デトロイト発のアンダーグラウンドなテクノ/Siobhan - Body Double [Nostilevo]
Artist: Soobhan
Title: Body Double
Label: Nostilevo
Genre: Techno, EBM, Industrial
Format: LP
Release: 2022.07.08
アメリカ合衆国のミシガン州デトロイトを発端とし、現在はカリフォルニア州のロサンゼルスに拠点を置く、アンダーグラウンドに活動するノイズ~テクノレーベルNostilevoより、Travis GallowayのプロジェクトSiobhanのアルバム。
デトロイトとテクノの二つのキーワードが来れば、テクノ黎明期に一つの時代と礎を築き上げたジャンル「デトロイトテクノ」が真っ先に思い浮かぶだろう。黒人の宇宙とも形容される、ディープハウスに寄せたテクノとは、全く別の文脈を現行で進むレーベルNostilevo。
本作の最も特徴的なことと言えば、このレーベルの特徴でもある(誉め言葉としての)音質の悪さ。カセットテープが腐食して再生されたような、もわっとした雑音交じりの音である。これにスカスカとしたビートに太いシンセ音や(良い意味合いでの)音質の悪さから醸されるアンビエント感のあるような楽曲、良い意味での「頭の悪さ」が顕著な楽曲で構成され、テクノ、パンク、ハードコア、ノイズ、インダストリアル、EBMといったジャンルの境界線が曖昧に溶け込んでいる。オシャレさとは真逆に、我が物顔で堂々とあらゆるものを無視して真正面を突き進んでいくスタイルは清々しさで満ち溢れている。
Beatportなどで代表されるような四つ打ちの楽曲は、より良い音質を、より最新のマスタリングをという音の輪郭の更なる解像度の追求により、音の一つ一つがクリアーになっている楽曲が多いように思う。2011年よりコンスタントに活動を続けているNostilevoはこういった音質の良さの追求とは一貫して距離を置いている。カセットテープでのリリースが主立っていることもあるのだろうが、音質の悪さ(ローファイさというべきか)に徹底した美学を感じる。
マスタリング技術の進歩は一見すると作曲に大きく影響を与えていないように囚われがちだが、以前は、分かりやすく言えば90年代などでは、土臭さを感じるような楽曲や(現在と比較して)音の解像度が曖昧な楽曲が多々見受けられたように感じられるが、2024年現在では音の一つ一つを意識して創られたかのような、非常にクリアーな楽曲が多いように思う。筆者の体感ではあり、明確な数字や根拠はないが、マスタリング技術の発展と共に音楽のシーンの在り方やジャンルには少なからず影響しているようにも思われる。
そういった時流とは何のそのと言わんばかりに、我が道を図太く進む、ある意味、現在求められている音質とは対照的な道を歩むNostilevoの在り方というのは、良い音質、クリアーな音質だけが全てではないということを教えてくれているように思う。適材適所という言葉があるように、ローファイな音質でこそ良さを感じる楽曲もあるということである。