ダイヤのA休載中の心構え

社会人になってからあまりマンガを読まなくなってしまったが、職業柄、高校球児との共通の話題を持っておきたかったことから、球児たちから圧倒的な人気を誇っている「ダイヤのA」という高校野球マンガを読み始めたのは数年前のこと。読んでみたら面白かったので既刊コミックスはあっという間に読破。読み進めていたらいつの間にか連載に追いついてしまったので、今はマガジン本誌で最新話を追いかけてる。

ストーリーをコミックスで追っかけている人はここで退場してください。これ以降はネタバレになるので。タイトルに書いちゃったから話のネタとは関係のない部分を暴露すると、ダイヤのAは2021年6月9日発売の週刊少年マガジン28号からおよそ2ヶ月程度の休載期間に入ります。んでこの休載に入った時期がこの作品のファンからしてみれば、それはもう最悪のタイミングで。休載が発表された時の最新話がなかなかに読者を困惑させるような話の展開になっています。こんなモヤモヤさせた状態で2ヶ月も放置されるのかよ!と叫びたくなっている読者は多く存在するだろう。ただ個人的にはここで時間ができたことで、少し先の展開を想像しながら連載再開後の答え合わせを楽しむべく、このマンガの今までの流れを整理していきたいと思う。

西東京大会の準決勝をこれ以上ない形で勝利し、いよいよ夏の甲子園をかけた決勝を目前に控えた青道高校。だがしかし、チームの雰囲気がなんかピリッとしない。好きな女の子にフラれて目の前の試合に集中できていない麻生尊。自主練中の呆れるほどの軽率さで足を負傷し、それを隠しながら試合に出場している前園健太。誰よりもチームの勝利のために全てを捧げた下級生エースが最高の投球をしたのに本人には何の声もかけず、こともあろうがそのエースのライバルと高校卒業後の話をする主将(御幸一也)。緩い。緩すぎる。読者の大半は3年生を見損なってるだろうし、「こんなヤツらは応援できん!」と腹を立ててる人もいるだろう。そのくらい戦前から壮大な負けフラグが立っている。

普通のマンガだったら、確実に次の決勝は負けます。むしろこの流れで勝つ展開があったとしたら決勝の相手(稲城実業)の部員の喫煙・万引き・飲酒が発覚、という主人公側以上の不手際を求めるしかなく、そんな展開にしたらドン引きもいいところなので、普通に試合をやって負けさせるでしょう。2年連続で主人公側を決勝で敗北させるのはそれはそれでスゴいことなので、もしそうなったら逆に作者を尊敬します。

そんなこんなで、最新話で露骨に敗戦を予感させといて休載に入ってしまったのでこの作品のファンは地獄の2ヶ月間を過ごすことになってしまった。ただ目先のこの休載期間は地獄なのだろうけど、長い目で見たらファンにとってはむしろ好都合だという期待もあったり。どういうことかと言うと、このダイヤのAは沢村栄純の3年生の夏まで物語が続いていくことになるんじゃないか、という期待だ。

実は私、少し前までダイヤのAは沢村栄純の2年生の夏をもって、物語が完結されるだろうと思ってました。理由としてはまず背番号1が与えられたこと。これで入学時から具体的な目標として掲げていた「エースになる」という目的は達成できたからです。それで次に沢村栄純が今夏のマウンドに立つたびに「この夏だけは譲れないんです」と心の中で叫びながら投球してるシーンが何度も描写されてること(じゃあ他の夏は譲ってもいいの?)、そして最後は何よりこの作品における御幸一也の存在が大きすぎること。特に御幸一也がこの夏で引退することが物語完結を予感させる最大の理由として挙げられました。

「ドラえもん」におけるのび太くんほどではないにせよ、この作品の真の主人公は御幸一也である、という見方をする人はたくさんいると思う。沢村栄純が地元のチームメートの友情を犠牲にしてまで高校入学時の上京を決意させた唯一にして最大の要因が「御幸一也のミットに目掛けてボールを投げる」ことだったし、作中でもチームの勝利やライバルとの切磋琢磨など他の動機はあったけれども、「この人(御幸一也)に認められたい」という欲求に勝る動機はなかった。沢村栄純にとって御幸一也の存在は絶対であり、作品自体も御幸一也の存在なくして物語が成り立たなくなるくらいには依存していましたから。

だから最新話で御幸一也が本音(プロ志望の意志があること)を自分自身ではなく、降谷暁に話してるところを沢村栄純に見せた場面は、個人的には競走馬の育成過程における離乳だと思ったんです。最後の最後までマウンド以外の場でのコミュニケーションが上手く取れなかった(タイミングや間の悪さに起因したものがほとんどでしたが)両者はここで半ば強制的に関係を引き裂かれ、各々で新しい物語に入っていくんだろうな、と。今夏の準決勝で見せた投球はこのバッテリーが作り上げた最高到達点で、もうこれ以上の投球を見せることはないでしょう。ただ主人公がやることがなくなってしまった、もしくは完全燃焼してしまったら物語の続きは書けません。沢村栄純には「結局、キャップ(御幸一也)とは真の信頼関係で結ばれることはなかったな」と心残りを作っておくことで、この物語が続く要因を作りたかったのではと思います。

そういう意味で、次期女房役の最有力候補である奥村光舟の登場シーンを今夏にこれでもかと挿入していることは伏線に思えてなりません。彼は御幸一也と違って、常に沢村栄純を気にかけてますから。よく見てるし、何か気づいた時には頻繁に声をかけてるので、この二人がどういうバッテリーになるのか、という点は非常に興味がありますね。もちろん同じ下級生捕手の由井薫と組むこともあるでしょうし、いっそのことDEATH NOTEにおけるニアではないですが「二人(奥村と由井)ならL(御幸)に並べる。二人(奥村と由井)ならL(御幸)を超せる」みたいな主人公の最終学年の物語が見てみたいなという気持ちは大きいです。これまで沢村栄純は御幸一也に導いてもらいながらバッテリーという作品を作り上げてきましたが、今後は奥村・由井とともに、導かれるのではなく、共同でバッテリーという作品を作り上げていく描写を楽しめるのですから。

なのでこの目先の休載期間は地獄ではありますが、物語は続くし、また面白いものが見れると思ったら、そんなに苦ではないと思うので、そういう心構えで休載期間を過ごしましょう。さて今夏の決勝はどうやって負けるのでしょうか。準決勝で先制されるキッカケとなったエラーはありましたが、前園健太の負傷がまだ回収されていない気もするのでこのあたりかなという気がします。あとは川上憲史をなぜこのタイミングで負傷(登板回避)させたのかも気になりますね。意外と接戦で負けさせるのではなくて、降谷乱調による大量失点で敗戦みたいなあっさりした感じで終わらせるのかもしれません。

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