緑溢れる太宰府 天満宮仮殿を巡りながら考えるスタジアム・アリーナ 〜緑化のシンボリック相互作用論〜
緑化建築先進都市としての福岡
福岡に来ると必ず伺う建物があります。アクロス福岡です。
音楽ホールの複合施設で大通り側から見るとさほど特徴の感じられないガラス張りのオフィスですが、南側公園に面して階段状に設けられた屋上庭園にはまるで青々とした山のように高木・中低木が立ち並びます。
建築家エミリオ・アンバースが手がけた数少ない建築作品のひとつで、都市緑化を進めた同氏の代表作でもあります。
近代都市から徹底的に排除されたものとして「土」があります。土埃や水捌けに配慮した道路計画は土にアスファルトを被せて種子が発芽できる環境を排除しました。
都市緑化は都市環境への植栽以前に、土そのものを如何に持ち込むかが課題となります。アクロス福岡は自然流下の雨水を使った灌水や丁寧に積み重ねられてきた土壌によって建物を覆っています。
このほど太宰府天満宮本殿の改修に伴い、工事期間中に参拝できる仮殿が完成しました。設計は藤本壮介さん。
山門から真正面に構えた勾配屋根にはさまざまな中低木が植えられ、周囲の豊かな環境に溶け込みます。
とてもダイナミックな構成であるはずなのに、ごく自然な佇まいを感じさせる仮殿は奇をてらった訳ではなく、丁寧にこの場所のコンテクストを読み解いた回答であることがわかります。
軒樋の処理が素晴らしく、軒柱のように下された樋は賽銭箱の両側の手すりの腰に隠されて母屋側におさめられています。
先ほど、都市緑化は土の問題だと書きましたが、建物単体で見ると緑化は水の問題となります。ぜひ矩計図を拝見したい。。。
緑化の価値をどう評価するか
緑化によって得られる効果は、CO2排出抑制やカーボンニュートラルよりも、「そこに緑がある」という事実を共有するメディア的な役割が大きいように思います。
いわゆる非貨幣価値と呼ばれる、直接的な経済効果に換算できない社会価値です。
2022年にイタリアセリエAのスタジアムであるサンシーロの建てかえ計画が出されて話題になりました。その後頓挫してしまいましたが、国際環境認証を取得するとともに自然環境に配慮したスタジアム構想は世界的にも話題に登りました。
経済合理性のみで何でも判断するのであれば緑化は不要との判断に陥りがちです。ESG投資など社会価値への貢献が間接的に経済価値としてリターンする仕組みが必要でしょう。
同様の事がスポーツにも言えます。勝敗に左右されるチケット収入はスタジアムビジネスにおいて安定的な収入とは言えず安定的なスポンサードや投資の呼び込みが重要です。
長期的な目で見た投資とそれらに繋がる社会的信頼を得るには、スポーツチームにとってもスタジアムやアリーナは信頼のシンボルとなる必要があります。
近視眼的でない真摯な態度で望む地球環境建築が結果としてスタジアム・アリーナビジネスのキーとなる、そんな萌芽がチラホラ出てきていると考えます。
(了)
太宰府天満宮仮殿。写真ではこの体験を伝えきれません。ぜひ行きましょう。
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