#7 【ショートショート】 沖
少年は沖を漂っていた。
沖というくらいだから、当然陸地は見受けられない。そこにあるのは色にして、青と白だけだ。
少年は長いこと、一つの浮輪に腰を預けながら、そこを漂っていた。
少年は水が飲みたいと思った。それはそこらじゅうにあったが、少年はそれを飲んではいけない事を知っていた。
少年は物が食べたいとも思った。それは少年の乗っている浮輪の下にあるらしかったが、少年はそれを取る術を知らなかった。
また少年は、誰かと会話したいと思った。しかしそこには会話する能力を持った生物の姿はなかった。
少年の願いは、何ひとつ叶えられることはなかったのだった。
後に少年は偶然通り掛かったどこかの国の船に救助された。
少年は衰弱し、船の乗組員と意思の疎通をとることも儘ならない状態だったという。
少年の記憶は混濁し、自身の身元もわからない状態だったので、船を所有する国におかれることになった。
少年はそこに家を築き、老いて死ぬまでそこで暮らした。
彼は幸せだった。
なぜならそこには、飲む水があり、食べる物があり、会話する人がいたのだから。