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「“医療をする”から“医療をつくる”、そして世界へ」総合川崎臨港病院理事長・渡邊嘉行 - 医療人2030 Core
新しい医療のパラダイムが求められている現在。そんな時代にふさわしい、次世代医療を担う人材を育むプロジェクトが「“医療人2030”育成プロジェクト」です。
活動の核となるセミナー「Coreコース」の第6回は前後半の2部構成となり、後半は総合川崎臨港病院の理事長を務める渡邊嘉行先生が登壇しました。「医療をする」ではなく「医療をつくる」を標榜する渡邊先生の多角的な活動は、どのような思考に基づいているのでしょうか?
2024年12月20日に行われた講演の一部をお届けします。
登壇者プロフィール
総合川崎臨港病院 理事長
渡邊 嘉行
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渡邊先生が理事長を務める総合川崎臨港病院は、神奈川県川崎市川崎区に位置。周辺地域はテック企業が集まる川崎の戦略特区になっています。
価値観がガラリと変わったアメリカでの体験
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200床ほどの総合病院の理事長を務める傍ら、「医療とAI」や「次世代医療機器開発」などにも精力的に関わっている渡邊先生。当初は研究の世界で生きていくつもりだったと語る渡邊先生が、なぜこうも多様な活動に身を投じることになったのでしょうか? 講演の序盤では、転機となったアメリカでの体験が話されました。
研究者としてアメリカで過ごしていたある日、渡邊先生はアキレス腱を断裂する大怪我を負います。車椅子と松葉杖を使った不自由な生活になって驚いたのは、どこに行っても不自由な自分を無視することなく、誰かが声を掛けてくれることでした。見て見ぬふりをするのが当たり前の日本との違いに、渡邊先生は「人生の価値観が180度以上変わった」と振り返ります。
「ケガの手術の翌日から車椅子で研究に行くことになったんです。そしたらどこに行っても、『お前、名前なんだ?』って声を掛けてくれる人がいるんですね。そうやって車椅子で生活しているうちに友だちがどんどんできることにもなった。それで、花屋さんとか町のおじいちゃんおばあちゃんとか、いろんな分野の人とコミュニケーションを取ることが何よりも大事だと学ぶことができました」
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帰国した渡邊先生は、祖父の代から続く総合川崎臨港病院を継ぐことに。2代目である父の思いつきでしたが、病院の内情は大赤字で、毎月のようにメインバンクとの面談に追われることになります。しかしその顛末も、企業や自治体といったアカデミア外の繋がりに恵まれ、現場のニーズへの知見が深まることになったと、ポジティブに捉えているそうです。
戦略的に実現させた読影AIシステム
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病院の再建に明け暮れつつも、渡邊先生は日々の実務の中でできることを探しました。そこで着目したのが、川崎市が2012年から推進している「胃がん内視鏡検診事業」です。内視鏡がん検診で撮影された画像は、検診した病院で読影されたあと、医師会の二次読影(合同読影会)に回されます。そこでは専門医が集まり19時から3時間をかけて、1人2940枚もの画像をチェックしなくてはいけません。
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この膨大な作業をAIに肩代わりさせられないか? そう考えた渡邊先生は、日ごろから交流していた自治体の方々と話す中で、読影AI実現化の道筋を手繰り寄せます。まさしく、異分野の人とのコミュニケーションを大切にしていたからこその達成と言えるでしょう。
「川崎の自治体の方たちと話していた時に、『Connected Industries推進』予算の使い途がたっていないことを知ったんです。『AIシステム開発』という名目で医療系は対象外かと思ったのですが、経産省主導なのでマネタイズ部分をうまく構築できればいけるのでは? と考えました。
そこで『AIで自動で見られるだけではなく、川崎市の医師たちの協力で優れたAIができたら、それを川崎市だけで使うのではなく、クラウドベースで使えるシステムにしましょう』と提案しました。そうして他の自治体と契約すれば、川崎市は使用料を徴収できるじゃないですか? もちろん『川崎市が儲かりますよ』だけではなく、『オンラインでの二次読影が実現すれば、海外などの内視鏡検査が進んでない地域にも貢献できます』というストーリーを書いたところ、意外とあっさり通ってしまったんです。
そうして獲得した3億円で実際に動き出したらすぐに協力企業が集まってくれて、内視鏡画像の診断システムができあがりました」
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セミナーはまだまだ続きましたが、本レポートはここまでとなります。
渡邊先生はこの他にも、医療AIの活用における法整備の問題や、医療のグローバル化に伴うビジネスチャンスの拡大可能性といった幅広い話題を展開。その視野の広さに触発されてか、参加者の方々は講演終了後に多様な質問を渡邊先生に投げかけていました。
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“医療人2030”育成プロジェクトにぜひご参加ください!
「“医療人2030”育成プロジェクト」では、魅力的なゲストを招いたセミナーを今後も開催していきます。2024年度は全12回+αを予定しているので、興味を持たれたらぜひ以下よりWEBサイトにアクセスしてください!
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未来の医療を創る‘医療人2030’育成プロジェクト
https://marianna-dhcc.jp/