「植物×自然」をきっかけに、HSPに気づいたら自分のリズムで生きられるようになった話
「火曜サスペンス観て泣いてる人、初めて見た……」
犯人に共感していたわたしに、呆れた姉の言葉が降ってきた。
また別の日には、母がこう言った。
「小さいころから一風変わった子だった」と。
そして学校では、成績表にこう書かれることが多かった。
「感受性豊かな子」
あなたにも心当たりがありませんか?
(自分は人と少し違う……)と、何となく感じながら生きてきた過去が。
フツーじゃない自分
わたしが幼少期のころは、まだ母子家庭が少なかった。父親と母親がいるのがフツーで、シングルマザーのわが家は「フツーじゃないんだ」と、どこか引け目を感じて生きていた。
(人と少し違うのは、家庭環境のせいなんだ……)
転校することが多く、友達作りもヘタ。人との間に大きな壁を感じて尻込みする。そのくせ、心のなかに秘めている想いは強く、自我の成長だけは早かった。
作文や詩を書くと選ばれることが多かったし、学期末恒例の「リボン賞」では、大抵「深く考える子」。そして体操着に深い緑色のリボンをつけられた。
3部門のいずれかに投票し合うのだ。「明るい子」の黄色をつけている子がまぶしくて、そこでもやっぱり「人と少し違う」を実感していた。
成長するにつれ「感受性の強さ」は影を潜めた。いや……たまに顔をのぞかせていた。表の顔と本心の顔を、上手に使いわけるようになっていただけ。
友達と楽しく笑っていたのに、一人になるとどっと疲れて(あの言葉の意味は? 行動は?)と気にして無駄に時間を費やしていたのだから。
居心地の悪さ
社会にでると、居心地の悪さはさらに増した。
わたしは急にパーソナルエリアに入って来られたり、入っていくことが苦手。
「かわいい、すごーい」。群れている女子の集団と居ると、表情は歪む。
ストレートすぎる性格も問題だった。
強引なルールを押しつけてくるオーナーに、黙って「イエス」と言えない。いや、初めは我慢できる……。
3か月間の出張を言い渡されたのは、出発前日の夜。フラフラになりながら荷造りをして現地入り。数週間後には「やっぱり戻って来い」のひと言。
思いつきの言動に振り回される日々。まるで使い捨てのコマのように扱われる。
「人を何だと思っているんですか!」
おかしいことにはおかしい! と反論すると無視されて業務から外される。あげく、罵声を飛ばされたり……なじられたり。
理不尽なことが続き、やがて咳と嘔吐で眠れない日が繰り返される。ジャストサイズだったスカートは、頼りなく腰回りでゆるゆると遊んでいた。
パワハラは絶頂期。
(このままだとマズイ……)直観力だけは冴えている。
気分転換、リフレッシュできること……ぐるぐる頭のなかを巡らせてひらめいたのが「そうだ、登山へ行こう!」だった。
久しく遠ざかっていた登山。
新緑の葉を揺らす心地よい風。
(あぁ、癒される……)こんなにも自然は美しくて優しいのに。
惨めな自分、くやしさ、イラ立ち。抱えていたネガティブな感情を、自然はまるごと引き受けて浄化してくれる。
自然のなかに身を置く心地よさを強く実感していた。
もっと近くに自然があれば、心も体も復活するはず!
ちょうど憧れの平屋暮らしが始まったばかり。
「わたし達らしいナチュラルな庭を作ろう!」
「野鳥がくる庭にしたい!」
ヘタくそな図面を書いては、パートナーと一緒に胸を躍らせる日々。何百キロものアンティークレンガを取り寄せ、運送の方に愛想をつかされた。
理想の庭づくりに没頭していたら、パワハラもやり過ごせるような気がしていた。
限界→希望→挫折
ボーっとソファーの上で過ごしていた休日。とつ然、涙が流れ出す。
「わたし、何やってんだろ……」
虚しいのか、くやしいのか、もはや自分の感情がわからない。パワハラとストレスに、再び心が支配されていた。
「もう、辞めたら?」
パートナーの声に顔を向けると、背後には庭が広がっていた。
そこでは、植物たちが風に葉をそよがせている。
(あぁ……最近、庭に出る気力すらなかった)
ふぅーっと震える息を吐き、退職届を書く決心をしていた。
「本を読むのが好きなら、書く仕事をやってみたら?」
同じころに退職した同僚が、ぽつりと放った言葉。
こんなに響く言葉ってある? 過去を振り返ってみても数回しかない……。
そのころ、時間と不安だけはたっぷりあった。
同僚に聞いたクラウドソーシングとやらにすぐに登録する。
庭ではジューンベリーの白い花が開花し、その足元にはビタミンカラーのチューリップが咲いていた。植物たちは待ち望んでいた春を謳歌し、わたしの心は期待で躍っていた。
植物たちに応援されている錯覚を持ちながら、Webライターに挑戦する。
甘くなかった……。
笑ってしまうくらいにお金にならない。やがて、頼りにしていた失業保険も終了。人生初の契約社員として働くことになる。
あっけなく挫折→延長せずに無職となる。
(やはり人と違う自分は、もう何をやってもダメなんじゃないだろうか……)
弱気になりかけていたわたしに「風と共に去りぬ……〇〇さん」絶妙なネーミングをつけて笑わしてくれたのはパートナーだった。
今度こそ……Webライターをわたしの天職にする!
希望の光が見えたと思ったら、数か月後にはすぐに消えてしまう。
Webライターの世界はやはり甘くない。かけた時間と反比例するわずかな収入。自分の貯金を切り崩す日々……。天職にするどころか、自分の情熱すら消えかけていた。
これはもうダメだ。自分だけではどうにもならない。
人間ギライのわたしが、ライティングスクールに入る覚悟を決めた。
(あれ? 意外と楽しいぞ)
先生の言葉が心に深く沁みる。
わたしの好きなことは植物と自然。弱みって何だろう……。
あぁ……ずっと密かに抱えているこの感覚(人とは少し違う自分)に対する劣等感だ。
意外なことに、自分の過去と向き合う時間になった。
ライティングスクールでは、電子書籍出版までのスキルを授かる。先輩の書籍を読みあさっていると、いつも目につくワード。
「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」
5人に1人はいるらしいHSPは、繊細・敏感・感受性の強さから、人よりも生きづらさを感じてしまう気質らしい。
けっこうHSPの人って多いんだなぁと思いつつ、何となく始めたチェックテスト。
(ん?! ほとんど当てはまってる……わたし……HSPだったんだ……)
「ストン」。胸の奥で何かがおさまる音が聴こえた気がした。
あのとき感じたアレコレがつながる感覚。
そして、植物や自然を愛おしく思う感情の理由もわかった。
耳元を吹き抜ける風の音、きらめく木漏れ日、野鳥のさえずり……。
わたしが自分のリズムで生きていくために、かけがえのないものだった。
自分のリズム、やっと見つけた
1冊目の電子書籍『植物を意識するだけで自己肯定感UP! ふわりと生きやすくなる』の執筆中に、わたしは自分がHSPだと気づいた。
そして、植物や自然の癒しを人一倍感じられるこの感覚を大切にしたい! と思えたのだった。
わたしと同じように、生きづらさを抱えて生きている人がいると思う。まだ、HSPだとは気づかずに。
理由がわからないと人間は不安になるけれど、答えを見つけた途端に「すぅーっ」とラクになることもある。
誰かの生きづらさの原因をひも解くヒントになるように、これからも「植物×自然」の魅力とともに、HSPの素晴らしい気質を言葉にして伝えていきたいと思っている。