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映画『人生』 作・演出・主演:私

鈍器で殴られたようだった。
気の迷いとでもいうのだろうか。
たまたま見た友達のツイートを、たまたま辿って行ったら、
たまたま元カレのアカウントを見つけて、何の気なしに見てみたら、

結婚してた。

いや、いまさら未練的な気持ちはまったくない。
悔しい、とも違う。羨ましい、とも違う。
形容しがたい感情で物理的に頭が揺れた。
もう秋の気配を感じるこの肌寒い時期に21度設定のクーラーの風を5分間浴びないと座ってられないほどだった。

正直焦った。
悪い人ではないのはわかっているが、まさか結婚するとは思ってなかったので、かなり焦った。
しかし、焦ったとて仕方がないので、これ以上のダメージは受けないように自衛して、マッチングアプリをインストールした。

誰かに吐き出したい気持ちが抑えられなかったので、
当時を知る古い友人に事の詳細を送った。
すぐに連絡をくれて、長く生きているとそういうこともある、と
最近よく言うし、よく聞く言葉を贈られた。

「しかし君は幸せになるよ」
「どうしてそう思う?」
「だってCV.小西克幸のSSRを持ってるじゃないか」
実はこの前日にスタオケの復刻ガチャで2月に課金をして結局出なかったCV.小西克幸のキャラを髪を乾かしながら出すという失礼極まりないことをした。
片手間で推しを出すなど愚行中の愚行。罰が当たっても仕方がない。
よって今回のことは罰認定した。
いいことがあった後は悪いことが起こる、逆もまた然り。
至極当然な摂理だ。

睡眠前にインストールしておいたマッチングアプリを開いた。
アプリを使うのは実に2年ぶりだ。
慣れた手つきで、しかし思い出しながら項目を埋めていった。

自己紹介。
マッチングアプリ界では顔の次に重要視されている項目だそうで、
ここをきちんと書いているか否かで、今後の展開に大きくかかわるらしい。
しかし、これが一番めんどくさい。
なに、質問に答えるだけでAIが自動作成してくれる機能がある?
そんな便利なもの、使わぬ者がいるだろうか。

『ご自身はどういう性格だと言われますか?』
私は元来、人見知りするタイプだ。以前に比べると人に慣れたほうだとは思うが、今でも初めましての人にはお守りのように自己紹介することにしている。ここでも例に漏れずそう答えた。『シャイ』と。

そうして完成した自己紹介文を整えて公開した。
同時に写真もいくつか公開し、準備はとりあえず整った。
あとは男性会員と出会って会話が始まれば後は流れに乗るだけだが、

退会した。

は???

そりゃそうだ。
私だって驚いた。
なぜそうなったか、答えはいつだってシンプルだ。

めんどくさい。

めんどくさいという感情は非常に強い感情だと思う。
一度そう思うともう何もできなくなる。
そして私はこの感情によく支配される。
今回もそうだ。めんどくさくなった。
それだけの理由だが、それが理由なのだ。

衝動的に退会したわけではない。
天秤にかけた結果、アプリが負けたのだ。
今の私は異国の言葉の魅力に取りつかれている。
見るドラマや映画、聞く音楽やラジオ、読む本、そのほとんどが異国の言葉だ。
異国に推しができ、その言葉を理解したいというところから始まったが、いまではすっかり生活の軸になってしまった。
つまり、誰とも知らぬ人に時間やお金を割くくらいなら、韓国語勉強したいんすわ、ということだ。

将来のことを考えると正直不安はある。
だが、焦った結果がいい結果だったことはあまり聞かない。
いまやりたいことがあるならそれを優先させるべきだと思うし、
そもそもやりたいことがあるという状況はとても幸せなことだ。

これは私の人生だ。
私がしたいことをして、楽に生きたい。
語学勉強がしたいならして、彼氏が欲しくなったら誰かと付き合って、
推しを応援したいなら応援する、そんな人生を送りたい。

自分で考えて自分で選択した結果はきっと、全部うまくいくはずだから。