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【Column】Japan Shrine[Winter]公開 2019年以来のワールド公開とコミュニケーションの在り方

2023年の暮れも迫る12月30日、X(旧Twitter)上で重要なツイートがなされた。RootGentle氏によるワールド「Japan Shrine」のウィンターバージョンが公開されたというのである。
以下がそのポストである。

 その日のうちにCommunity Labを脱しPublic化を果たした同ワールド。なぜこれだけ盛況となり、なぜバーチャルライフマガジンの様な他メディアが速報記事を出すほどにこれだけ盛り上がるのか。

本記事では、2019年春先以降からも始めたユーザーにもわかる様に、その鍵となる要素を取り上げていく。


小さなコミュニティと交差する場所

 時は遡り2017年後半から2018年冬の時期。
VRChatというタイトルは日本のユーザーにその名を知られていく事になる。
当時流行の兆しがまだ微かに見えるレベルである2018年初頭のバーチャルYoutuber界隈において、ねこます氏の動画コンテンツがにわかに話題となる。
ポッキーをブンブン振りながら遊んでいるその様子などから「アニメーションキャラクターの様な姿で、リアルタイムに全身を動かす事が出来る」ソリューションが認知され、その先にあるコンテンツとしてVRSNSであるVRChatが徐々に認識される事となった。


 当時は現在の様なサーバー分けも無ければ、ログインすればHubというPublicワールドに放り込まれ、大体が海外ユーザーに絡まれるか運が良ければ日本人に会えるという導線も何も無い状況でワールドを探索する他無かったのである。
そんな中で総数3桁程の日本人ユーザーが集える場所のニーズが生まれ、「Fantasy集会場」という一種の合流地点の様なワールドが出始めたのだ。
とはいえ当時のワールドのクオリティは、現在の様にその制作体系が整理されている物ではない。
だからこそある意味「場所」としてのアクセシビリティが優先され、クオリティという要素で見ればいわゆるPlaystation2時台の様なゲーム的ビジュアルに終始するワールドが多く見られた。
そんな中でRootGentle氏は「Sakura Hiroba」というワールドを公開。2018年当時においてもエモーショナルなワールドは瞬く間にVRChatユーザーの観光名所として取り上げられていった。
その後公開されたのが「Japan Shrine」である。

 日本の神社をモチーフとしたワールドは、桟橋と門から始まり参道には御手水や社務所、うどん屋が立ち並ぶ。
そこから鳥居をくぐり階段を上がれば拝殿とその脇にある祠へアクセスでき、更に奥には本殿があるというシンプルな構成である。
それでいて各所には少しずつ、室内や脇道にアクセス出来る箇所が存在する。

 Japan Shrineの最大の見どころは、なんといっても2018年当時どころか現在ですら通用する写実的なビジュアルだ。
川のせせらぎや木々のざわめきといった環境音を背景に、どこか懐かしい日本の趣を感じさせる社務所の小上がりやうどん屋の天ぷらにおにぎり。
更には所々にある半開きのトイレといったものも含めて、そこに存在しているであろう生活感に対する没入具合が非常に高い。
拝殿の脇にある祠へ通じる幾つもの鳥居や拝殿の供え物といった小さな物に至るまで、制作された物のビジュアルに妥協が無い程にリアルである。
導線としても一直線の大路から左右に枝が少々分かれるといった構造の為、各所でユーザーが屯するにはちょうどいい作りとなっているのだ。

 そんなJapan Shrineは公開後から多くのユーザーが詰めかけ、また交流する場として大人気となった。
海外から見たなんちゃって日本感のあるワールドでもなく、それでいて過剰にデフォルメされたビジュアルでもない。この絶妙なラインが世界中のユーザーから愛されたと言えるだろう。

 その後同ワールドは2019年2月に諸般の事情で非公開となり、以降はファンメイドのワールドが作られる事はあったものの公開はされてこなかったのである。
昨日の公開に至るまで、このワールドは「2019年初冬までのユーザーの記憶に残っている」ものであったのだ。

「人が集まっているのはやっぱり素敵」

 今回のJapan Shrine[Winter]は以前の季節が夏頃であったのに対し、真冬の雪降り積もる境内となっている。
またワールドの光景も真昼の暑い昼下がりから、朝方もしくは夕暮れのほの暗さを感じる時刻へシフトしている。
とはいえ相変わらずうどん屋は営業中であり、社務所も開いていれば拝殿や祠にも自由に立ち入る事が出来る。
以前と変わらない姿がそこにあるのだ。

 改めて公開されたこのワールドは、ただ単に往年のユーザーが懐かしがっているから人気があるのかといえばそうではない。
現在のワールド制作にも通じるクオリティの高さはもちろんの事であるが、訪れたユーザーが語る一言にその全てが詰まっていた。

「人がこうして一つのワールドに大勢集まっている光景って、やっぱり素敵ですよね」

 かつて集会所系のワールドには、日本人ユーザーはもちろん日本語を話せる海外ユーザーなどが多く集まっていた。
1インスタンスにつき多い時で15人ほどという人数でありながら、その絶対数の少なさ故に頻繁に会い、語り、遊び、コミュニティとして「Force」と呼ばれる集団を形成するなどいわば開拓精神に溢れたアーリーアダプター達がそこに居たのである。

 現在のVRChatも確かに多くのイベントが開催され、そして似たような嗜好や属性、パーソナリティのユーザーが集まりやすい構造となっている。
しかし「話す言葉だけは通じるが、それ以外はまるで違う雑多なユーザー同士がコミュニケーションを取る」という場所は失われて久しい。
これはユーザーの絶対数が大規模化するが故の宿痾の様なものであるが、コミュニティそのものが細分化され続けた結果としてユーザー同士が直接的に交流出来る場が求められた結果でもあるといえる。
現に今回のJapan Shrine[Winter]はYoutubeなどの動画を再生できるプレイヤーはあるが、それ以外のギミックは搭載されていない。
そう、多くのワールドで置かれているであろう鏡やペンを始めとしたコミュニケーションツールといったものが無いのである。
だがそれでも多くのユーザーは昨日公開されたばかりのここへと詰めかけ、無事に一日も経たずにCommunity Labを脱しPublic化を果たした。
それこそが、VRChatにおける「ニーズ」の在り方を表しているのかもしれない。

 今回のJapan Shrine[Winter]は降りしきる雪の積もる冬のワールドとなっている。
年末年始のこのタイミングで、是非当時を知るユーザーも知らないユーザーも、一つ所で気軽にコミュニケーションを取ってみてはいかがだろうか。
ひょっとしたら、初日の出の様な運命的な出会いが待っているかもしれない。

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