今更開けたピアス
コロナ禍でおこもり中、私はアクセサリー作りを始めた。
UVライトで固めるレジンを使ったものや、パワーストーンを組み合わせたもの、ワイヤーをねじって作るものなど、気がのるままにいろんなアクセサリーを作った。
私は普段アクセサリーをあまり身に着けない。
だが、デザインを自分で考えたり、そのアイデアを形にしていくことが楽しくて、夢中になった。
毎日アクセサリー作りの動画をみては学び、新しい手法にチャレンジした。
特にイヤリングやピアスを作るのが楽しい。
試行錯誤して完成に至らなかった未完成のパーツから、たくさんの失敗を経て出来た自慢の品まで、アクセサリーケースに入り切らないほど作品が増えた。
こうなると次に思い浮かぶのがお金稼ぎだ。
たくさん出来たアクセサリーを売ろうと、私はハンドメイドアクセサリーの売り方を調べた。
ハンドメイドアクセサリーを販売できるサイトとして、Creemaやminneが有名らしい。
私は早速アカウントを作成し、その両方に出品した。
だが、そううまくはいかない。
いいねや閲覧数はそこそこつくものの、なかなか購入までには至らなかった。
マーケティングをしなければ。
そう思い、私はブランドの名前やロゴなどを考え、Instagramのアカウントを作り、そこに商品の画像を投稿していった。
デジカメを購入し、アクセサリーがきれいに見えるように写真の撮り方も工夫した。
しかし、なかなかフォロワー数は増えなかった。
Instagramで宣伝しても、売り上げはないままだ。
私はBASEというネットショップ作成サービスを利用し、そこでも販売してみる。
だが、Creemaやminneなどハンドメイドアクセサリーを探している客層に買われなかったものが、誰も知らないネットショップを作成したところで、売れるわけがなかった。
最終的にはメルカリにも出品した。
だが、結局ひとつも売れなかった。
軽い気持ちで売ってみようと思ったが、ここまで売れないとは。
私は落胆した。
いずれは人気のハンドメイドアクセサリー屋さんになって、セミリタイアなんて出来たら。という淡い夢は段々と萎んでいった。
作成したアクセサリーたちを見る。こんなにかわいいのに。
完成したときはあんなに輝いていた作品たちが、誰にも必要とされず、くすんで見えた。
それから月日は過ぎ、すっかり自粛ムードは落ち着いたある年の秋。
東京から友達3人が私の家に遊びに来た。
偶然にも友達は私含めみんな秋産まれ。
昔はよく秋に合同誕生日会をしたものだ。
私は数ヶ月アクセサリーケースに眠っていた作品たちを取り出し、みんなに見せた。
「これ、たくさん作ったんだけど、使わないからもし欲しいものあったら誕生日プレゼントにあげる」
そう言って数々のコレクションを広げる。
あんなに売れなかったんだ。
みんなにもいらないと言われたらどうしよう。そんな不安で実は数日前からみせるかどうか悩んでいた。
本当に欲しくない場合、私を気遣って「いらない」と言えなくさせてしまったら?
気まずい雰囲気にしてしまうだろうか。
私はおずおずと友達の顔を見る。
「え!本当にいいの!?」
私の心配とは裏腹に、3人とも目をらんらんにして言った。
「え、これもかわいいし、これも良いな〜」
友達Aは早速2種類のピアスを手にし、交互に鏡にあわせてみながら言う。
「好きなだけ持っていっていいよ!」
私は作ったアクセサリーを全部広げて、みんなに見やすくした。
「やった!めっちゃかわいい!」
そこからはわいわいと、どれにしよう〜と女子3人のファッションショーが開催された。
「これ欲しい!」
「それ私も良いと思ってた!」
「じゃんけんしよ!」
ときには同じアクセサリーを巡って戦いが勃発。
「ねえ。これイヤリングに変更できる?」
「このパーツ使ってピアスつくれない?」
友達は次から次へとアクセサリーを物色しては私に要望を言った。
「わかった!」
私は忙しなくみんなの依頼に答えて工具を取り出した。
3人が満足する頃には、すっかり夜が更けてしまった。
テーブルいっぱいに広げた作品たちは、全て3人それぞれの手に行き渡っていた。
「なんか女の子の時間!って感じがして楽しかったー!」
「こんなに素敵なものたくさん、ありがとう!」
「明日これ付けるわ!いろんなデザイン考えられて天才だね!」
友達は皆ほくほくと満足げに言った。
早速友達に身につけられているアクセサリーたちは、皆とても似合っていた。
みんなが自分の作品を身に着けているのを見て、私も自分で作ったピアスを付けてみたくなった。
30歳も過ぎたというのに、私は学生時代から開けたかったピアスを開けることにした。
痛くないよ。ピアスを開けているたくさんの友人が皆そう言うように、痛くはなかった。
穴を開ける際、「ガチャン」と耳のそばで大きな音が響いた。
私はインカメラにして、耳たぶについたファーストピアスの写真を撮った。
ヘアスタイルやメイクはいつもと変わらないのに、なんだか雰囲気が違う自分が写っている。
ピアスが安定したら、またアクセサリー作りを再開しようかな。
私は家のタンスに眠ったままのパーツたちを、頭の中で組み立てた。
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