『ルール63』の起源とか発展とかの解説
『ルール63』とは
『ルール63』をご存知でしょうか。記述のされ方にいくつかの種類がありますが、概ね以下のような内容で記述される英語圏インターネット文化における性転換ネタを説明するインターネットミームです。
Rule 64: For every given male character, there is a female version of that character, conversely for every given female character, there is a male version of that character.
これを日本語に意訳すれば、以下のようになるでしょう。
ルール64:どんなキャラでも、そのキャラの女体化・男体化が存在する。
『ルール63』は、インターネット上のあるあるネタや経験則を「規則」としてまとめた『Rules of the Internet』というネットジョークの中の一つです。知名度は同類型のミーム『ルール34』に次ぐでしょう。
ニコニコ大百科やピクシブ百科事典にも簡単な説明があります。
例えばクッパ姫もこのミームの概念に該当するキャラクターです。キャラクターの性転換ネタ創作は日本でも活発に行われており、体感に馴染むルールではないでしょうか。
このミームの解説については正直ここまでで十分なのですが、『Rules of the Internet』の調査で溜まった情報をまとめておきたいのと、『ルール63』について日本語で詳しく解説したサイトが見当たらなかったことから、備忘録がてらまとめたものがこのnoteになります。翻訳のガバはご容赦ください。(『Rules of the Internet』の全体像についてはそのうちまとめます)
『ルール64』の起源
様々なインターネットミームの記録・解説を行うウェブサイト「Know Your Meme」では、その起源を以下のように説明しています。
Google Insights(現Googleトレンド)を用いた調査によると、このルールの雛形は2007年夏ごろに登場したと考えられている。その後、2007年8月8日にInternetHateMachineというユーザーによってUrban Dictionaryに最初に投稿され登録された。さらに2009年12月12日にDeviantArt(世界最大のアートオンラインコミュニティサイト)にXxescaped-vulpinexXというユーザーが初めで「Rule 63」のタグを付けてイラストを投稿している。
文章化されたのが2007年頃ということは、ミームとしてインターネット上に広く拡散したのはさらに後年になってからでしょう。日本に届いたのは早くとも2010年以降ではないでしょうか。(事実、DeviantArtでタグとして使用されたのは、ミームとして登場してから2年以上も後のことです)
『ルール34』と比べ歴史が浅く、検索の面でも比較的未熟な『ルール63』ですが、しかし「キャラクターの性転換」という概念はミームとして成文化されるよりはるか以前から存在しています。例えばDCコミックスのスーパーガール(初登場は1958年8月)はスーパーマンにこの概念を適用して創出されたキャラクターと言えるでしょう。
ファンアートにおける女体化・男体化は特に珍しいものではありません。また、TSコンセプトの商業作品は枚挙に暇がなく、某ソシャゲは莫大な売り上げを弾き出しています。成文化が近年になってからというだけで、この概念自体の起源はどこまで遡ってよいのかわからないほどに昔からあるものなのでしょう。
『ルール63』と『Rules of the Internet』の関係
『ルール34』を解説したnoteでも軽く触れましたが、『Rules of the Internet』は2006年頃に生まれ、その後、拡張・記述の修正が長期間に渡って繰り返されているミームです。
そして『ルール64』は2007年に生まれた関係から、最初期の『Rules of the Internet』には組み込まれておらず、後発の拡張版から登場するルールになります。
しかし厄介なことに、後発の拡張版ルールはいくつも種類があり、『ルール64』は非常に有名なルールであるにもかかわらず、ものによっては記述がない場合もあります。なぜこのようなことになっているのでしょうか。
序文でも述べましたが、『ルール64』の記述のされ方にはいくつかのバリエーションがあり、掲載しているウェブサイトによって文章がまちまちです。また、例外規定や補足的に継ぎ足される説明項目が多いことも特徴です。
様々なウェブサイトに掲載されている『ルール64』の記述をまとめて書き出すと以下のようになります。
1: For every male character there is a female version. (No Exceptions.)
2: For every female character there is a male version. (No Exceptions. )
3: For every asexual character there is a version for each sex. (No Exceptions.)
4: 1, 2 and 3 does not include real people.
5. Real people are ruled unworthy.
これを日本語に意訳すれば、以下のようになるでしょう。
1:すべての男性キャラには女性版がある。(例外はない。)
2:すべての女性キャラには男性版がある。(例外はない。)
3:すべての無性別キャラには、それぞれの性に対するバージョンがある。(例外はない。)
4:これらのルールは実在の人物には適用されない。(架空の人物にのみ適用される)
5:実在の人物には価値がないと判断される。
日本語で紹介される『ルール63』は1と2までで、3~5は省かれていますね。無性別キャラとは、例えば『エイリアン』などのモンスターキャラが含まれます。性別不詳キャラも対象になるでしょう。「実在の人物には適用されない」という例外規定は重要らしいですが、必ずしも適用されるというわけではなく、実在の人物を対象としたアートも存在します。また英語圏インターネットでも3~5は省かれることが多く、なんともややこしい様相を呈してます。
これを踏まえた上で、『ルール63』が必ずしも『Rules of the Internet』のに組み込まれるわけではない理由を挙げると以下のようになるでしょう。
・単純に文章が長い。
・例外規定と補足項目が多く、合意された明確な文章がない。
・実際には法則が当てはまらないキャラクターを多数確認できる。
・ファンアート的な創作に依存する法則であり、「インターネットのルール」として扱うべきか議論の余地がある。
・創作物がポルノやジョークに強く依存しない(ギャグにならない普通のファンアートである場合が多い)。
・『ルール34』と異なりルールに必ず組み込む理由が弱い(拡張版を編纂した人の好みの影響を受けやすい)。
これらの理由により、必ずしも合意を得られているルールとは言えないためでしょう。また後発のネットミームであることは大きく影響しているのでしょう。しかし時間の経過と共にかなり一貫した人気の伸びを示しているミームでもあります。つまり、まだ発展途上のミームなのでしょうね。
ファンアートとしての『ルール63』について
2020年2月現在、DeviantArtにおいて「Rule 63」のタグが付いたイラストは19100件以上投稿されています。(ちなみに「Rule 63」タグにおける人気のコンテンツは『ヘタリア』、『Team Fortress2』、そして「任天堂のキャラクター」らしいです)
なおDeviantArtは成年向け作品に対する細かいガイドラインが設けられており、露骨なポルノや、事実そうであるかとは別に(芸術作品でも)児童ポルノと見なされるイラストの投稿が禁止されています。かつては画像投稿サイト「rule 34」の姉妹サイトとして「rule 64」が存在しましたが現在では統合されておりますので、『ルール64』に関するポルノが見たければDeviantArtではなく画像投稿サイト「rule 34」から「Rule_63」で検索してみてください。
『ルール63』の評価
2015年7月10日に米国経済誌フォーブスに掲載された記事では、2016年の映画『ゴーストバスターズ』にこの概念の適用を見ています。
この記事では、『ルール63』を普及させたのは確かにインターネットだが、その概念はファンダムの現実社会での活動が生み出したと述べています。またこの概念はコスプレ文化においてよく見られると説明しています。確かに日本のコスプレ文化でも、性別を飛び越えて好きなキャラクターのコスプレをしている例はよく見かけます。
そしてこの概念がハリウッドに認められ2016年の『ゴーストバスターズ』を生み出したことは、ファンダムがこの概念を国内で醸成させてきた成果であると言えるとも主張しています。
最後に
『ルール63』は「インターネットのあるあるネタ」というよりは、活発なファン活動と、それによって生まれるファンダムの世界に対する言及と言うべきなのかもしれません。自由なファン活動ができる環境が維持されることは創作文化において最も重要な要素なのでしょう。今後も社会がそうであり続けることを望みます。(ただし巨額の売上を出す二次創作の黒寄りにグレーな部分の問題点については別個に議論しましょう)
しかし現在の創作文化とインターネットは切っても切れない関係にあることも事実です。ゆえに、創作文化を楽しむにはインターネットを楽しむ必要があるでしょう。インターネットは「楽しい」を見つける場所です。間違っても「怒り」を見つけるためにインターネットを使ってはいけません。悪いインターネットをやめて人生を始めましょう。
補1
「ふたなり」は『ルール63』の適用例とは見做されません
補2
『涼宮ハルヒコの憂鬱』がわからない世代って、今のインターネット人口の何%くらいなんですかね…?