わたしの欲望の正体
5歳の娘が幼稚園のサマースクールで2泊3日、軽井沢へ行きました。我が家はひとり娘のため、「子ども」という存在がまるっと家からなくなる3日間。
夢のフリータイム1日目
バスを見送ったあと、そそくさと自宅に戻り、クローゼットからロングワンピースを引っ張り出した。ボリュームたっぷりのスカートは裾が地面に付くほどの丈で、歩くたびにふんわり舞って、着る機会は少ないけれど、手放すという選択肢は当分ない。鏡の前に立って「やりすぎか?」と一瞬躊躇したけれど、「いや、これぐらいでいいのだ」と思い直し、シャネルの口紅を塗って向かった先は、アンダーズ東京、51階のザ・タヴァン。昼間から不倫でもしているような怪しい文章になっている気がするけれど、最初から最後まで、完全おひとりさま、子育て業からしばし開放されて浮かれまくる母の冒険記です。
日常からの完全解放を目論んだけれど、やはり思い切ることができず、迷いに迷ってパソコンを持参してしまった。それでも家で作業するのとは全然気分が違うし、仕事を片付けたあとは読みかけの小説を読んだり、心地よい緊張感の中過ごす時間は、日頃得られない類の幸福感があった。夕方近くになり、「そうだ、夜は久しぶりにあのレストランに行こう!」と思って電話すると、定休日だった。自由に動けるこの日を楽しみにしていたくせに、自分の無計画さを呪う。友人に報告すると「それなら家でリモート飲みしようよ」と誘われ、大きなステーキを思いっきりレアで焼いて、シャンパンで乾杯し、とりとめのない話を2時間以上した。眠気に任せて布団に入り、やっぱり甘いもの食べよう、とカリカリに焼き直した たい焼きを布団の上で食べた。なんてだらしがなく、ワクワクが止まらない夜だろう。夜中の3時に目が覚めたので、思い切って部屋の電気を付け、youtubeを見たり、スマホでくだらない記事を読んだりした。
2日目
起きる理由がない朝が6年ぶりに来た。この時点で筆舌し難い幸福感で、用もないのに起き上がってしまう。今日もノープランだったので、何をしたいか自分に問いかけると、長らくわたしを素敵な場所から阻んできた『幼児入場不可』というワードが浮かんできた。歌舞伎かバレエかクラシックか。検索し続け、運良く弦楽器のコンクールのチケットが入手できた。3年前、娘がヴァイオリンを習い始めたのをきかっけに、わたしも便乗デビューし、きらきら星程度なら弾けるのです。
今日もクローゼットから何年も出番のなかった、身動きの取りづらく、引っ掛けやすい洋服(上下とも白!)をチョイスし上野へ。
これから世に出ていくであろう、若い演奏者のエネルギーと、新日本フィルハーモニー交響楽団の素晴らしい演奏で、あっという間に3時間が過ぎました。(10代の子が演奏しているときは、ここに来るまでの親御さんのサポートがいかばかりだったかと、親目線で見てしまいました。どのお母さんも当たり前にしているように見えるけれど、本当に大変な仕事なんですよね。)
終わって外へ出ると辺りは薄暗く、上野駅の向こうに青く光るスカイツリーの頭が見えていました。(スカイツリーの点灯は、19:00~24:00は心意気を示す「粋」がテーマで、力強さ、隅田川の水をモチーフとした淡いブルーの光が特徴なんだそうです。)こんな時間に、ひとりで外にいる。という事実だけで胸が高まり、自撮りするほど浮かれてしまいました。この日はとくに夜風が気持ちよくて、このまま帰るなんてもったいない。「そうだ、あのレストランに行こう!」のリベンジです。祈るような気持ちで電話すると「大丈夫ですよ!」とのこと、大急ぎで丸の内へ移動します。こちらも何年かぶりの再訪です。
向かいの席には同年代のパワフルな女性が3人、左隣は初々しいカップル。右のテーブルは欧米の男性3人組。奥にもたくさんの人。賑やかな平日の夜に、仲間入りしました。
23時まで営業しているマッサージに立ち寄るつもりでしたが、ひさしぶりに履いたヒールのせいで辿り着けませんでした。が、文句なし。最高の1日でした。
3日目も好き勝手に起床し、9時すぎまでパジャマとノーメイクで過ごし、そのぐうたらぶりを浮かれて義理の母にまで報告、思うままにダラダラしました。お昼を過ぎるとやはり気持ちがそわそわして、娘の好きなマカロニグラタンを仕込んでいました。
自由に独り身(主人はおります)を満喫して、改めて自分が何が好きなのか、ということが分かった3日間でした。わたしと同じ一人っ子のお母さんの中には、観劇に行った方や、ご主人とレストランで食事を楽しんだ方、合宿地の軽井沢まで行った方もいたようで、それぞれの過ごし方が在ったようです。
大きくできた、かかとの靴擦れが治る前に、すっかり日常が返ってきました。そして娘もわたしも大冒険の夏が終わりました。引率してくださった先生方に感謝です。無事に戻った娘は、少しお姉さんになったように感じます。