアメリカの英語による資料は必ずしも一致しない事がこの事からも見て取れますね。
 一方、マリリン・モンローの結婚に関しては日米の資料は一致していました。双方にとって「良い」出来事という事がわかります。

 明治製菓が国内初となる缶ジュースを販売したことや、ヴェネツィア国際映画祭で黒澤明監督の"七人の侍"と溝口健二監督の"山椒大夫"の2作品が銀獅子賞を受賞した年でもありました。

Ray Bryantの録音

 ピアノのRay Bryant (レイ・ブライアント) は、ドラムの Specs Wright (スペックス・ライト)、ベースの Ike Isaacs (アイク・アイザックス) と共にトリオで1957年4月5日に録音。そのアルバムにトリオ編成のDaahoudが収録されています。
 ブラシを多用したフレーズはマックス・ローチのものと異なり、グッとブレーキの効いたようなリズムで、Swingに入った時の「安心感」とのギャップを大きく感じさせてくれます。

Wallace Roneyの録音

 2003年にリリースされたトランペットWallace Roney (ウォレス・ルーニー)のアルバム"No job too big and small" に収録されていました。
 この曲はクリフォードと、マックス・ローチを思い起こさせるようなトランペットとドラムの絡み合いが見られ、全体的によりワイルドなリズムに感じ、思わず「かっこいい、、」と唸る内容でした。
参加ミュージシャンは
Eric Allen (エリック・アレン)
Jully Allen (ジェリ・アレン)
Cindy Blackman (シンディ・ブラックマン)
Kenny Wasington (ケニー・ワシントン)
Donald Brown (ドナルド・ブラウン)
Ron Cartor (ロン・カーター)

Ahmad Jamalのライブ録音

 1992年のシカゴで行われたライブ録音。これでもかと繊細なアプローチの中に力強さを感じます。
Ahmad Jamal (アハマド・ジャマル) (p)
John Heard (ジョン・ハード) (b)
Yoron Israel (ヨロン・イスラエル) (ds)

Arturo Sandovaの余裕感じるスタジオ録音

 1992年にリリースされたキューバ出身のトランペッターArturo (アルトゥーロ)の録音。
 キューバ音楽の管楽器アンサンブルを思わせるホーンアレンジと、圧巻のトランペットテクニックによるソロが聞こえてきます。
 25歳という若さでこの世を去ったクリフォード。あの時代の(今もだけど)キューバと合衆国の緊張状態の最中でも音楽の部分では繋がれる事もあるのという一筋の希望を感じます。
 プロパガンダや権力に「流される」事無く音楽を続けられるだけの論理的な思考があった方が良いのだなと感じずにはいられません。

参加ミュージシャン

Arturo Sandoval (アルトゥロ・サンドヴァル) – trumpet
Kenny Kirkland (ケニー・カークランド) – piano
Charnett Moffett (ジャーメット・モフェット) – bass
Kenny Washington (ケニー・ワシントン) – drums
Ernie Watts (エルニー・ワッツ) – tenor sax 
David Sánchez (デヴィッド・サンチェス) – tenor sax 
Ed Calle (エド・コール) – tenor sax 
Félix Gómez (フェリックス・ゴメス) – keyboards 
Gary Lindsay (ゲイリー・リンゼイ) – arrangements 
Alberto Naranjo (アルベルト・ナランホ) – arrangement 


おわりに

 Clifford Brown と Max Roach の Daahoud について、その時代背景とカヴァー・レコーディングについてまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。
 トランペットのクリフォードの現役時代は極めて短く、たったの7年間でした。25歳という年齢でこの世を去った彼の音楽に突き動かされた人は、多くいると思います。
 1930年に生まれ、世界中の国々が兵器を使ってお互いに殺し合っていた世界大戦の時代と朝鮮戦争を抜けて、その復興へと向かうアメリカ社会の中で培われた彼の音楽は魂に響く何かを感じずにはいられません。
 次回はクリフォード自身の音楽について迫ってみようと思います。

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