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戯曲(風)『紙ヒコーキの軌道上』 #リライト金曜トワイライト

登場人物

拓海 25歳 広告代理店勤務
ミカ 26歳 同
亮太 25歳 同


Scene 1

 浴衣姿の拓海とミカ、縁日の屋台が並ぶ境内を歩いている

ミカ「はー。今回の競合プレもいただきだなー」
拓海「こんな早く上がったの久しぶり」
ミカ「このラムネの爽やかさがしみる」
拓海「しみるね」
ミカ「さっきの金魚すくいは全然とれなかったけど」
拓海「最後1匹とってたじゃん」
ミカ「1枚も破かずに8匹とったあんたが言うと嫌味に聞こえる」
拓海「ごめんて」
ミカ「あーおなかすいた」
拓海「焼きそば屋台あるね」
ミカ「高いかなー」
拓海「あれ、なんかマシュマロの匂いしない?」
ミカ「えー?」

 拓海、ミカの髪に鼻を寄せる。

拓海「いい匂いがする」
ミカ「背高いからって」
拓海「ふふ」
ミカ「そういえばマシュマロじゃないんだけどさ、これ」

 ミカ、ポーチから小袋に入ったあめ玉を取り出す

ミカ「企画、通ったんだ」
拓海「あーこれ例のバンドの新譜についてるやつ?かわいいじゃんーベースの絵描いてあるんだ」
ミカ「へへ」
拓海「ノベルティ担当すんの初?」
ミカ「うん。やー楽しいね。こうやって形になんのは」
拓海「すごいよ、ミカは」

 二人、お祭りから少し離れた長椅子に腰を下ろし、缶ビールを開ける

拓海「ミカの輝かしい将来に乾杯」
ミカ「照れる」

 間。花火の音。二人、肩を寄せ合い、拓海は空を見上げる

ミカ「やっぱりおなかすいた」
拓海「うち来てなんか食べる?」
ミカ「まじ?作れんの」
拓海「まあ」
ミカ「じゃあ私が見守ってやんよ」


Scene 2

 拓海のアパート、夜。拓海はキッチンに立ち、ミカはソファで雑誌を眺めている

拓海「おまたせ」
ミカ「ほほう、挽き肉とレンコンのはさみ揚げね。また手の込んだものを」
拓海「この塩とカレー粉混ぜたやつ、パラパラってして」
ミカ「冷えた日本酒がよく合う」
拓海「ミカの結った髪もよく似合ってるよ」
ミカ「そう?」

 二人、ソファに並んで青く光るテレビを見る

アナウンサーの声「今日の試合MVPの嶋津選手です!最多勝おめでとうございます」
ピッチャーの声「ありがとうございます」
アナウンサーの声「今シーズンの躍進の秘訣は」
ピッチャーの声「毎日ずっと練習練習でやってるんで、その積み重ねだと思います」

 拓海、テレビを消す。

拓海「……仕事しかない人生なんて嫌だな」
ミカ「なんで」
拓海「だってほら、仕事以外にもいろいろあんじゃん。映画とか、恋愛とかさ。」
ミカ「いろいろねえ」
拓海「いろいろ」
ミカ「なに、仕事、最近つまってんの」
拓海「毎日がシゴトにシゴトっていう感じ」
ミカ「そっか」
拓海「仕事ばっかしてたって、誰でもヒーローになれるわけじゃないじゃん。結局ヒーローになれんかったなーって死ぬとき振り返って、仕事しかなくって、そんで死んでくのって、なんかさ」
ミカ「まあそうだけど。」
拓海「……」
ミカ「でも、私は」

 ミカ、拓海に近づいて耳元でささやく

ミカ「でも私は『仕事したー』って思って死にたいよ」
拓海「ちょ、耳、噛むなって冷たいから」
ミカ「かーわいい」

 ミカ、拓海を押し倒す。暗転


Scene 3

 夕暮れの小高い丘に二人が立っている。

ミカ「じゃーん」
拓海「なにそれ」
ミカ「紙飛行機」
拓海「なつかしいな」
ミカ「飛ばそ。2コあるし」
拓海「いいよ」

 二人、紙飛行機を構える。

拓海「どしたの急に紙飛行機」
ミカ「あのね」
拓海「うん」
ミカ「ニューヨーク支店」
拓海「え」
ミカ「年明けから異動だって私」
拓海「いなくなっちゃうじゃん」
ミカ「うん」
拓海「いつ帰ってくんの」
ミカ「わかんない」
拓海「……」
ミカ「……」

 ミカ、紙飛行機を飛ばす

ミカ「あっちはあっちでめちゃくちゃ厳しい現場だけど、すんごいクリエイターもいっぱいいるしさ」
拓海「さみしくないの」
ミカ「さみしい」
拓海「だろ」
ミカ「さみしいけど、でも、私は『仕事したー』って思って死にたい人生だから」
拓海「……」

 拓海、紙飛行機を飛ばす

ミカ「手紙書くよ」
拓海「メッセとかじゃなくて?」
ミカ「いいじゃん。Airmailつってハンコ押してあってさ」
拓海「アメリカに返事送るやり方わかんないよ」
ミカ「ググんなってそんなの」
拓海「うん」

 間

拓海「海見えるね」
ミカ「『いつかこの海をこえて』」
拓海「はやく帰ってきてよ」
ミカ「うん。わかんないけど」


Scene 4 

 レコードショップ店頭、音楽雑誌売場。拓海と亮太が並んで立ち読みしている

亮太「おい、ミカのインタビュー出てる」
拓海「まじ?」
亮太「敏腕プロデューサーだってさ。出世だねえ」
拓海「すごいな」
亮太「あいつもう帰国したんだろ。お前、まだ付き合ってんの」
拓海「んー、お互い忙しくってほとんど会ってない」
亮太「仕事の虫じゃん」
拓海「前からだよ」
亮太「同棲とかしないの」
拓海「どうせほとんど家帰んないし。それにあいつ、また来月からアメリカなんだって」
亮太「いっそがしいな」
拓海「ほんとな」
亮太「会いに行ったりしねえの」
拓海「俺、飛行機ダメなんだ。旅行自体そんな好きじゃないし」
亮太「マジかー」
拓海「だからさ、どうしたって、この街でどうにか生きていくしかないってわけ」
亮太「そんでお前ずっと地場のメーカー担当だろ。全然いい仕事してるって」
拓海「まあ、ようやく面白くなってきたとこ?」
亮太「仕事ばっかの人生でいいのか?」
拓海「よくないけど」
亮太「だろ」
拓海「でもさ、希望の道は、いま見えてる仕事の先にしかつながってないのかなって」

 暗転


Scene 5

 夕暮れの小高い丘に、拓海が一人立っている。手紙を読む。

拓海「拓海へ。2回目のニューヨークはすっかり空気が馴染んで、こっちが本当の家みたいな感じです。私はこうやって、遠い国をうろうろしてるほうが性に合ってるのかも。昔、夕陽の見える丘で、一緒に紙飛行機飛ばしたの、覚えてる? あの頃は、まだ全然、飛んでいく先も見えてなかったね。拓海がメインでやってるキャンペーン、こないだこっちでも話題になってたよ。お互い、それぞれの道でがんばろ。またいつか。」

 拓海、手紙を折って紙飛行機にする。客席に向かって話す。

拓海「ミカ。ミカが夢見た未来は、今でも輝いていますか。あの日一緒に歩いた神社のお祭りは、今年も変わらずやってきます。人混みの中でも、おれは相変わらずノッポだから、遠くからでも見つけてもらえると思う。……って、ミカはもうこの街には帰ってこないかな。いつか、世界のどこかですれ違ったら、笑って手を振って通りすぎよう。僕は、この街で生きています。」

 拓海、紙飛行機を客席に放る。


 
暗転


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Original:池松潤『淡く”青く”小さく”マシュマロ”のように柔らかい』

「戯曲シナリオ風」の何かを書いてみたくて、マーガレット・エドソンの『ウィット』、シェイクスピア『新訳 から騒ぎ』、ならびに藪博晶『アルプススタンドのはしの方』(パンフレット収録の原作シナリオ)を傍らに置いてトライしました。

所々のセリフと描写、設定を極力生かす形にしつつ、キャラクターはがらっと変わってしまいましたw。この話、何一つ私個人の経験に紐付かないんだけど、何の影響を受けて出てきたんでしょうね。


#リライト金曜トワイライト は、明日10/9(金)締切(遅刻組歓迎)とのことです。


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