「まちづくり」は、ひとりより仲間と共に挑む方がいい。 ~対談:長谷川裕也/靴磨き職人(後編)~
価値ある新しいものを創るのであれば、ひとりより仲間と共に挑んだ方が絶対にいい。仲間がいると思いがけないアイデアやパワーも生まれ、「まちづくり」がもっと面白くなるはず、と僕は信じています。
そんな僕の思いに共感してくれて、ともに大塚のまちの体温をあげようと、一肌脱いでくれた仲間がいます。そのひとりが、世界一の靴磨き職人・長谷川裕也さんです。
後編では、長谷川さんが今ハマっていることから、大塚の「まちづくり」について考えていきます。(前編はこちらから)
【長谷川裕也さんプロフィール】
1984年、千葉県生まれ。高校卒業後、製鉄所に就職。その後、英語教材の営業マンを経て、2004年、丸の内の路上で靴磨きを始める。2008年、南青山に「Brift H(ブリフトアッシュ)」を開店。2017年、ロンドンで開催された靴磨き世界大会「ワールドチャンピオンシップ」で世界チャンピオンに。2019年12月、「THE SHOESHINE & BAR」を虎ノ門ヒルズにオープン。2020年7月、JR大塚駅北口ba05一階に「MAKE SENSE(メイク・センス)」をオープン。
武藤「ここまで、大塚に新業態の靴修理店を出された経緯と、そこに込めた想いについて伺いました。ところで長谷川さんは、プライベートで最近夢中になっていることってありますか?」
長谷川「夢中になっているのはサドウ、ですね」
武藤「え、”サ道”?※ そういえばドラマの新シリーズも始まったね!」※タナカカツキ氏のサウナエッセイ漫画『サ道』原作のドラマ。
長谷川「いやいや、お茶の方の”茶道”です。たしかに、以前武藤さんを池袋の「かるまる」にお連れしてサウナの道に誘い入れたの、僕ですけどね(笑)」
武藤「そっちの茶道でしたか!よく見ると…お店のカウンターの奥にあるのは茶窯ですか?」
長谷川「はい、そうなんです。元々は、あるお茶の先生が主宰するお茶会に呼ばれたことがきっかけだったんです。そこのお茶会に年4回ほど出席していて。その流れで、一度お茶を自分で立てさせてもらう機会があったんですが、やってみたらすごく面白くて。もっと知りたいと思って定期的にお稽古をするようになりました」
武藤「僕の親戚もお茶の先生をしていて、家に茶室もありました。ただ、僕はお茶とは縁遠かったですけど(笑)」
長谷川「最初にお茶会へ呼ばれた時にお茶の先生が、現代の「お茶のライバル」ってなんだかわかりますか?と皆さんに質問されたんです」
武藤「お茶のライバル・・うーん、何だろう?」
長谷川「答えは、ゴルフ。たしかに、現代社会でビジネスマンの社交の場はゴルフですよね、少人数で一緒にプレーをしながら親交を深めていくという。それが昔はお茶だったんです」
武藤「なるほど、それは興味深い話ですね。僕もゴルフは大好きです」
長谷川「僕はお茶というと、女性が綺麗な着物を着てみんなでお茶を飲んで、結構なお手前で、みたいなイメージを持っていました。でも、歴史的にみると、かつてお茶は地位の高い男性同士の親交の場だったということを知りました」
武藤「歴史を遡ると、江戸時代は大名がそれぞれに茶人を召し抱えていましたね」
長谷川「そもそも茶道が大ブレイクしたのは、千利休が茶人として活躍した戦国時代から安土桃山時代にかけてですよね。利休は織田信長・豊臣秀吉の茶頭として仕えていましたから。当時は武将たちが茶室で、茶を一服しながら交流していた。いつ死ぬかわからない戦国の世にあって、この世のしがらみを忘れて時間を共有する・・・・。そこがかっこいいと思ったし、茶道の奥深さを感じたんです」
武藤「俗世から離れて、ひとりの人間と人間として心を通わせられる、非日常的空間という役割を茶室が担っていたんですよね。何かとせわしない現代にも、茶室的な場所は必要かもしれませんね」
長谷川「はい。あえて日常から距離を置く時間は現代人にとっても大事だと思います」
武藤「僕は歴史、特に戦国時代が好きなので、よく戦国の武将に自分を重ねて考えてみることがあります。例えば、有名なホトトギスのたとえ話がありますよね。鳴かぬなら殺してしまえホトトギス(by信長)なのか、鳴かせてみせよう(by秀吉)なのか、鳴くまで待とう(by家康)なのか。自分は元々、天下を取った家康に憧れていたけれど、今の仕事の進め方は秀吉的になっているかな、とか(笑)」
長谷川「武藤さんは武将みたいなものですよ。山手線の中で群雄割拠する不動産会社・デベロッパーの中で、どうやって良いまちをつくって、今後勝負していくかということをやっているんですから」
武藤「長谷川さんの生き方こそまさに武将のようで、僕は足元にも及びませんよ。まあたしかに、お家騒動で謀反が起こったり・・ありましたけどね(苦笑)。まじめな話をすれば、戦国時代の日本人の平均的な寿命は50歳にも満たないくらいと言われていて、偉い人も、そうでない人も、いつ死ぬかわからないという中で暮らしていたと思います。毎日必死に生きているからこそ、その反面楽しく生きたいという欲望・渇望があったと思うんですね」
長谷川「そうですね。茶道も、戦乱の世だからこそ花開いたのかもしれません」
武藤「それに対し現代の日本は平和で、日本人の平均寿命も延びたけれど、みんな本当に人生楽しんでいるのかなぁって。だから僕は今、戦国の世に生きている気概で、まちづくりに取り組んでいます」
長谷川「茶道から学んだことは、他にもたくさんあります。そのひとつでビジネスにも使える考え方が“取り合わせ”と“見立て”だと考えています」
武藤「聞いたことのあるワードだけど、茶道では具体的にどのような意味ですか?」
長谷川「例えば、茶会などで、掛け軸に合わせて、花入れはこれで、茶碗はこれで、というように一定のルールやコンセプトに従いながらも、その中で面白い・意外性を持たせる組み合わせを行うのが“取り合わせ”です。
“見立て”は、本来茶道具として作られたものではない物を、道具に見立てて使うことを言います。僕が参加した茶会では、先生が陶器製の手りゅう弾のデッドストックを花入れに見立てて使っていて。そんな別世界の代物をあえて花入れに変化させる、そのセンスに大きな刺激を受けました」
武藤「なるほど、それは様々なことに応用できる考え方ですね。ゴルフの道具は14本あるのですが、僕もより良いパフォーマンスを上げるために、いろいろなメーカーの異なるブランドから選び揃えて最良な組み合わせを探っています。ゴルフもお茶も“取り合わせ”は大事(笑)」
長谷川「日常の色々なシーンで思い当たること、ありますよね。欧米のひとから見ると、日本の家庭の食器棚ってすごい面白いらしいんです。色も質感もバラバラなテイストの食器や調理器具が並んでいるのに、なぜか調和しているから。これも日本人独特の”取り合わせ”の感性なのかもしれません」
武藤「日本で暮らしているとあまり気付かないけど、たしかに”取り合わせ”を楽しむ文化がありますね」
長谷川「例えば飲み会でも、人と店の”取り合わせ”によって、面白くなったり、盛り下がったりしますよね。まちづくりも一緒だと思うんです。人や店などのコンテンツを、どう取り合わせるかによってまちの雰囲気も変わってくる。今大塚にある古いぼろぼろの建物だって、それを別のモノに”見立てる”ことによって新しい価値が生まれたり・・・ってことです」
武藤「となると、そこにはセンスがないと上手くできないですよね。センスを磨くには、それなりの知識や経験が必要になってきますね」
長谷川「僕はその知識の部分を養うため、お茶をやっています」
武藤「その前向きで、知らなかった世界にも果敢に飛び込めるところが、長谷川さんのすごいところ(笑)」
長谷川「それは逆に、僕は武藤さんからその前向きさを感じています。いま大塚で色々なチャレンジをされていますけど、武藤さんが思い描いている大塚の街の完成形というか、ゴールみたいなものってあるんですか?」
武藤「そうですね、最近思うことからお話しすると・・以前長谷川さんにサウナの魅力を教えてもらったことがきっかけで、いま都内の様々な施設に足を運んでいます。ただ、サウナと水風呂で心身が満たされいざ服を着て外に出たら、排気ガスにまみれたいつもの日常が広がっていて、、、一気にテンションが下がって現実に引き戻されてしまうこと、よくあります」
長谷川「せっかくととのったのに・・もったいない」
武藤「なので、仮にこれから大塚にサウナを作るとしたら、サウナから出た人たちを迎える「ironowa hiro ba」や「ba01~ba07」の各ビル、そしてそれらをつなぐ街路を一体として、建物の外に出ても、ぽかぽかと高揚した気持ちが冷めないまちにしていきたいなと。そして、気持ちが冷めないまちに必要なのは何よりも、一緒にまちの体温をあげていってくれる「ひと」との出会いだと思っています」
長谷川「街が目に見えて変わってきて、面白いひともどんどん集まってきていますよね」
武藤「ハードを整えるのも大事な要素だけど、僕は「ひと」との繋がりこそがまちづくりの要だと思っています。サウナでの気付きもしかり、文化やアートの重要性に気付けたのも、長谷川さんをはじめ出会った「ひと」たちが、僕の知らなかった世界の入口に導いてくれたから。個性的でカラフルな魅力をもつひとたちと一緒に、大塚のまちをよりユニークにしていきたいですね」
大塚のまちをカラフルに、ユニークに
大塚が変わるプロジェクト「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)とは?(▼)
編集協力:白井良邦