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#6 【ショートショート】 Powerplant

先日PCの整理をしていたら過去に別のブログに載せていた文章が出てきたので転載してみます。
今後は新しく書くものも合わせて更新していければなと考えています。お付き合いください。


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「今日から配属になりました園原です。よろしくお願いします」

「うむ。私は発電管理課課長の木山だ。せっかくなので歓迎会でもしてやりたいところだが、あいにくこの寒さだ。暖房を使う家庭が急に増えたらしくてな。悪いが初日から残業してもらうことになりそうだ」

「構いません。ではなにをすれば?」

「君にはB高炉に入ってもらい、不具合が生じていると思われる部位の交換をしてもらいたい。本来ならベテランの作業員にやらせることだが、手が足りなくてね」

「分かりました。手順を教えてください」

「うむ。まずは高炉入口の手前にあるモニタで全体のスキャンを行い、不具合のある部位を特定してくれ。次にこれへの対処方法だが、モニタ内の問題の部位の横には何らかのマークが点灯するはずだ。それを確認し、今度は整備室に向かい、同じマークの棚から作業用具一式を取り出して、もう一度高炉入口まで戻ってきてくれ。まずはそこまでだ」

「了解しました。」

「ふむ、なかなか真面目な青年のようだ。最近はすぐに音を上げる腰抜けばかりで困っていたが、彼なら大丈夫かもしれんな」

「課長、指定された作業は終了しました」

「ややっ、もう終わったのかね」

「はい」

「では確認をば。…よし、問題ないな。では次はいよいよ炉に入ってもらう」

「はい、課長」

「では持ってきた作業用具の中にある作業着に着替えてくれ」

「もう着替えております」

「なんと。では次は長靴とグローブだが」

「それもすでに装着済みであります」

「いやはや、君には驚かされる。それではこのインカムをつけて炉内に入ってくれ。二重扉の中で全身と作業キットの洗浄をするのを忘れないでくれたまえ」

「分かりました」

「――園原君、聞こえるかね?」

「はい課長、問題ありません。洗浄も滞りなく終了しました」

「よろしい。では問題の個所に向かってくれ。A-27パネルだ」

「もう到着しています」

「瞠目結舌とはこのことか。園原君、君はどれだけ飲み込みが早いんだい?君にかかれば太平洋だって三日とかからず干上がってしまうだろうよ」

「ありがとうございます課長。…ですが、これは一体……?」

「どうしたのかね?」

「木山課長、これは、なんですか?この、肌色の」

「なにって、ははは。面白いことを聞くんだね園原君。おっぱいに決まっているじゃないか」

「やはりそうですか。この色、この形からするにおっぱいではないかと思いはしたのですが。…しかしなぜここにおっぱいがあるのですか?しかも課長、壁一面に無数のおっぱいが張り付いています。まさか、この高炉全体におっぱいがくっついているのですか?」

「当り前だろう。高炉の中におっぱいがなくて他に何があるって言うんだい?――まさか君、原子力なんていう危なげなエネルギー源が本当に使われていると信じていたのかい?」

「そんな。確かに僕は、学校で『発電には原子力、水力、火力、地熱、風力が主に使われる』と習いました」

「そんなもんは政府のでっちあげだ。まぁ、発電におっぱいを使うことを大っぴらにしたくないという意見もわからんでもないがな」

「何ということだ。さすがの僕も泡を食いましたよ木山課長」

「君もなんでも知っているというわけじゃあなかったみたいだな。まぁ、気を落とすこともない。作業を続けよう」

「了解しました」

「では、パネル内にある縦6段、横4列に配置された計24個のおっぱいに異常が見当たらないか肉眼で確認してくれたまえ」

「はい。――課長、右から1・2列目、上から2段目の二つのおっぱいだけ、やけに小さいです」

「園原君、それは仕様だ。大きさに拘泥することなく異常なおっぱいを見分けるのが、ここの職員に求められるスキルなのだよ」

「はい、すみません課長。精進します」

「うむ。では改めて聞くが、異常なおっぱいはあったかね?」

「はい、最左列、下から3段目のおっぱいの色が、他に比べて明らかにくすんでいます」

「でかしたぞ園原君、そいつが問題のおっぱいだ」

「どうすればよいのですか」

「おそらく乳腺に何かが詰まっているのだろう。揉んでやってくれ、園原君」

「はい。…おぉ、これはなかなか」

「どうかしたかね?」

「いえ、僕の理想の感触に近かったもので、つい」

「ははは。A-27最左列の下から3段目は職員の間でも人気の高い名おっぱいだからな。たぶん点検の者が弄りすぎたのがトラブルの原因だろう」

「なるほど。いやしかし驚心動魄させられました。いつまでも揉んでいたいものですが、そんなことをしたら腱鞘炎になってしまいますね」

「うむ。しかし園原君、グローブについている赤いボタンを押してみたまえ」

「はい。…これは。素晴らしい」

「驚いたかね」

「えぇ。まさかグローブに指の運動の補助機能がついているなんて」

「ちなみに側面のダイヤルで速度調節ができるぞ」

「すごいです課長、おっぱいの色がみるみる良くなっています」

「うむ、モニタからもマークが消えたぞ。もうこれで炉を動かせる」

「では僕も引き上げます」

「よかろう。全身と、グローブは特に念入りに洗浄してくれたまえよ」

「分かっています」

「よし。管理班!B高炉運転開始スタンバイ!―――園原君、休憩室でカフェオレでもどうかね?ははっ、心配しなくても入れるのは牛の乳だよ」

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