「中国で臓器売買目的の誘拐グループが村人に捕まりリンチされ氷漬けとなった子供の遺体が見つかった」という動画はデマ

ネットをぶらぶらしていたら、「中国で臓器売買目的の人身売買業者が村人に捕まりリンチされ、車の中から氷漬けの遺体が見つかり家族が号泣している」という触れ込みの動画が話題になっているのを見つけた。
中国では様々な理由から子供の誘拐が未だに少なくないとは聞くし、犯罪者に対する私刑もニュースか何かで見たことがある。だから当初は何の疑問もなく話題に参加しようとしたが、実際に動画を見てみると何かおかしい。動画の前半と後半で別々の映像をつなげる編集がされているのだ。

鵜呑みにするには怪しい動画なので、検索して調べてみると、簡単にデマだとわかった。動画の内容は、誘拐でも臓器売買でもない。全く関係のない2つの動画をつなげて、一連の嘘のストーリーをつけて流されたものだった。その記録をまとめた。

Twitterで拡散していた「臓器売買で誘拐された氷漬けの子供」の動画

話題となっていた投稿は、この中国語アカウントによるもの。
「生き地獄!本土の人身売買業者が子供たちを臓器売買のために凍結!村人たちは人身売買業者を激しく殴りました!子供の死体がぐったりと倒れているのを見て、母親は泣きました! .mp4」
という文章とともに、問題となるフェイク動画を投稿している。

もともとフォロワーは5000人程度なので、そこまで広く拡散してしまってる投稿ではない。しかし匿名掲示板の5ちゃんねるでは、この投稿動画をソースにしたスレッドが一時期勢いトップになっていた。

動画の内容をGoogleLensを使って検索してみる

問題の動画をChromeに搭載されているGoogle Lensを使って調べてみる。動画の印象的な場面で一時停止し、右クリックして「Google Lensで画像を検索」を選択して、画像検索する範囲を選択すると、次のように動画を切り抜いて画像検索ができる。

GoogleLensを使うと動画でも簡単に画像検索できる

画像の検索結果を眺めてみると、2017年に発生したデマだと分かった。

2017年に微博でデマが発生

画像検索では、海外のファクトチェックサイトの記事がいくつも引っかかり、海外では既に検証済みの話題であることが分かった。
古いものでは2017年7月14日の韓国のニュースサイトの記事があり、この時期にデマが発生したことが分かる。
https://www.wikitree.co.kr/articles/307769

記事には、微博で氷漬けの子供の動画が拡散し「臓器摘出」などと噂が広がっていたが、当局が調査したところ、溺死した子供の遺体を炎天下で腐らせないように氷で冷やして遺族に渡した場面の動画であったと書かれている。

主要メディアも騙され2年後にはデマが世界に拡散。既に海外ではファクトチェックの対象になっていた

カザフスタンのファクトチェックサイト「factcheck.kz」の記事によると、2017年12月にロシアのテレビ局「REN TV」が動画に騙されて「300人の子供を誘拐していた集団が捕まり氷漬けの子供が見つかった」とニュースにしてYouTubeにアップした。このYouTube動画を元に2年後の2019年までにはロシア語圏やカザフ語圏で広くデマが拡散してしまっていたようだ。

フェイク|中国で臓器用に売られている冷凍の子供(2019年12月29日)
https://factcheck.kz/socium/fejk-zamorozhennyx-detej-prodayut-na-organy-v-kitae/

このファクトチェック記事では、
・冷凍された遺体の臓器は原則として臓器移植に適さないから「臓器売買」ではあり得ない
・動画の前半では長袖の冬服だったのに、動画の後半になると半袖の夏服になっているから、2つの別々の動画をつなぎ合わせたもの
・動画を検索したら2017年の溺死のニュースが出てくる
と冷静に分析して動画はフェイクだと認定している。

このカザフスタンの記事以外にも、関連記事を調べると、この動画に関するファクトチェック記事はいくつも出てくる。
インドの有名ファクトチェックサイト「altnews」でも調査されフェイク認定を受けている。
アイスボックスで輸送された子供の死体のビデオは、世界中で誤った誘拐の噂でバイラルになりました(2019年11月9日)
https://www.altnews.in/video-of-childs-dead-body-transported-in-ice-box-viral-with-false-kidnapping-rumours-worldwide/

altnewsの記事より前にも、アメリカでは2019年10月9日に保守派のTwitterユーザーがデマ動画を拡散し、米ファクトチェックサイト「snopes」で即座にフェイク認定を受けている。
300人の子供が臓器摘出のために生きたまま冷凍されていた?(2019年10月10日)
https://www.snopes.com/fact-check/300-children-found-frozen-alive/

他にもAFP通信のファクトチェックサイトも、2019年11月18日にこのデマ動画を取り上げて、フェイク認定を下している。
ビデオは、2 つの無関係な事件を示しています。 ファクトチェック https://factcheck.afp.com/video-shows-two-unrelated-incidents-one-men-being-beaten-other-drowned-child-being-transported


動画前半の集団暴行は薬売りが窃盗犯と間違われて集団暴行された事件、後半の氷漬けの子供は溺死した遺体を家族に渡す場面

動画前半の暴行シーンはこういうこと。

2017年12月16日にシナン県公安局(PSB)の公式WeChatアカウントに投稿されたこの声明は、ビデオの最初の部分が2017年12月14日に貴州省シナン県のサンジアバ村で撮影されたと述べている。

簡体字中国語から英語に翻訳されたPSBの声明のタイトルは、「信安県少家橋鎮三家巴村における児童誘拐の噂に関する調査結果」である。

声明にはその一部が書かれている。「王、呂、王、靖の四人は紹嘉橋鎮三家場村に行き、中高年者に伝統的な薬を販売したが、詐欺師や泥棒に間違われたことが警察の調べで分かった。その後、村人から暴行を受けた。

"児童誘拐 "を主張する、現場関係者が撮影した事件の動画がネット上で共有されている。信安県警の調査によると、王、呂、王、景の4人は、ネット上の児童誘拐の主張どころか、詐欺や窃盗の疑いもなく、三焦場へ伝統薬を売りに行ったという。"

同じWeChatアカウントは2017年12月27日、2つのクリップのスクリーンショットとともに別の声明を投稿し、誤解を招くFacebookの投稿と同様の虚偽の主張を退けました。
(引用元よりDeepL翻訳)

https://factcheck.afp.com/video-shows-two-unrelated-incidents-one-men-being-beaten-other-drowned-child-being-transported

動画後半のシーンはこういうこと。

2017 年 7 月 13 日、湖南省益陽市の警察は、検証済みの Weibo アカウントでこの声明を発表し、白い箱に横たわる少年のビデオは、溺死して死亡した子供を実際に示していると述べました。

声明の一部は、次のように書かれています。子供は広州市の親戚宅で溺死した。夏の暑さのため、彼の家族は埋葬のために家に運ぶ前に、角氷で満たされた発泡スチロールの箱に遺体を入れました。
(引用元よりGoogle翻訳)

https://factcheck.afp.com/video-shows-two-unrelated-incidents-one-men-being-beaten-other-drowned-child-being-transported

時系列
・2017年7月に中国で子供が溺死し、家族に遺体が引き取られる動画が「臓器売買」の現場だとデマとともに微博で拡散。当局がすぐに間違いを訂正して一時的にデマが消える

・2017年12月に中国で窃盗犯と間違われて集団暴行受ける動画が「臓器売買集団が制裁されている」というデマとともに拡散。当局がすぐに間違いを訂正する

・2017年12月、溺死した子供の動画と集団暴行の動画がつなぎ合わされて「300人の子供を誘拐した臓器売買グループが村人からリンチを受け、彼らの車内から氷漬けの遺体が発見された」というデマが作られ世界に拡散し、ロシアメディア等で流れてしまう。

・2019年10月、アメリカの保守派アカウントがデマ動画を拡散したのが契機となり、中央アジアやインド、ヨーロッパ等でもデマ動画が広がり、ファクトチェック記事がいくつも作られる。

・2022年、前回の拡散が忘れられた頃に再びデマ動画が拡散される。

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