バーチャルマーケット2023Winter 企業展示ワールド速報レポート
2023年12月2日から12月17日までの15日間に渡り、ソーシャルVRプラットフォームであるVRChatにて「バーチャルマーケット2023Winter」が開催されている。
今回も多数の会場が入り乱れる中ではあるが、本記事では速報記事として、パソコン/VR版の企業ワールド3種の会場をさっくりと回ってきた様子を取り上げていく。
夜のエントランスから見える風景
今回はバーチャルマーケット2023 Summerと同様に円形のエントランスワールドを起点に各会場へ移動する事となる。
前回のエントランスは昼間の様な明るい青空であったが、今回は日が落ちた後の星空と街明かりが共演する夜が舞台となっている。
なお今回も吹き出しとしてメッセージを残せるギミックは健在のため、存分に書き殴るのもまた一つの楽しみ方だ。
ホーンテッド・ロンドン
最初に紹介するのはイギリスの首都、ロンドンを舞台とした「パラリアルロンドン」である。
英国と言えば列車、そして世界最古の地下鉄が走る街だ。
列車を降りた先にある不思議な扉をくぐれば、バッキンガム宮殿やヴィクトリア記念碑が鎮座するスタート地点に到着する。
パラリアルロンドンでは街全体が夜の喧騒に包まれており、そこかしこに浮遊する楽器や箒といった様々な物が存在する。
英国と言えば鉄道という要素もあるが、もう一つ欠かせないのが「幽霊」の存在である。
街全体を取り巻く空気はさながら過ぎ去ったハロウィン、あるいはこれから訪れる聖夜に向けての前夜祭といった様相を呈している。
特に今回このワールドで印象深い物の一つが、海外向け代理購入サイトである、tenso株式会社の手掛けるサービス「Buyee」の英語による広告動画だ。
これまでバーチャルマーケット向けに出向される広告の大半が日本語音声や文字といった情報で構成されていたのに対して、このワールドは入り口から海外ユーザーを狙い撃ちにする方式を採っている。
会場がロンドンであるという事も含めて、非常にユニークな采配と言えるだろう。
だが忘れてはならないのは、ここはバーチャルマーケットの会場であるという事だ。
先日Sharp Tech-Dayで新型のVRヘッドセットを見せつけたシャープ株式会社のVRグラスの展示はもちろん、株式会社高島屋の「Japan SAKE祭」という呑兵衛にはたまらない利き酒ブース、極めつけは株式会社ユニバーサルエンターテインメントの駿府城をモチーフにしたブースだ。
ここはリアルのロンドンではないので城が立っていようが、その近くに株式会社大丸松坂屋百貨店のこたつが鎮座していようが問題は一切無いのである。
なおJ.フロント リテイリング株式会社の手掛ける『大丸・松坂屋アバター販売公式』オリジナルアバター展示会場も存在する。他のワールド同様、ここでも間近で見る事が可能だ。
パラリアルロンドン最深部ではスーパーマーケット ベルクの運営元、株式会社ベルクのブース入り口のポータルと共に時計塔、ビッグ・ベンがお出迎え。
そしてなんとそこにはユーザーが実際に座って飛び回れる箒も用意されている。
この浮遊ギミックは、ややもすればマップ上の侵入不可能な所や裏側という、制作者としてはあまり見られたくない所にまで行けてしまう問題点も持ち合わせている。
しかし今回このように実装した点を鑑みれば、それ以上のメリットがあるからこそ投入を決定したものと見て良いだろう。
この点については、最後のまとめの部分で触れていくことにする。
沖縄的龍宮鱝生活
次に取り上げるのは、日本最南端の沖縄県の政令指定都市である那覇市などを舞台とする「パラリアル沖縄」だ。
しかしこのワールドに降り立ったユーザーはややもすれば「海岸以外何もないのか?」と思ってしまうかもしれない。
そのまま前を見れば、何やら少年たちがマンタをいじめている光景に出くわすことになる。
近づいたあなたは逃げ出す少年をよそに、何やら感謝の意を伝えてくるマンタに促され背中に乗ることになる。
その行き先こそが「パラリアル沖縄」である。
このパラリアル沖縄は全体が海中に形成された国際通り島、シーサー島、首里城島で構成されている。
これまでの企業ワールドの中でも海中という設定でワールドが形成されている例は無く、同県の誇る海の魅力を存分にアピールするビジュアルとなっている。
国際通り島では、他のワールド同様ヤマハ発動機株式会社の謎の乗り物であるニャイケンなどに試乗できる他、静岡県焼津市がまたも海産物をテーマとした落ち物パスルを展開。
株式会社バンダイナムコミュージックライブによるダンス会場などユニークなギミックが多数盛り込まれている。
玉泉洞を潜った先のシーサー島では目の前に株式会社パイロットコーポレーションのブースが鎮座。全てが正解のPILOTブランドになる割りと謎めいたクイズやお絵描きしたオブジェクトが動くギミックという、これまた実装方法が謎に包まれていそうな高度な展示となっている。
最奥部の首里城島は、現在復元の進む首里城をモチーフとしたエリアだ。
ここでは愛知県豊田市がブースを出しており、モノづくりの街ならではの「空飛ぶクルマ」を存分に堪能する事が出来る。
また沖縄のご当地バーチャルタレント「根間うい」氏が飾られているフォトスポットもあり、記念撮影にうってつけの場所と言えるだろう。
バーチャルとリアルで駆け抜けるシブハラ
最後に紹介するのは「パラリアル渋谷・原宿」というワールドだ。
これは他の2つのワールドと違い、より実際の地形に近い街歩きを可能とするワールドである。
またこのワールドは、12月16日と17日 に渋谷・原宿で開催する『バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ』の舞台となっている場所をモチーフとしており、前回のバーチャルマーケット2023 Summer同様に現実世界と連動した企画と言えるだろう。
最初に降り立つ原宿駅前から会場を見て、多くの人が強く引き込まれる印象を持つであろう要素はその色彩である。
左右に咲き乱れる桜、ヴィヴィッドなペールピンクの空、街全体がどことなくポップ調の白とピンクと差し色の赤で彩られる風景。
これまで原宿といえばややネガティブなイメージで語られる事もあった時代はどこ吹く風か、非常にビビッドでありながらも万人受けするおしゃれ可愛い街に大変身を遂げている。
ロート製薬株式会社のブースをはじめとした多くのブースがポップでキュートな装いを見せている中で、ある種いつもの調子を崩していないのが最初の突き当りに鎮座する株式会社ビームスのブースだ。
こちらを取材中に店員の方にお話を伺う事ができたが、もちろん今年のこの会場にも「アレ」が存在する。
すなわち、サングラスを掛けたあの男である。
賢明な読者諸氏はもうお分かりだろうが、実際に会場で探される方の為に店員の方から最大のヒントを頂く事が出来た。
同ブースの屋上をよく探してみること、それが最大のヒントである。
そこから更に先に行くと鎮座する馬達は今回も出展を果たしているJRAこと日本中央競馬会からやってきた面々である。
そこに併設されているのはサミー株式会社のパチンコブースであり、まさに二大賭博が揃い踏みしている状況だ。
馬達の背後にあるのは、裏原宿と呼ばれる場所にある商店会「原宿神宮前商店会」の文字。
ここから伸びるキャットストリートこと、旧渋谷川遊歩道はブティックやカフェなどが立ち並ぶ、オシャレと流行の発信地だ。
その最中にあるのが東京地下鉄株式会社の展示している地下鉄車両である。
地下鉄1000系として知られるこの車両は、なんとモデルが同企業の内製品であるという。
公共交通機関において自社で3Dモデルを制作し、外部への活用を行うケースは今もまだ少ない中で、貴重な一例と言っても過言ではない。
天井に星空とネオン煌めくキャットストリートを通り過ぎれば、そこは渋谷の中心地である渋谷駅ハチ公前広場だ。
今回のワールドではこのあたりは大胆なアレンジが加えられており、広瀬香美氏のライブが開かれる株式会社JVCケンウッドのブースや、ディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」「スター」で配信される「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」のブースといったものと共に、渋谷駅前がぎゅっと濃縮されたスケールで詰め込まれている。
最奥部にはクリスマス仕様となった中山競馬場への入り口のポータルと共にあるのは、今回ワールドの入り口にある「ねこネクター」で生成した「Vねこニャン」と一緒に歩けるランウェイだ。
このパラリアル渋谷・原宿ワールドの各所にある猫の様な形をした鏡のオブジェクトの前には、Vねこニャンに装着可能なアイテムが多数用意されている。
思い思いのファッションで、渋谷の街のランウェイを自分のアバターと歩く事が出来るのだ。
今回も自重しない公式番外ワールド
今回もいくつかの企業が会場とは別個にワールドを展開している。
まず中山競馬場に関しては、なんとクリスマス仕様に大幅バージョンアップを遂げている。
ゲームルールにも変更が入り、稼いだ通貨でドレスアップも可能になるなどゲームワールドとしてのクオリティを非常に上げた形となっている。
株式会社JVCケンウッドの中央やや奥のポータルから行けるブースでは、アーティストの広瀬香美氏が歌う「ロマンスの神様」がパーティクルライブ仕様で登場。公演も一度きりではなく、なんと10分間隔でイベント終了まで開催され続けている。
「リッチな3Dモデルを使用したバーチャル空間でのライブにおける、一度きりなのに少人数でしかライブ体験が行えない」という問題点を逆手に取った力技極まる素敵な解決方法である。
そして今回も自重していない筆頭に入りそうなのが、株式会社ベルクのブースである。
今回はなんと「スーパーベルクカート∞(インフィニティ)」という、タイトルからして某花札企業の監視の目が飛んできかねないコンテンツを追加実装。
その上コースデザインはなんと、ネオンサイン煌めく夜空に広がる虹の上を
走行していくコースとなっている。
コース上に散らばるドリンクで加速しながら、コーナリングをしっかりと決めてゴールまでのタイムを競うというベルクカートのルールはそのままにコースを延長、拡大したものだ。
ここまで実装するに至ってどなたからもお叱りが入らなかったのかというVRコンテンツ実装における境界線を綱渡りするかの様なこのコンテンツも、今回のバーチャルマーケットでは大きく取り上げられている。
エモーショナルなバーチャルマーケットへ
以上が今回のバーチャルマーケット2023 Winterの企業ワールドの様子であるが、これでもまだ紹介できた量はおおよそ半分ほどであり、ワールド各所に散りばめられた広告や他の企業のマスコット、ブースは数多く残っている。
そんな盛り沢山な今回の会場について見いだせる共通項の様な要素として「どこでもエモさ溢れる自撮りが出来る」という点が挙げられる。
これまでも数々開催されてきたバーチャルマーケットではあるが、特に今回の会場においてはどこを撮ってもいい感じの画になる要素が入ってくるのである。
ロンドンであれば多量のパーティクルや星空、建物の賑やかさがそれに当たり、沖縄であれば美しい海中の風景や滝やハイビスカスに龍、渋谷・原宿であれば満開の桜とポップな町並みに柔らかい色の空といった、「おおよそどういうところに来ていると一目で伝えられる」要素が多い。
そしてこういった要素は総じて過度なリアリティを由来とするのではなく、それを仮想空間上に見て飽きないコンテンツとして再解釈した上で造成される物ではないだろうか。
現実では出来ない表現を可能とするからこそ、現実以上にエモーショナルな体験を伝える事が出来ると言っても良いだろう。
バーチャルマーケット2023Winterは、2023年12月17日の23時まで開催されている。
ぜひ年の瀬の思い出に、まだ見ぬ世界へ足を運んでみてはいかがだろうか。