シンデレラガールズと私(10thファイナル感想)

注意


本記事は2022年8月の夏コミにて頒布した会報に掲載したものとなります。
掲載当時の原文ママですので、当時の私の様子をお楽しみください。


はじめに


去る2022年4月3日、10日間に渡る「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND!!!」は多くの驚きと感動をもって幕を閉じた。
規制退場を待っている中、全ての公演を見届けてきた私はドームの天井を見上げながら放心していた。
私にとってアイドルマスターシンデレラガールズは、もはや一つのコンテンツという枠組みではなかったのだ。
この記事は「デレ10thレポ」という体で書かれているものの、当時私が感じた気持ちをより正確に伝えるために、非常に客観性に欠ける表現や10thに直接関係のない語りが多分に含まれている。
人によってはいわゆる「解釈違い」も出てくると思うが、これは私が感じたことをありのままに書いているだけで、あなたの解釈を否定するものではないことを断っておく。
また、ツアーファイナルだけでも100曲という膨大な数の楽曲が披露された関係上、すべての曲について触れることは難しいため、私の心を大きく揺さぶった後半の数曲に関しての想いを綴っていく。
つまり、この文章はライブレポというよりも夢小説『シンデレラガールズと私』とでも考えて読んでほしい。
 

第一章 S(mile)ING!


私が初めてライブに参加したのは5年前、友人に誘われて行った5thだった。そして、今回の10th Day2の連番者もその友人であった。最も付き合いが長いプロデューサーであり、ライブに行くきっかけを作ってくれた友人というわけだ。
開演前、その友人とデレマスに出会ったきっかけを語っていた。2014年以前からネット上で目にしていたのでアイドルマスターの存在自体は知っていたのだが、私が本格的にプロデューサーとなったのは、アニメ『アイドルマスターシンデレラガールズ』(以下デレアニ) が放送されていたときだった。
その時期の私は実生活で辛いことが重なり、何をする気力もないほどに落ち込んでいた。
そのときたまたま目にしたのが、兄が録画していたデレアニであった。
ちょうど最終回の直前までが放送されていた時期であり、流しているだけで摂取できるアニメということもあって、ただぼうっと眺めていた。
そうしているうちにアニメも終盤に差し掛かり、島村卯月が輝きを取り戻すこととなる『S(mile)ING!』を見たとき、ボロボロと涙が流れてきた。
何気なく見ていたはずであったが、いつの間にか島村卯月に自分を重ねてしまっていたのかもしれない。
人は誰しも自分だけの輝きを持っている。
私が立ち直るきっかけとなったこの作品は、今でも私の人生に影響を与え続けている。

そのような話をしながらライブは開演を迎えた。
Day1は『ミツボシ☆☆★』、Day2は『Never say never』から始まったこのツアーファイナル、『S(mile)ING!』が歌われることは想像に難くなかった。

ライブも最終ブロックに突入、シンデレラバンドによる生演奏も加わって披露される楽曲投票上位曲の連続に私も友人も大いに沸きあがり、会場のボルテージも最高潮という状態だった。
そんな中である。
画面に浮かび上がる『My Best Cinderella Songs 18位』の文字とともに流れ出すあの優しいイントロ。
私はペンライトの色をピンクへと変え、ステージの方へと目を向けた。
そして、島村卯月役の大橋彩香さんが歌い始める。

 「憧れてた場所を ただ遠くから見ていた」

その歌いだしを聞いた瞬間、私は唇を震わせ涙をこぼしていた。
この曲が上位30曲に入っていることなど予想できていた。
披露されることなどわかりきっていた。
しかし、涙が溢れ出すとはこのようなことを言うのだろうか、私にはどうして自分が涙を流しているのかが理解できなかった。
決壊したように溢れ出した涙は抑えようにも抑えられず、自分の感情を処理することもできない状態。
もはやペンライトを振ることすらままならず、涙で滲む視界の中、私はただステージを見ることしかできなかった。
私は初めてデレアニを見て以来、あの作品を見返したことがなかった。
現実での様々な要因があったからこそ強い感情を得ていたあの瞬間の記憶が上書きされてしまうのが怖かったからかもしれない。
辛い日々を送っていたあの頃を思い出してしまいそうで目を背けていたのかもしれない。
私の人生はアイドルマスターシンデレラガールズに救われたと同時に、呪いのように縛られ続けていた。
『S(mile)ING!』の数曲前、『GOIN'!!!』とともにアニメ映像が流される中、私は薄暗い部屋でデレアニを見ていたあの頃のことをぼんやりと考えていた。
ライブ前の友人とのやり取りも含め『S(mile)ING!』が披露されるまでの全てが重なって、当時のことが強く意識されていたのかもしれない。

「昨日 凹んで寝込んだ 自分とゆびきりして」

雨が降る厳しい寒さの所沢で、私は胸の中が暖かくなる感覚がした。
比喩ではなく、確かに体の中心の温度がじわりと高くなっていく実感があった。
落ち込んでいたあの頃から、ずっと心に刺さり続けていた棘のようなものがふわりと溶けていくような、そんな暖かさを感じていた。
喜びというよりは郷愁に近いような、人生で初めて味わった感情。
ライブから一か月以上経った今でもきちんとした言語化はできていないが、自身の人生が優しく受け止められた、そういう類いのものだった。
あの日受けたのは棘や呪いではなかった。
私の背中を押している魔法だったのだ。

「愛を込めて ずっと 歌うよ!」

広いベルーナドームの三塁側スタンド席、肉眼でははっきりと大橋彩香さんの姿は見えなかった。
だが、そこには確かに、あの日見た島村卯月の姿があった。

私は今でも島村卯月のことが非常に好きである。
しかし、担当プロデューサーを名乗ろうと思ったことは一度もない。
それは、まだアイドルマスターのプロデューサーとなる前、ステージで輝く島村卯月に勇気づけられたファンの一人であるという気持ちが、胸の中に残り続けているからなのかもしれない。

第二章 ココカラミライヘ!


『ココカラミライヘ!』は祝福である。

今更解説するまでもないだろうが、『ココカラミライヘ!』は歴代シンデレラガール10名のために作られた楽曲である。
2022年元日、『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下デレステ) でこの曲のイベントがスタートし、2D・3DMVとともにゲーム尺が初公開された。
イベント報酬では、歌唱メンバーであるシンデレラガールの栄冠を勝ち取った10人だけが身に着けることのできる衣装「プリンセス・オブ・テン」が配布された。
私の担当アイドルであり、第7代シンデレラガールの座に輝いた安部菜々も着ることが許された一人である。

さて、このコンテンツのタイトルにもなっている「シンデレラガール」。
190人の頂点であり、わかりやすく「トップアイドル」と言えるだろう。
当然、アイドルの中にはこのトップアイドルを目標にしている者も存在している。
プロデューサーと出会ったときである最初のカードにて「トップアイドルになるまで…お願いします!」と語る安部菜々もその一人であることがうかがえる。
第7回総選挙の結果発表の際にも、シンデレラガールのことを「一番の、キラキラな夢」と語っている。
総選挙活動も積極的に行っていた私は、安部菜々がシンデレラガールとなったときの感動は今でもよく覚えている。
そして、それと同時に、私を含めた一部の安部菜々担当プロデューサーの間では不安な気持ちがあったこともまた事実である。
先のセリフにて「トップアイドルになるまで」と話していた安部菜々がトップアイドルになってしまったら、その先には何があるのだろうか。

第7回総選挙の数か月前、デレステにてSSR[ドリーミン☆ウサミン]安部菜々が実装されていた。
その内容とは、アニメのゲスト声優に挑戦した安部菜々が、自身の演じたキャラのパネルの前で涙を零しているというものだった。
当初の夢であった「歌って踊れる声優アイドル」が叶った瞬間である。
幼いころから持ち続けていた夢が叶ったあと、ハッピーエンドを迎えたシンデレラの物語はそこで終わってしまうのだろうか。
そんな不安が、安部菜々Pたちを包んでいたのである。

そして7月、そんな私たちの不安を知ってか知らずか、ついに[シンデレラガール]安部菜々が登場した。
特訓前には、「ウサミン星のプリンセス」を自称してきた安部菜々が「シンデレラ」の名を冠した称号を手に入れたことで名実ともにプリンセスとなり、幼き日に夢を誓った浜で感極まっている姿が描かれている。
昔の自分に思いを馳せるシーンではあるが、安部菜々が見ているのは過去だけではなかった。
彼女の口から出てきた言葉は「今日はいっぱいお話ししましょう。今までと、これからのこと…」、「昔も今も、ナナは夢見る女の子です♪」と、物語の終わりではなく、始まりを予感させるものであった。
特訓後にはメイドの面影を残すシンデレラのドレスに身を包み、お城を飛び出したような構図で写っている。

「お城の先も、ずっと続く道…エスコート、よろしくお願いします♪
 ナナは永遠の17歳で、プロデューサーさんは…永遠のパートナーですから☆」

シンデレラの物語はその象徴となっているシンデレラ城で終わりを告げるが、安部菜々の、シンデレラガールズの物語はお城のその先へと進み、どこまでも続いていく。そのような思いを感じ取っていた。

 さらに、[シンデレラガール]が実装されて一か月も経たないうちに、安部菜々と佐藤心からなる「しゅがしゅが☆み~ん」のユニット曲『凸凹スピードスター』のイベントが始まった。
そのイベントコミュはかなり衝撃的な始まりである。
 
「――ずっと前から、何度も何度も見てる、いつもの夢。」
「一度は諦めかけてしまった菜々ではありますが……。
 プロデューサーさんと出会えたおかげで、少しずつ、
 少しずつですけど、夢を叶えられている気がします。」
「……でも、菜々は……。
 あとどれくらい、夢を追いかけていられるんでしょうか……?」
 
不安に押しつぶされそうな安部菜々の独白は、担当プロデューサーにも強く響くものであった。
プロデューサーが抱えていた不安は、「夢の先にも夢が続いていく」ということが示されてある程度解消されたが、今度は「いつまで夢を見ていられるのか」という安部菜々本人が抱える重大な不安が現れたのだ。
ここで重要となってくるのが、安部菜々の良き理解者である「しゅがーはぁと」こと佐藤心の存在である。
安部菜々はクセの強い「ウサミン」というキャラでありながら、周囲との調和を考えて我を引っ込めることがある。
永遠の17歳ではあるものの下積み時代が長い彼女は、自身が受け入れられないときもあるということを自分でも理解しているのだ。
様々な人の支えによって今でもアイドルを続けられている、アイドルでいられること自体が幸せと考える彼女にとって、それ以上の幸福はあまりあるという気持ちすらあるのかもしれない。
それゆえに、自分の我儘を抑えがちな安部菜々の本当の気持ちを引き出すことができ、共に同じ道を走れる境遇の近い仲間が必要だった。

そのアイドルこそが佐藤心である。
佐藤心もアイドルに対する強い思いを持つアイドルで、非常に我が強く姉御肌、安部菜々の想いを受け止めつつ、一緒に叶えてようとしてくれるパッションを持っている。
安部菜々は「年齢とウサミン星人であること」を固辞しておきながら「体重とスリーサイズ」は一切隠していない。おへそは隠す。
対して佐藤心は「体重とスリーサイズ」は頑なに明かさないが「年齢や出身地」は隠していない。おへそも頑張って隠さない。
似た者同士ではあるが、お互いのこだわっている部分は全く違っている。まさしく「凸凹」コンビである。
詳しいことは実際にイベントコミュを見てほしいが、その中で二人は「夢に縋っている」という現実と向き合うこととなる。
だがしかし、「夢とは自分ひとりだけで見るものではない」と心に一つにして夢と現実の凸凹道を乗り越える。
そして、イベントコミュの最後に二人は声を合わせてこう宣言するのである。
 
「はぁとちゃん……はいっ!
 『夢は、どこまでも続いていく』んですよね!」
「そーいうこと♪ いっつまでも☆ いくつになっても!」
「「しゅが☆みんは力を合わせて、凸凹道を走り続けるっ☆」」
 
仲間にも恵まれた安部菜々は、自分の現実と向き合った上で夢を見続けることを決意した。
ここで語ったこと以外にも、安部菜々がシンデレラガールを獲得してからの1年間で、アイドルマスターシンデレラガールズは私の不安に対する回答を示し続けてくれた。

そして、再びやってきた安部菜々のシンデレラガールとしての仕事、それこそが『ココカラミライヘ!』である。
しかし、私が『ココカラミライヘ!』を初めて聴いたとき、一瞬ではあるが一抹の寂しさを感じていた。この曲は次のように始まる。

 「Far Away このままずっと 遠くへ」

これは安部菜々Pに限らずシンデレラガールズ190人全員の担当Pに言えることだと思うのだが、担当アイドルが遠くに行ってしまったような錯覚に陥ることがある。
アイドルマスターにおいて、プレイヤーはプロデューサーであると同時に「一人目のファン」である。
スカウトやオーディションで見出し、デビューするところから見届けてきたアイドルがトップアイドルに輝いたともなれば尚更寂しさを感じるだろう。

第7回総選挙上位5人のために作られた曲『君への詩』のイベントコミュ第5話では、地下アイドル時代からの古参ファンが安部菜々の前に現れる。
安部菜々もそのファンのことを覚えており、一位になった投票企画の記念ライブに来てほしいと言ったが、彼はチケットの抽選に落ちてしまったと残念そうに話す。
しかし、それと同時にその古参ファンはこう語る。
 
「LIVEにいけなくなるぐらい、ウサミンが
 人気になったんだなぁって、僕は嬉しいよ。
 これからも応援してるから、頑張ってね、ウサミン。」
 
ずっとウサミンのことを見てきた彼のその言葉は、やや寂しげな雰囲気を感じるものであった。
きっと、彼も私と同じ気持ちだったのであろう。
「遠くに行ってしまった」という寂しさは、共に歩んできた時間が長ければ長いほどかえって強くなるものだ。

 だが、『ココカラミライヘ!』のイントロで感じたその寂しさはすぐに消えることとなる。
なぜなら、イントロのフレーズはこれで終わりではないからだ。

「Far Away このままずっと 遠くへ あなたといつも」

さらに、その後発売されたフルバージョンでは「あなた」という言葉が8回も登場する。

 改めてこの章の冒頭の言葉を繰り返すが、『ココカラミライヘ!』は祝福である。
それは、シンデレラガールの栄冠に輝いたアイドルだけでなく、彼女たちのそばでずっと支えてきたプロデューサーへのものでもあるのだ。
イントロのパートは最後にもう一度繰り返される。曲全体で「確かに重ねた夢」と「あなたと一緒に強くなれる どこまでも」という想いを伝えたあと、高らかに歌い上げられる「このままずっと」という歌詞に寂しさなど感じるべくもないだろう。
そして「コ・コ・カ・ラ・ミ・ラ・イ・ヘ!」というタイトルコールで締めくくられる。
何度も書いているがこの曲の題名は『ココカラミライヘ!』である。
あなたと紡いできた物語はここで終わりではなく、どこまでも続いてゆく。
シンデレラガールという一つの頂点まで登り詰めた「ここまで」への祝福であると同時に、一人のアイドルとそのプロデューサーの「ここから」への祝福ともなる。

以上が、ライブ以前の私が『ココカラミライヘ!』に対して抱いていた感情である。
歌唱メンバーであるルゥティンさんと福原綾香さんをして「気付いてほしい」「気付くことが愛」と言わしめたDメロについては、私の口から語ることは無粋というものだろう。
このような想いを抱きながらずっとこの曲がライブで披露されることを待ち望んでいた私は、最終ブロックの直前である神崎蘭子によるMCまでにシンデレラガールの声優10人のうち7人がライブに登場していたことを強く意識していた。
10人揃うことは叶わなかったが、担当である安部菜々役の三宅麻理恵さんがいることを考えれば、これ以上は高望みであろう。
そして、直前のS(mile)ING!で芽生えた感情に整理がつけられず半ばパニック状態で嗚咽を漏らす私の耳に、荘厳なドラムが聞こえてくる。
予告されていた50曲中の48曲目、「何かとてつもないものが始まろうとしている」というのは誰の目にも明らかであった。
固唾を呑んで見守る中、一際大きくドラムが打ち鳴らされ、あのイントロが響き渡る。
歴代シンデレラガールたちによる舞台、そこには8人の姿があった。
ひどく感情的になっていたことと涙による視界の悪さで、イントロのパートが終わるまで8人目のシンデレラガールがいることに私は気づいていなかった。
そして、モニターに映し出される歌唱アイドルの姿と「十時愛梨」の文字でようやく気付く。
そう、そこにいたのは初代シンデレラガール・十時愛梨役の原田ひとみさんであった。
残り3曲という状況で、諸般の事情によりライブ参加が難しかった原田ひとみさんの5thライブ以来5年ぶりとなる登場となる。
正直なところ、私は原田ひとみさんがいることに気づいたあたりから、衝撃と涙でこの曲の記憶があまりない。

第1回シンデレラガール選抜総選挙は少々特殊で、選挙上位メンバーによる曲というものは存在しなかった。
つまり、『ココカラミライヘ!』は、十時愛梨にとって初めての総選挙楽曲となる。
この曲のCD発売当時から、原田ひとみさんはSNSにて「王者」としての十時愛梨について語っていた。
シンデレラガールになってから10年近くが経ち、大きく成長した十時愛梨の、シンデレラガールとしての初歌唱。
ソロパートの先陣を切るその歌声の力強さ、貫禄、込められた大きな想いは、一度聴けばひしひしと伝わってくる。
「初代様」の異名は伊達ではないのだ。
この初代王者としての十時愛梨を意識していた私にとって、それは何度も夢見た光景であった。
 私が感動に打ち震える中、曲はDメロを過ぎ、演者は道を開けるように左右に分かれていく。
そして、最後の大サビと同時にスクリーンに神崎蘭子と鷺沢文香が現れ、シンデレラガール10人が一堂に会した。
作曲者である滝澤俊輔さんを含む生バンドかつこれだけのメンバーが揃った状態でこの曲が披露される機会は二度とない、と言っても過言ではないだろう。
 「コ・コ・カ・ラ・ミ・ラ・イ・ヘ!」の歌い終わりとともに大きく飛び跳ねる演者たちに、夢を叶えステージで輝くトップアイドルの姿を、そしてここから未来へと夢を追い続けるシンデレラガールの姿を見た。

この日、告知の最後でいつも表示される「The clock of the Cinderella never stops!」の文字が特別な意味を持っているように感じられた。

第三章 always


 ここまで安部菜々が第7代シンデレラガールになってからの話をしてきたが、ここからはそこに至るまでの過程を話していく。
私を含めた多くの安部菜々Pは第7回シンデレラガール総選挙当時、この総選挙に非常に大きな情熱を傾けていた。
「ナナ」だからという理由ももちろんある。
しかし、それ以外に安部菜々Pが特別な想いを抱く理由があった。
それはひとつ前の総選挙、「第6回シンデレラガール総選挙」にある。
安部菜々は第1回総選挙の頃から比較的高い順位をキープしてきた。特に第3回での全体2位、キュートアイドルの中では1位という順位を見てもらえればその高さがわかってもらえるだろう。
その後も二回連続で7位という好順位、第5回ではキュート2位として『Take me☆Take you』に参加している。
 それゆえに、第6回総選挙での全体12位というトップ10からの陥落、加えてキュート4位で惜しくもCD圏内から外れたのは、安部菜々Pの間では衝撃であり、辛酸を舐める結果となった。
そのときの総選挙曲こそが『always』である。
高垣楓がシンデレラガールとなったときに作られた曲であるため、歌詞には高垣楓の一番初めのカード、その親愛度セリフを思わせるようなフレーズが度々登場する。
 
「私を選んでくれた時、本当に嬉しかったです……。
 プロデューサー、いつもありがとう。これからもお願いします」
 
デレステでも、プロデューサーとの出会いとなるメモリアルコミュ1で似たようなことを発言している。
高垣楓は当初モデル部門に所属していたが、突然アイドル部門の面接にやってきて次の話を持ち掛ける。
 
「もし、異動の話がOKだったら……プロデューサーは、私を選んでくださいますか?」
 
サービス開始当初から84名、現在では190名を擁する大所帯であるシンデレラガールズという文脈の中では、これらのフレーズは非常に特別な意味を持つ。
シンデレラガールズが他のアイドルマスターシリーズと大きく違う点として、プロデューサーそれぞれがプロダクションを作るというシステムがある。
デレステ以降では影の薄くなってしまった部分ではあるが、「担当アイドルを選んで所属させる」こと自体に大きな意味を生み出していた。
つまり、メタ的な意味も含めて190人すべてのアイドルが「多くのアイドルたちの中からプロデューサーが選んで担当したアイドル」であるという背景を持つこととなる。
同時に、このシンデレラガールズとしての文脈があることによって、『always』に出てくる「私を選んでくれて ありがとう」という歌詞は、高垣楓に限らずすべてのシンデレラガールズに当てはまる「アイドルからプロデューサーへと向けられた気持ち」ということになる。

第7回総選挙の結果発表の直後、安部菜々Pの方々と「安部菜々がシンデレラガールになった今、改めて歌ってほしいデレマスの曲」というような話をさせてもらったことがある。
そのとき私が選んだ曲は『always』だった。

プロデューサーとアイドルの出会い方は様々であるが、安部菜々の場合はスカウトである。
地下アイドルとして自主制作でCDを出し、いつも歌っているライブハウスのステージでプロデューサーと出会う。
全員の顔と名前を覚えられるほどしかファンはおらず、生活のためにメイドカフェとの兼業で本人も限界を感じつつあったが、それでも「声優アイドル」という夢を諦めることができなかった。
長い下積み時代を過ごし、プロデューサーと出会ったこの場所は、今でも安部菜々の中では大きな存在なようで、かつて自分が立っていたライブハウスを訪れる場面がしばしばある。
デレステのメモリアルコミュ4、アイドルデビューとなる初ステージの直前に「今が恵まれていること」を確認するため、ここを訪れるが、かえって不安な気持ちから泣き出してしまう。
 
「ここにいたときは、お先真っ暗だと思ってて!
 将来なんか全然見えなくてっ!
 もう、不安で不安でしょうがなくてっ!!」
「私は、自分の夢にしがみつくしかなくって!」
「いまもナナ自身はできるのかな、大丈夫かなって、
 やっぱり、結局不安がいっぱいでっ!」
 
素の一人称である「私」が漏れてしまうほどの、「ウサミン」としてではなく「安部菜々」としてのありのままの不安を吐き出したあと、「ここで諦めても、また別の理由で不安になるんですから」と吹っ切れたように笑顔を見せる。
安部菜々は「夢を諦めない」アイドルではない。
彼女は「夢を諦められない」アイドルである。
本人も「何度も、諦めようって思った」と口にしているがそれでも諦められないのは、「やっぱり、ナナにはアイドルしかないんです。人並みの幸せはウサミン星においてきましたから。」と言うほどまでに、アイドルというものへの強い憧れを持っているからである。
そして、デビューしてから少し経った話と思われるデレステの初期レアでは、プロデューサーにこう語る。
 
 「そんなナナをプロデューサーが見つけてくれたんです。
  そして一緒にナナの夢に向かって頑張ってくれる…」
 「ファンのみなさんもだんだん応援してくれて…
  ナナ、ウサミン星からやってきて、本当によかったです…。
  これも全部…」
 「プロデューサーさんのおかげです。だから…
  トップアイドルになるまでウサミンをプロデュースしてくださいね☆」
 
彼女の中でプロデューサーとの出会いは、幼い頃からの憧れであるアイドルになれるかもしれない「最後の勝負どころ」であり、人生において非常に重要な転換点なのである。

 私は安部菜々の担当なので安部菜々について語ったが、シンデレラガールズすべてのアイドルにとって「プロデューサーとの出会い」はかけがえのないものだと考えている。
 それゆえ、『always』はシンデレラガールズ全員に歌ってほしい曲なのだと私は主張してきた。My Best Cinderella Songs 第3位ということからも、多くのプロデューサーが私と同じ思いを抱いていたことがうかがえる。
 『ココカラミライヘ!』が終了し、アンコールを除けば最後の曲となる49曲目、『always』のイントロとともにステージ中央からライトが広がってゆき、出演していた58名全員が照らされる。
その瞬間、会場は暖かな拍手に包まれた。すでにぐしゃぐしゃの感情の中、私も手を叩く。
それから、震える手でペンライトを握りしめながら、心の中で『always』の歌詞を反芻する。

 「いつも いつも いつも あなたは見つめていてくれてたんだね」

私は心のどこかで、シンデレラガールズのことを信じ切れていなかったのかもしれない。『always』をすべてのアイドルに歌ってほしいという気持ちも叶わぬ願いだと思っていた。

 「だけどあなたが代わりに信じてくれたんだね」

そして曲も終盤に差し掛かると、ステージのモニターにアイドルが一人ずつ映し出されていく。58人もの大人数による歌唱で歌声が混ざり合い、もはや誰が歌っているのか聞き分けるのは不可能な状況。私には本当に190人すべてのアイドルが歌っているように聞こえた。

 「いつも いつも いつも 私はあなたに愛されていたんだね」

私は、シンデレラガールズに愛されていたのだ。
私の気持ちは一方的なものではなかった。
私が気付いていなかっただけで、シンデレラガールズは今までずっと私の心に寄り添ってくれていたのだ。
まさに「気づいたこの気持ちが宝物」となった。

私に出会ってくれてありがとう、アイドルマスターシンデレラガールズ。
 

おわりに


 今回のライブは、「今までどのようにシンデレラガールズに関わってきたのか」ということを映し出す鏡のようなものだったと私は思う。
切なさや感動で涙を流すのとはまた違う、今回感じた「思い入れ」から来る涙は何事にも代えがたい経験だった。

そして、最初にも述べたが、この文章はあなたの解釈を否定するものではない。
アンコールの最中も終演後も、周囲からはすすり泣く声がたくさん聞こえていた。
この記事で述べたこと以外にも、今回のライブはシンデレラガールズの10年間を振り返るような内容であったため、あなたはあなた自身の思い入れと向き合ったことだろう。
これを読んでくれたあなたが、長く寄り添ってきたコンテンツを、積み上げてきた思い入れを大切にしてくれることを願っている。

いいなと思ったら応援しよう!