SS【悪夢のホテル】761文字


散々道に迷い、渋滞に巻き込まれ、ホテルにチェックインしたのは夜中だった。

三階まで階段をのぼると、すぐ右手に自動販売機コーナー。それを見たぼくは、先日、娘にカフェオレを買ってきてくれと言われていたのを思いだした。

左手の突き当たりには緑色に光る非常口のマークが見える。ぼくは部屋のある左に進んだ。

疲れ果てていたぼくは、部屋に入るとシャワーを浴び、すぐにベッドで横になった。



数分後。眠りが深くなる前にけたたましい非常ベルの音が辺りに響き渡った。

誤報だろうか? 眠たい目をこすりながら部屋の扉を開けると、廊下は薄っすらとモヤがかかったようになっている。


まずい!! 誤報じゃない!!


「プルルルル プルルルル」


とつぜん部屋の電話が鳴った。


「もしもし!!」


「お客さん、部屋でタバコを吸われました?」


「吸ってませんよ!! 廊下が煙だらけになっているから通報して下さい!!」


ぼくは電話を切ると、浴衣の袖で鼻と口をおおいながら体勢をできるだけ低くして這うように非常口の方へ移動した。


「ゴホッ!! ゴホッ!!」 


非常口の扉を開けて一歩踏み出した瞬間に、ぼくは自分の浅はかさを後悔した。

そこにあると思っていた非常階段は無く、ぼくは地上に向かって落下したのだ。


「ウワァ ァ ァ ァーー!!」


うつ伏せで落下し、顔面が地面にめり込むような感触があった。

ぼくは死の恐怖を覚えた。



誰かの呼ぶ声が聞こえる。



「お父さん・・・・・・枕と一緒にベッドから落ちてるよ」


目を開けると娘が呆れ顔でぼくを見下ろしている。


「何か臭いぞ!! 火を使っているのか?」


「ああ、換気扇を回していなかったからね。魚焼いてるの、食べる?」


ぼくはブリの照焼きと豆腐の味噌汁で白いご飯を頂いてから「ホテル」をチェックアウトした。


後方から娘が叫んでいる。


「帰りにカフェオレ買ってこいよ!!」


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こし・いたお
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