見出し画像

「まちづくり」は、ひとりより仲間と共に挑む方がいい。~対談:長谷川裕也/靴磨き職人(前編)~

価値ある新しいものを創るのであれば、ひとりより仲間と共に挑んだ方が絶対にいい。仲間がいると思いがけないアイデアやパワーも生まれ、もっと「まちづくり」が面白くなるはず、と僕は信じています。

そんな僕の思いに共感してくれて、大塚のまちをともに盛り上げようと、一肌脱いでくれた仲間がいます。そのひとりを、今回この場を借りて紹介したいと思います。世界一の靴磨き職人・長谷川裕也さんです。

長谷川さんは、著名な方々(名前は出せませんが・・・)も顧客に持つ、超人気の靴磨き職人です。

ロンドンで開催された本場英国の靴磨きコンテストで、世界中から集結した職人たちとの戦いを制し、優勝したこともあります。

とはいえ、最初からいきなり有名になったわけではありません。たいへんな家庭環境で幼少期を過ごし、高校卒業後様々な仕事を経験したのち、ほとんど無一文の状態から路上で靴磨きを始める・・・。

過酷な環境に身を置きながら、誰にも真似できない発想と努力で、コツコツと今の地位をつかみ取ったという苦労人です。

DSCF0861 - コピー

【長谷川裕也さんプロフィール】
1984年、千葉県生まれ。高校卒業後、製鉄所に就職。その後、英語教材の営業マンを経て、2004年、丸の内の路上で靴磨きを始める。2008年、南青山に「Brift H(ブリフトアッシュ)」を開店。2017年、ロンドンで開催された靴磨き世界大会「ワールドチャンピオンシップ」で世界チャンピオンに。2019年12月、「THE SHOESHINE & BAR」を虎ノ門ヒルズにオープン。2020年7月、JR大塚駅北口ba05一階に「MAKE SENSE(メイク・センス)」をオープン。

毎日を一生懸命生きていることが会っているだけで伝わってくる――長谷川さんはそんな人です。

だから、大塚のまちづくりを進めていくときに、「この人と何か面白いことが出来たらな」と、漠然と感じていました。

そんな思いから、大塚駅前の商業ビル「ba05」を建てるときに、長谷川さんにとっても新業態となる靴修理店「MAKE SENSE(メイク・センス)」を出店してもらいました。

JR大塚駅北口を出て徒歩10秒のところにある、新しい商業ビルの1階という好立地。でもわずか5坪という限られたスペースです。そのビルの1階にはセブンイレブンが入っているのですが、その一部に喰いこむように靴修理店があるという(笑)。

もちろん、初めての知らないまちで、初めての業態のお店を開いてもらおうというのですから、成功するかどうはかわからない・・・でも、長谷川さんなら、人として裏切らないし、きっと一緒に面白いことが出来そう。

そう思って、出店の依頼をしたのです。

武藤 「今日は朝早くからお時間つくってもらい、ありがとうございます。実は元々、僕はこの長谷川さんのお店(東京・南青山の「Brift H(ブリフトアッシュ)」)に靴磨きをお願いしに来ていて・・・・そもそもは、靴磨き職人とそのお客さんという関係でしたよね」

長谷川 「そうですよね。僕は武藤さんにお会いした頃のことをよく覚えています。僕はてっきり武藤さんはIT系の会社の社長さんだと思い込んでいました。だっていつも決まって、平日の午後に真っ黒に日焼けした顔で現れるので(笑)」

武藤 「いやいや、それはきっと仕事関係の方とゴルフへ行った帰りにいつも立ち寄っているだけで・・・普段は毎日、朝から大塚にいてバリバリ仕事していますよ(笑)」

長谷川 「僕は千葉県出身ですが、JR大塚駅には、武藤さんとお会いするまで一度も行ったことがなかったんですよ」

武藤 「そうそう、長谷川さんには、2018年春に開催した「路上靴磨きイベント」で靴磨きをしてもらったのが大塚初訪問でしたよね。星野リゾートのホテル「OMO5東京大塚」が入っているビル「ba01」で、朝から日没までひたすら靴磨きをしてもらうというイベントで。朝8:30の時点で、60~70人くらいのお客さんが長い列を作っていて、その人気に正直驚きました」

長谷川 「で、その日稼いだお金は、すべて夜の大塚で使い果たしたという・・・3軒ハシゴして、3軒目は稼いだ分だけで足りなくて、確か武藤さんにも払ってもらっちゃった気が・・・(苦笑)。でも大塚は、実際に行ってみると面白いまちですよね。小さな路地がたくさんあって、この先へ進むと何があるんだろう?って想像力を掻き立てられる。そんな雑多なところが大塚の良さですね。初めての訪問で、その魅力にどっぷり、つかりました(笑)」

武藤「MAKE SENSEは靴修理の店ですが、なぜ大塚で靴磨きではなくて、靴の修理をやろうと思ったんですか?」

長谷川「実は靴修理でやりたいことがありまして・・・正直、靴は「作る」より、「直す」方が作業としてはあきらかに大変なんですよ。おまけに普通、シューズのリペアというと、高額な修理代+納期にも時間がかかる。靴マニアと職人との趣味の世界のような・・・。でも僕は、それは一般的に言うと理に適っていないのではないか、と感じていたんです。だから、もっと良い意味で手軽で、賢い靴修理の方法があるんじゃないか、と」

武藤「なるほど。適正な金額で靴を修理してくれて、日常的に利用できる店が近所にあれば、履きなれた靴を捨てずに長く使っていけます

長谷川「それで“理に適った”という意味のメイク・センスを店名にしたんです。修理も、まずオンラインで事前に靴の写真を送ってもらって、それに対し見積もりをとる、というような。そんな新しい試みをしながら、挑もうと思ったんです」

武藤「自分の愛着ある靴を丁寧に見てくれる、嬉しいサービスですよね」

長谷川「お店の設計にもこだわり、内装はインテリア・デザイン界では著名な<ランドスケーププロダクツ>にお願いしました。一緒に店のコンセプトを考えたんですが、あえて靴修理屋に見せないみたいな。外から靴を削る機械や修理道具が一切見えないようにして一見すると何屋かわかならい、クールな店にしようと・・・。

でも、コロナ禍でそもそも駅前に人があまりいない状況だったので営業的には大変で、そこはちょっとトンガリ過ぎたなと反省し、今は店に暖簾をかけたり、もう少し靴修理のお店だとわかるようにしています(笑)」

画像2
「MAKE SENSE」店頭に掲げられたロゴマーク。コンセプトは”simple” ”smart” ”clean”
画像3
「MAKE SENSE」店長の幸前さんと、スタッフの富田さん。
初めてでも入りやすい気さくな雰囲気。

武藤「長谷川さんの、まずやってみて、走りながら考える。そんな姿勢ややり方は僕との共通点ですね(笑)。とはいえ大塚は、これまで長谷川さんがお店を出されてきた青山や虎ノ門とは雰囲気が全く異なるから、大変だったでしょう」

長谷川「僕の気持ちのなかに“メインストリームでないものをかっこよく変えていく”というものがありまして。みんながちょっとかっこ悪いと思っていたり、全然関心がないことを、オシャレに変えていくということに燃えるタイプなんです(笑)。そもそも靴磨きを始めたのも、そんな気持ちからです。「なんで大塚?」と聞かれるのが面白いというか」

武藤「大塚は、そういう意味で、まだまだ未完成で、伸びしろがあるまちだと思います」

長谷川「新しいことができる、これから成長していけると思わせてくれるまちですよね。実は大塚には、レアものスニーカーを扱う知る人ぞ知る店もある。そんな店に集うようなスニーカー好きのお客さまのために、カスタム用ソールを作ってみたり、これまでは出来なかったことにもチャレンジしています。
大塚でお店をやろうと思ったのも、武藤さんの熱意に共鳴して、“足元から大塚というまちを変えていきたい”と強く思ったからなんです。このまちから新しい価値感みたいなものをつくっていきたいですね」

DSCF0812 - コピー

次回は、対談の後編をお届けします。長谷川さんの考える、「まちづくりに必要なもの」とは?

大塚のまちをカラフルに、ユニークに

大塚が変わるプロジェクト「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)とは?(▼)

編集協力:白井良邦

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?