KO♥Iは闘気滅鬼 (こいはときめき)
※こちらは某所向けにネタで書きだしたものなので、ちゃんとした読み物をお探しの方はそのまま検索をお続けください・・・
「はぁ!? A美あんたアレのどこが良いのよ? 」
「ちょっとB子声大きい! 」
カフェで周囲の席からの視線を集めて居心地悪そうなB子はそれでも追及を緩めてくれません。
「同じサークルのC太って、いつもあんたに「うっせぇブス」とか酷いこと言ってるアイツでしょ? 」
「うん…」
確かに話しかけると大体そっけない態度なんだけどさ。
「まぁ、顔が良いのは認めるけど」
「そう! カッコイイんだよ」
呆れたようにカフェオレをすすりながら、身を乗り出して力説する私のおでこを押し返すB子。
「それチャラにするぐらいの性格の悪さじゃどーしようもないでしょ」
「確かに口は悪いけど、そこまで性格が悪いって訳じゃ」
反論にジトっとした目で返してくるB子。
「それに、ちょっと良くないのが憑いてるっぽいから、きっとそのせいだって思うんだよね」
目をそらしながら必死で言い訳をする。
「はぁ、それ言われちゃうとね」
そんなに大きなため息つかなくても。
「私もA美のその力に助けてもらったからね」
仕方ないなぁって感じでようやくちょっと笑ってくれた。
「B子」
「また見えたって訳ね」
「うん」
「どうにかなりそうなの? それ」
「分かんない」
あくまでも私の《力》は見えるってだけで、お祓いとかができる訳じゃないんだよね。
「私ん時の人形は? 」
「あれは多分、憑りついてたのが友達欲しいタイプだったから人形で満足してくれたんだと思うけど」
B子ちゃんと仲良くなったきっかけの事件を思い返しながら答える。
「あれだって色々試してみてだったもんね」
「塩まみれにしてごめんね?…」
まずは『塩』!って思ってみてるんだけど、実は今まで効いたことが無かったりする。
「先に事情説明してくれてなきゃビンタしてやるとこだったわよ」
思い出したのか凄い怖い顔してるぅ。
「あ、あの、だから今回もとりあえず片っ端から試そうかなって」
健康に良いと聞けばなんでも試したがるお母さんの影響か、私もちょっと効き目がありそうなお祓いグッズを見つけるとつい買ってしまうのだ。
「それしかないのかもしれないけど、できれば人目のないとこでやんなさいよね」
げんなりしながらそういうB子の姿に、塩の後は聖水でびしょびしょにされた姿が重なる。
いや、したのは私なんだけど。
「人に見られたら完っ全っに変質者だからね」
「でも、どうやって二人きりに? 」
「あー、デートでも誘ってみなさいよ」
「間違いなく断られると思うんだけど」
それから私の前途多難な戦いは始まったのだ。プレイボール!
曲がり角で出会いがしらの「きゃっ! ぶつかっちゃった!」作戦により塩をかけようとした計画は全部自分が被る結果となり失敗。
つまづいて持っていたペットボトルの聖水をかける作戦は、横を通った先生にぶちまけて大目玉。
背中にそっとお札を貼ろうとしても、一定距離まで近づくと振り返って来る。あなたはゴルゴか!
それ以降も尽く失敗し続けて、結局最終手段だった、一番最初のアイデアを実行することとなった。
「あの、良かったらデートしてください!!!」
うっわぁ、すごい冷たい目で見てくる。
でもやっぱカッコイイなー。
ボケーっとイケメン鑑賞しながら返事を待っていると、ため息交じりに答えてくれた。
「最近俺の周りでうろちょろしてふざけたことしてるのを説明するんだったら、ついて行ってやる」
「はう、あのごめんなさい」
バレてる上に怒られてる気もするけど、一応OKってことだよね?
「えっと、じゃぁ、とりあえず人気のない所へ! 」
「おい、何する気だ」
後退って警戒するC太君に、ちょっと誤解を与える言い方だったことを反省。
「へへへ変な事じゃないですよ」
露骨に焦ったことが伝わりさらに後退るC太君をグイグイ押して目的の場所まで連行だ。
「おい、押すな! どこ連れてくってんだ! 」
「いいからいいからー」
騒ぎで目を惹いちゃったけど、何とか予定していた場所まで到着!
人目を避けてたらなんかちょっと崖みたいになってる様なとこまで来ちゃったけど、ここでいっか。
一仕事終えたぜ的に額の汗を拭っていると、抵抗してぐったりした上にもう珍獣を見るような目でこっち見ているC太君。
「えっと、あのですね」
「…なんだ」
ここまで来たら思い切るしかない、ファイト!
「C太君は悪いものに憑りつかれてます! 」
ずばぁっと指をさしながら告げると、無言で帰ろうとしたので慌てて止める。
「冗談とかじゃないの! 自分でも何か変だなって思うことない? 」
足を止めてくれたC太君は、重そうに口を開いた。
「…なくは、ない」
「やっぱり」
「お前、A美は分かんのか? 」
「うん、昔からそういうのが見えるの」
「どうにか、どうにかできんのか? 」
「それは」
カバンの紐をグッと握る。
「わかんない、でも」
C太君の目をしっかりと見て伝える。
「あなたを助けたいの」
いつもとは違う静かな眼差しで私を見つめ返すC太君。
なんだろう、初めてちゃんと私の事を見てくれたんじゃないかなって気すらしてくる。
「もう一度聞く、どうにかできんのか? 」
持ってきたカバンを下してもう一度伝える。
「わかんない、でも前にお友達は救えた」
カバンの中から取り出したものを手に取る。
「だから、どうにかできるまで全部試す」
怪訝そうな顔して私の手元を見るC太君。
ここが正念場よ、頑張れ私!
まずは塩!
小さな袋に入った特別な塩を鷲掴みにして投げつける。
「むー、やっぱり効いてない」
「おい、お前何すんだよ! 」
どんどん行くよ!
タリスマン、にんにく、ロザリオ、お札にお守り、次々と投げつけていく。
「お札は軽すぎて届いてないぃぃ」
「いたい、ちょ、ほんとやめろって」
まだまだ!
聖水に数珠、骨に鈴に水晶と投げ続けたらC太君に変化が。
「ぐぁっ」
周りに見えていた黒い影が苦しそうに蠢いてる、やったね、当たりがあったんだ!
「待っててねC太君」
私は地面に落ちたそれに向かって駆け寄り拾い上げる。
そして何だかよく分からないその大腿骨を大上段に構える。
「チ゛ェストォーーーーぅ!!! 」
先祖は侍か鍬持った百姓かと言うぐらいに我ながら惚れ惚れするほどに綺麗なフォームで振り下ろされた骨が、C太君の頭に打ち付けられる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっっっ!!! 」
「やったか!? 」
大きく揺らめいた黒い影が爆発するように天へと噴き上げ消えていく。
「良かったぁ」
それを見上げて安心したのもつかの間、力なく倒れこむC太君の姿が目に。
そして体は崖の方へと傾いている。
「あ、危ない! 」
骨を放り出しC太君の腕を掴んだけど、とてもじゃないけど支えきれなくてそのまま一緒に崖へと引っ張り込まれる。
「きゃーーーー」
2人もつれる様に転げ落ちていき、ようやく回転が止まる。
「あいたたた」
「いってぇ」
幸いにもそれほど高い崖じゃなかったから、打ち付けた体は痛むけど大きな怪我は無さそうだし、衝撃でお互いの心と体が入れ替わったりもしてない。
だって
「……」
「……」
目の前には、覆いかぶさるようにしてC太君の顔があるから。
「っ! 」
しばらく時が止まっていたかのようだったけど、慌ててC太君が体を起こして離れる。
「あっ、いってぇ。くっそ、なんなんだよ」
服を叩きながら悪態をつく姿を見ながら、私も立ち上がる。
「おい」
「あ、はい」
こっちを見ないまま声をかけられてびくっとしながら返事をする。
「なんかよく覚えてねーんだけど、なんであんなとこに居て、こーなったんだ」
え!?
あれかな、憑りつかれて意識が混濁してたのとか、祓ったショックで一時的に記憶がとかかな。
もしくは頭をしこたま殴りつけたから?…
「ええっっとですねぇ、話せば長くなるというか」
「簡潔に」
「はい! うーんと、デートしてて足を踏み外した的なぁ? 」
お祓いの後のことまでは考えてなかった私はしどろもどろに返す。
誘って二人で一緒に出掛けたらもうデートでいいよね?
ダメ?
「デートだぁ? お前とか? 」
あーん、ダメっぽいかも!
しばらく額に手を当てながら何か考えてる様子のC太君。
「はぁ」
心配そうに見つめてたら、そのまま向こうの方へと歩き出した。
「え、あの、C太君」
「なんか腹減ったから、飯食いに行く」
「あ、うん? 」
突然の言動に理解が追い付かず背中をぼんやりと見つめてると、数歩歩いたC太君が足を止めてほんの少しだけ顔を向けてくる。
そして、だらんと下した掌をちょっとだけこっちに見せるようにして。
「A美、いかねーのか」
ひゃあああああああ!
もうね、引っ込められてなるものかとダッシュでその手を握るしかないじゃないですか。
私が追い付いたのを確認して引っ張るように歩き出したその手は、温かくも冷たくもなくて、塩と土でちょっとざらついていて、でも、すっごく幸せな柔らかさだった。
END
エンドロールは、C太がドン退く勢いで満足そうにご飯を食べるA美や、A美を挟んでB子とC太がメンチを切り合う姿、A美のカバンから零れ落ちていた怪しげな彫像を手にした教師がもだえ苦しむ様などが流れる。