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ハムスターの口から          内臓がとびだしている

上田さんの話
上田さんが、胸にハム太郎の柄のパーカー、
スウェットパンツにサンダルで
すごい勢いで入ってきました。
上田さんは50代後半の男性、いつものトップはパンチパーマで横はツーブロック、鼻下に髭、
耳にはピアス、仕立てのいい派手目のスーツ、
濃いめのサングラスでびしっと決めてくるのに

手のひらには、ハム太郎のタオルにくるまれた丸々太った“ハム吉”が。
「先生、助けてください、ハム吉の口から
内臓が・・・」
上田さんの目から涙がにじんでいます。
診察台の上でハム吉を預かると、いつものように元気いっぱい、逃げようとしています。
しかし、口から頭と同じぐらいの赤いものがだらりと出ていました。
これは確かに内臓に見えますが、
内臓ではありません。
頬袋です。頬袋脱という病気です。
ハムスターは口の中にある大きな袋に餌をため込んで巣まで運びます、
この袋が頬袋、左右に各1個あります。
ハム吉は口の中にある頬袋に詰め込んだ物を、
自分で取り出す時に、
頬袋に引っかかり、頬袋が反転し餌と一緒に口から飛び出してしまったのでした。
すぐに自分で戻せばよかったのですが、長時間出しっぱなしになって、自分で噛んだり踏んだりしたのか、傷がつき腫れていました。
このままほっておくと壊死してしまいます。
まずは砂糖をかけるとス~と小さくなりました。
浸透圧の関係で腫れが引いたのです。
小さくなった頬袋を濡らした綿棒で“そっと”押し戻しました。

もし自分が飼っているハムスターがこのような
症状の時は試してください。
ただし、決して無理やりやってはダメですよ、
頬袋に穴が開いたら大変です。
頬袋が長時間出っぱなしになると、ハムスターが自分で噛んで傷つけたり、
踏んで炎症をおこします。血行不良で壊死がはじまると、手術で切り落とさなくてはならなくないこともあります。
腫れが引かない、戻らない、すぐにまた出てしまう時はすぐに病院に来てください。

念のためにハム吉の反対側の頬袋の中身を出してみました。
中からはつぶれたごはん粒が出てきました。
「上田さん何を食べさせました。」
「ひまわりとサツマイモとりんごといちごと、
おはぎ」
「おはぎ?あんこの?」
「俺は酒を一切飲まないが、甘いものは毎日欠かさず食べてるんだ、ハム吉も酒は飲まないが、
俺と同じで甘いものは大好き、
 「昨日はこしあんのおはぎを食べさせた。
太らないように、ちゃんとあんこは少なく
したよ」
原因はそれです。
つぶして粘着が出た餅米が頬袋に張り付き、
他の餌と絡み合い頬袋の入り口からでなくなってしまったのです。
困ったハム吉は、無理やり出そうとしたため、
袋がひっくり返って口の外に飛び出したのでした。お米、うどん、パスタも粘着性があるからあたえないほうがいいです。
ちなみに水分の多いりんごやイチゴも控えめに、下痢します。

ぼくの話
小学生の僕は学校から帰ると、
空の餌箱にひまわりの種を一掴み入れました。
“コロン”は僕の足音をしっているので、
餌箱の前で僕を待っていました。
餌箱に入れられたひまわりの種を小さな手で
、せっせと口の中に詰め込みます。
その速さは、早送りで見ているようでした。
餌箱が空になると次はキャベツを手渡します。
両手で器用に持ち“シャキシャキ”軽快な音をたて、周りから齧り始め、
ある程度小さくなると、最後は一気に口の中に押し込みます。
顔は倍以上の大きさになっています。
最後は小指の先ほどの人参
“カリカリカリカリ” 
あっという間に小さくなり、
やっぱり最後は両手で口の中に押し込みます。
両頬はこれでもかというぐらいにパンパンに膨れ上がっていました。
そして、スタスタ とケージの隅に作ってある、
刻んだ新聞紙を敷き詰めた部屋に
帰っていきました。
そこで、まず人参、次にキャベツ、ひまわりの順で口から出し始めました。
今度は逆回しを見ているようでした。
すべて出し終わると、その上にせっせと新聞を上にかぶせて隠してしまいました。
僕はいつも、この一連の作業を正座しながら、
ランドセルを背負ったまま覗き込んでいました。
コロンはマルマル太ったゴールデンハムスター
僕の最初のペットです。
前も書きましたが、この頃はハムスターの餌といえば、ひまわりの種でした。
おかげですごいデブでした。
ひまわりの種はいっぱいあげちゃだめですよ。
小学生の僕はどうしても気になっていることがありました。
いったいあの頬袋にどれくらいひまわりがはいるのだろう?
ある時僕は実験してみました。
いつもは餌箱に入れるひまわりを手でひとつずつ渡し、数えてみました。
結果は何と87個でした。88個目を渡そうとした時はさっと後ろを向き、
刻んだ新聞紙の部屋にヨタヨタと帰っていきました。
その後も観察を続けると、部屋の中で、両手で頬をおしながら舌を器用に使い
口から一個ずつ取り出しました。出てきた数はなぜか85個、
2個は両頬にひとつずつしまっておいたようです。

もう一つ実験をしました。
僕の口にはどのぐらいの“かっぱえびせん”が入るのか?
なぜ“かっぱえびせん”か というと、
この日のおやつだったからです。
ルールは噛まずに折らずに口の中に
詰め込むです。
一本ずつ丁寧に入れます。横にしたり縦にしたり結構難しかったことを覚えています。
何回か挑戦し、最高は29本でした。
しかし、噛まずに無理やり押し込むため、
口の中には細かい傷ができ、
“かっぱえびせん”の塩がしみました。
その後は異常にのどが渇き、コーラをがぶ飲み、
食べ過ぎ飲み過ぎでお腹を壊してしまいました。
あんなに好きだった“かっぱえびせん”あれ以来食べていません。

頬袋の話
ハムスターの祖先は地下に巣をつくり
夜中にこっそり出てきて天敵に見つからないようにしながら、餌を探して歩き回ります。
一回の外出で、できるだけいっぱいの餌を
運ぶために
運搬方法としてほお袋を使うようになりました。
その結果あんなにも伸びて大きくなる頬袋をもつようになりました。
ペットのハムスターには天敵がいないので、
隠れて食べる必要もなく、
餌を運ぶ必要もないのに、
本能で、餌を見るとついつい頬袋にいっぱい詰みたくなるようです。
ちなみにライオンやトラのように強い動物は
その場で食べればよく、運ぶ必要がないため頬袋がありません。

ニホンザルの話
ニホンザルには頬袋があります。
ニホンザルの場合は群れで生活しているため、
運ぶというより他の仲間に取られないために、
口の中に餌を詰め込みます。
動物園で観察していると、
強いニホンザルは取られることがないためか、
自分の周りに餌をかき集めるだけで、口の中に詰め込まずその場で食べます。
弱いニホンザルは、口の中に目いっぱいつめこみ、両腕にも餌を抱えて、
2足歩行で取られない場所に移動します。
お尻を少しつき出し、不器用に歩く姿は、
歩き始めたばかりの人間の赤ちゃんがおもちゃを抱えて歩く姿によく似ていて
結構かわいいです。

ある時、サル山を観察していると、
いつまでたっても一か所で止まったままの
おじいちゃんサルがいました。
せっせと餌を口のなかに詰め込んでいるのですが、一向に動く気配がありません。
変だなと思いよく見ると、詰め込む度に頬から何かがこぼれていました。
双眼鏡で見てみると、頬に穴が開いていて、そこからこぼれていました。
口の中に入れた量と同じだけ頬から外にこぼれていました。
このサルさんは自分で穴が開いているのに気付いていないようで、
いつまでも口の中に詰め込んでいました。
どうやらケンカにより頬に
穴が開いていたようです。
ほおっておいたら、
永遠に減らない餌を、永遠に入る口の中に詰め込み続けていそうでした。
しようがないので、捕まえて、頬の穴をふさぐ治療をしました。


ハム吉の話
ハム吉の治療を終え、
頬袋が再び出ないことを確認、
上田さんを呼びました。
今後は粘り気のある食べ物はあげないこと、
味のついた人間の食べ物はあげないこと、
太りすぎのため甘い食べ物も与えすぎないように指導しました。
上田さんはハム吉を大きな手のひらで包み込み、優しく持ち上げ頬にすりすりしました。
袖からは見えた手首には龍ではなく、
ハムスターの絵が描いてありました。



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