ゴールド 金と人間の文明史-47 スペイン人はあっという間に浪費することを覚え、同時に生産意欲を失った
16世紀のスペインは他のヨーロッパ諸国を大きく引き離す富裕国だったと思われているかもしれないが、そうではなかった。
征服者たちが白人とインディオの血の泉のなかで獲得した目もくらむほどの金がスペイン社会に届き始めると、スペイン人はあっという間に浪費することを覚え、同時に生産意欲を失ってしまった。
スペイン人は金銀を新しい生産的資産に変えることもせず、その貴重な金銀で外国のものを買い付けた。腕輪、ちゃちなガラス製品などの安ピカのもの、カードゲームなどの幼稚な使途に相当の金銀を注ぎ込んだ。
彼らは、これが単なるツキではなく、自分たちに与えられた当然の運命だと思い込んでしまったのだ。
スペイン人はコロンブスがアメリカ大陸の発見という偉業を達成した年にも経済的に手痛い失敗をおかしている。
1492年、その年に、スペインはユダヤ教徒とイスラーム教徒 -彼らは高い教育を受け、数学や科学の発達を常にリードしてきた- を追放した。
残った当時のキリスト教徒のスペイン人はほとんどが農民か兵士で、文字は読めず、算数も初歩の初歩さえ知らなかった。貴族階級は怠惰であるか、勇猛な戦士であるかのいずれかだった。
特にイスラーム教徒 -交易、輸入、輸出の長い伝統があった- がいなくなったことで、スペイン国内は商人階級をほぼそっくりと失った。
当時、ヨーロッパ全土で経済が急速に発達していたため、商人階級無しでは国は立ち行かなかった。
結果として、スペイン経済の中心地だったカディス、セビーリャに外国人があふれることとなった。ジェノヴァの商人と銀行家、ドイツの金貸し業者、オランダの製造業者など、ありとあらゆる種類の品物やサービスの提供者や金融業者がヨーロッパ中から集まり、ブルターニュ人や遠く北海の方から来た人々さえいた。
17世紀中にスペインが作った巨額の借金のほとんどは、これらの外国人が融資したものだった。
もともとこの国、スペインに国際的な雰囲気を運んできたのは、何世紀も前から他国との繋がりを持っていたユダヤ教徒とイスラーム教徒だったのだ。
ユダヤ教徒とイスラーム教徒を追放するという決断は当時のスペイン人のプライドを大いにくすぐったが、彼らがいなくなって、スペインは外の世界との繋がりを絶たれ、この国に忠誠を誓っているわけでもない外国人に頼らざるを得なくなった。
ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン
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