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【Event】Weird展 現実と交差するserial experiments lainの心象風景

 2024年6月20日、VR対応SNSサービスであるVRChatにて、「Weird展 ようこそ、ワイヤードへ」が公開された。
ワールドは25周年を向かえるメディアミックス作品であり、SFとしても名高い「serial experiments lain」の世界観を再現した展示会場となっている。
本記事では6月20日に開催されたオープニングセレモニーの様子を記載していく。


デジタル空間におけるlainへのリスペクト

 今回のイベントは、VRChatのワールド「Anique Museum」にて開催された。
当日の会場には招待を受けた多くのユーザーが集っており、案内前から各所でlainの話題が尽きることなく行われていた。
筆者はこの日まで同作品について名前は知っていたものの、具体的にどういったものなのかは未知の状態であった。
そのためある種新鮮な状態でこのイベントに参加しているユーザーの一人という立ち位置である。



 イベントではまずワールドの製作を担当したなの太氏が挨拶を行った。
ワールドの最適化にはかなり拘って設計をされており、いろいろなコンテンツを擁しながらもQuest対応済みである。そのためAndroid版でも遜色なくコンテンツを楽しむ事が出来る。
その後プロデューサーとして活躍した上田耕作氏がアバターを纏いながら挨拶を行い、こういった形でコンテンツが改めて展開されるとは予想していなかったと語った。
続けてイラストレーターである安倍吉俊氏も可愛らしいアバターを纏って登場。lainという作品に再度向き合い、メインビジュアルであるヘッドマウントディスプレイを持った玲音の姿のイラストをリテイク無しで描ききったとの事であった。
上田氏も安倍氏もVRHMDを被りながらこういったコンテンツに触れるのは初めてという事で、だいぶ両者VR酔いに苦戦しながらもリアリティ溢れる形で展示イベントに参加出来るのを楽しみにしていたのだという。


 その後は会場内を順路に沿って回る形となり、lainの各種媒体のジャケットイラストや、本編中の様々なシーンをカテゴリごとに分類しピックアップした「不気味な通路 / Weird Corridor」や、PCで構成された樹状のオブジェクトにアニメ本編で玲音が登場する全シーンが映る「ディスプレイタワー / Display Tower」など作品の世界観に沿った展示が行われていた。
特にディスプレイタワーの映像については非常に長い時間で動画がループする様になっているとの事らしく、同じシーンをもう一度見ようと思ったらのんびり待つのが必要な程の長さだそうである。


 そして会場奥には、アニメ本編で度々登場する「通学路 / School Route」が登場。
エリアにはあの耳障りなノイズが静かに鳴り続けており、更にエリアの一部には現実を侵食する様な不気味な影も存在している。
無機質かつどこか退廃的なあの風景がVRで味わう事が出来るという状況に参加者は大興奮。
更にこの通学路には隠しアイテムが5つ存在しており、これを探し出すととあるギミックが通学路内に展開される。
本編視聴者はにやりと出来るギミックのため、是非ともワールドを訪れた際に探し出して欲しいとなの太氏は語る。
なおここから先のエリアは続々と更新が入る予定となっており、3エリア程今後も拡張されていくとの事だ。

 そこから移動する形で「展覧会Shop」エリアへとワープ。
ここではPC版では4K解像度でメインビジュアルが見られる他、各種媒体のジャケットイラストなども閲覧出来る様になっている。
また展覧会限定のデジタル3Dデータとして、アクリルキーホルダーやスマホケースといったアイテムが展示されている。
こちらの製品についてはAniqueのBoothストアで販売されており、購入してアバターに導入すれば今日から君もWeirdにつながる事が出来るかもしれない。
案内イベント中はここで参加者が記念撮影をしており、フォトスポットとしてもある種映えるポイントと言えるだろう。


 最後にエントランスに戻る形の案内となったが、このエントランスにも幾つかの要素が存在する。
目玉は2階に存在するディスプレイであり、脇に置かれた大型のレーザーディスクをアクティベートする事で、なんとアニメ版のlain本編が視聴できるというのである。
6月24日20時までは1話から3話の視聴が可能となっており、それ以降は毎週月曜日週替りで4話から6話、7話から9話、10話から13話と視聴できる話が変わっていくとの事だ。
現在アニメーション本編を視聴できる配信サイトは限られており、いずれも有料のサービスである事から「見るなら今」と熱く語るのは上田氏の弁である。
なお他にも魚釣りゲームや「lainと言えば電線・電柱」というよくわからない理屈で実装された神経衰弱「Concentration -電線奇行-」というゲームも遊べる様になっている。
神経衰弱については参加者全員が妙な顔をしていたのは言うまでも無い。

追いつくデジタル技術と改めて問われる「lain」と「Wired」

 今回のイベントの主題である「serial experiments lain」について、参加後に筆者もある程度視聴するなどして情報を集めたのだが、そこから見えて来たのは「未知が既知になった後のこれからの危うさ」であった。
lainの作中では「Wired(ワイヤード)」という仮想世界が存在し、コミュニケーション用コンピュータネットワーク端末「NAVI」(ナビ)で人々はWiredとゆるやかに繋がっている。
メールやネットといった物が普及しコミュニケーションの主体がネットワークに移る中で、次第にその境界は曖昧になっていく。
第一話の冒頭から「ドス黒い現実やそれを嫌いネットワーク上へ逃避しようとする人々」という様子が描かれるその様は、1990年代後半の映像やゲーム、漫画作品に見られた「現実への諦観と、ネットワークという未知の世界に対する憧れと、新しい時代に期待する眼差し」を如実に映し出している。

安倍先生とツーショット

 イベント終了後に安倍氏に話を伺う機会があり、そこで語られたのはApple社のデバイスから紐解くこの先の技術に対する注視であった。
かつて1993年にAppleはApple NewtonというPDA(個人用携帯情報端末)を発表し、白黒の画面ながら手書き認識機能を搭載した時代を先取りする感性を見せつけた。
その後iPadやiPhoneといったより高性能な端末が登場し、今ではこういった端末はネットワークにリアルタイムで接続するのが当たり前となっている。
AIを用いた様々なシステムを活用する事も可能となりつつある昨今、安倍氏はこのまま端末の高性能化が進めば、将来的に人間の思考を代替する「副脳」の様な機能を持ったものも生まれるのではないかと語る。
どういった情報を企業側が収集していくのかという事に対する法整備を行う必要があり、それと共に高度な情報処理能力を得ていった先に人間という存在がどう向き合っていくのかという点にも注目しなくてはいけないとの事であった。

 人々がアバターを纏って会話するという事は既にVRChatを始めとしたサービスが可能としており、広範かつ高速なネットワークは人々の行動に関する情報までも収集・分析を行う様になっている。
文章や画像、音楽における生成AIや産業用途で使われるAIのさらなる発展と利用の拡大は、今後AIそのものの定義を大きく変えていく可能性も秘めている技術である。
ウェアラブルデバイスの高性能化も相まって、ますます現実世界と仮想世界の境界が曖昧になっていく。
そんな昨今の現実世界がようやく追いついた「lain」は改めて次の世代にも注目されていく作品となるだろう。

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