トランス
ねえ、と声を掛けられる。
夫婦生活は破綻して長いが、ここ数ヶ月、
幾度かそのようなお誘いがあり、
仕方なく、仕方なくという感じを見せないように気を配りながら、やれやれとベッドに入り身を寄せた。
腕の中にいる者は、犬か猫かではないか、と考えてみる。
撫でてあげるとゴロゴロと鳴く猫。
うーん、そう思うにはちょっと重いし可愛くないな…。
好いた相手だからこそ、嫌悪感は持たずに済む。
でも煩わしい。
ただ一方的に快感を与える作業なのだ。
私には何もしてこない。
ただ私にしがみついているだけのその生き物を
撫でて触って気持ちよくしてあげるだけ。
これはきっと彼にとっては自慰の延長なのだろう。
たまたまそこに私がいたというだけの。
特に気持ちいい訳でもなく、楽しい訳でもない私は、どうにかその時間を楽しもうと考えるけれど、
それなら他にやりたいことが沢山あるのだけど
などと思ってしまい
それではいけない、と自分を鼓舞した結果
少しでも楽しむために、腕の中にいるのは可愛い女の子だと思うことにしてみた。
そして私は男なのだと考えてみる。
そうしたら、何となく受け入れられる気がして。
それも不思議な話だ。
私は長らく、一方的に快感を与えてもらうことに甘えていたのかもしれないなと自省する。
世の男性が、女性に快感を与えている間、何を考えているのだろうかと思ったある日のこと。
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