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イングランド銀行券が紙切れ同然となる ゴールド73
1797年2月12日、フランス海軍がウェールズの南西海岸にあるフィッシュガードという小さな漁村に到着した。イギリスへのこのフランスの侵略は失敗に終わったが、これによりイギリス国内はパニックに陥った。
人々は金(ゴールド)を引き出そうとして金融機関に殺到することとなった。紙幣とは対照的に、金は究極の貨幣だと思われていた。金の価値は不滅であり、たとえフランスが政権を握ろうと、金は永遠に受け入れられるものだと。そこで、引き出せる金が残っている間に紙幣を金に換えようと人々が金融機関に殺到したのだ。
実は、フランスのフィッシュガードへの侵略の前から、ナポレオン率いるフランスがイギリスに侵略してくるのではという不安からニューカッスルの銀行では取り付け騒ぎが起こっていた。そして、そのパニックはロンドンなどの主要都市へもあっという間に波及した。このため、イングランド銀行の金の貯蔵量は1日に10万ポンドずつ減っていった。
こうした状況の中でフィッシュガードへの侵略が起こってしまった。そのため、イングランド銀行は紙幣(銀行券)の金への兌換(交換)を断らなければならないという見通しを持たざるを得なくなった。これは前例のない異常事態だった。
そこで、政府は次のような緊急勅令を交付した。
「イングランド銀行が正金(金)の発行を控えることは公務にとってぜひとも必要である。その期限は、議会の意見が問われるまでとする」
つまり、紙幣(銀行券)と金の兌換が市場で制限されたのだ。
この緊急勅令は国民に衝撃を与えることとなった。イギリスの歴史を通じて、これほどの衝撃、危機が訪れたのは初めてだった。
そもそも、イングランド銀行自体が金融の安定と信頼性の模範として設立されていた。イングランド銀行券は「金と同然」だったのだ。イングランド銀行券は政府自体が出す国債よりも安全だと思われていた。その全てが変わってしまった。イングランド銀行の金庫に金がほとんど入っていないとしたら、イングランド銀行券は紙切れと何ら違いは無くなってしまったのだ。
ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン