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胎児の記憶はあるのでしょうか

幼馴染のたかふみ君の家には、白黒写真が飾っていた。
生後半年ほどの僕が、たかふみ君の耳をひっぱている写真。
僕はその時の風景を覚えている。耳を引っ張ると、うちの母が「ダメー」と甲高い声で叫ぶ。たかふみ君は、泣くこともなく目をキョトンとしている。

幼児の記憶が定着するのは3歳くらいと言われている。生後半年の記憶を持つ僕は、特別な存在であり、天才である。
と、言いたいところだが、多くの人は写真やストーリーから、幼児の記憶を後付けしていく。3歳前の記憶が残っていないことは、脳科学の世界では、研究の前提になっている。大人が考える「記憶能力」を携えるのは、個人差はあるものの、七歳以降だ。保育園の記憶も、結構な部分で、後付けの場合が多かったりする。

けっこうショックである。胎児の記憶があるって、思いたいし、あのビビッドなたかふみ君の思い出も、真実でなかったなんて(写真は白黒だけど、夢はカラーだったんだ)。

しかし、このよくある「幼児の記憶喪失(infantile amnesia)」は決して悪いことではなく、海馬を活性化させ、学習能力を高めるためのものらしい。記憶をなくすことで、学習効率を高めるトレードオフが存在するというのだ。

さて、その記憶に疑問が生じる。記憶は消えてしまったのだろうか? それとも記憶はあるのだが、ただアクセスができないだけなのだろうか。

「記憶は存在するが、うまく取り出せないだけだ!」と示唆する報告がいくつかある。
 生後3ヶ月の乳児にスマホを与え、ちょっとしたストレスを加えることで、記憶が取り出せるようになる実験。
 3歳の子供に写真をぼかしながら見せると、記憶が取り出せるという実験。
 動物実験では、実際に脳に直接ストレスをかけることで、記憶力が高まる。人工的にストレス(ウイルス感染や孤独)をかけることで、神経の生成が止まり、幼児期の記憶が発現してくる。

僕のたかふみ君の記憶は、もしかしたら、ウイルス感染か何かが原因で、アクシデント的に残ったものかもしれない。現在の僕の知能がちょっとポンコツなのは、それが原因かもしれない。

子供の時の美しい思い出のために、ちょっと頭脳がポンコツになっちゃたんだ。と説明されるなら、それはそれで、「だったらいいや」と納得できる。
もしも、リトルマーメードに出てくる海の魔女のようなのが出てきて、「お前の記憶を残してあげるよ。そのかわり、聡明な頭脳はいただくがね」と言われたのなら、さしだしてもいいと思う(思い出は、頭脳よりも大切なのだ、少なくても僕にとっては)。

胎児の記憶がある。という神秘的なストーリーがある。脳の構造から考えるに、理論的には、まずあり得ないとは思うのだが、心の底で、そういう神話が存在してほしいとも思う。
母のお腹の中にいて、「あ、おなか、けったよ」と父親に言う。そういう記憶が残せるのなら、九九が誦じなくても、漢字が読めなくてもいい。

https://www.science.org/content/article/are-your-earliest-childhood-memories-still-lurking-your-mind-or-gone-forever

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