【抄訳】大佐の自伝・メタリカ篇①/ラーズとの関係、俺が足を踏み入れてしまった場所
※デイヴ・ムステインの自伝『Mustaine : A Heavy Metal Memoir』第3章より、部分的に要約した内容を掲載。引用部は本文を直接訳したものです。
■メタリカの前に活動していたバンドPanicでの最後のショーについて
1981年某日、Panicはキャンプ場でのバイカー達のパーティでの依頼を受ける。
人気曲はMontroseやRush, Ted Nugent, Pat Travers, Led Zeppelin,そしてKISSなど。デイヴはどの曲も網羅していた。また、当時は珍しかったワイヤレスの機材を使用し、観客達を驚かせた。
さて契約通りに演奏を終えるも、バイカー達は延長を要求。追加のギャラとしてマジックマッシュルームを分けると言う。バンドは二つ返事で応じたが、それが破滅の始まりだった。メンバーは全員正気を失い、普段あえて口にしない不満をぶつけ合って人間関係は完全に壊れた。
更にデイヴのドラッグ売買の仲間でショーに同行していた男が、キャンプ場から酒樽を盗もうとして川に落としてしまったことから、怒ったバイカー達にトラックに監禁されたりもした。最終的には和解し、もう1セット演奏させられ、事なきを得たが、この出来事以降デイヴの心は完全にPanicから離れてしまった。
その数週間後、デイヴに運命の出会いが待ち受けている……。
■ラーズとの出会い
Panic最後のショーから数週間後、Recycler紙を眺めていたデイヴはあるギタリスト募集広告に目を留める。好きなバンドとして3つの名前が挙がっていた。
デイヴのBudgieとの出会いは数年前に遡る。ヒッチハイクで乗せてくれたのがLAのラジオ局の人で「ギタリストならコレを聴け」とテープをかけてくれたのだった。
電話をかけると、妙なアクセントのキッズが応答した。
「やぁ、ギタリスト募集の広告を見た。MotörheadとIron Maidenの……。あと、俺もBudgieが好きなんだが」
「マジかよ? 君、Budgie知ってんの?」
こんな具合に会話が始まった。
ラーズは予想よりも若く、ほんの子どもで、NWOBHMの熱心なコレクターだった。
数日後、ニューポートビーチのラーズの家(父親の家に住んでいた)へ車を走らせた。かつてデイヴの母親がメイドとして働いていた高級住宅街だった。
右へ曲がれば母が富裕層のためにトイレ掃除をしていた地区で、左折すればラーズの家だ。
ハンドルを切った途端、デイヴに蘇った記憶は、子どもの頃に母を手伝い、蝶ネクタイを着用して、この近所の金持ちのプライベートパーティでケータリングの仕事をしたことだった。
デイヴは21才、ラーズは18にも満たないように見えた。
この出会いに大きな意味があるとも知らず、ラーズの部屋でドラッグをやってハイになり、彼がこれから作るバンドで世界制覇する計画をを話すのを聞いた。
彼の部屋には様々なバンドのピンナップや雑誌の表紙が。特に目を引いたのは激しくドラムを叩くフィルシー・アニマルの巨大ポスター。
「かっけー!」と思った。
ベッド脇にはデンマーク語のポルノ雑誌の山。野球のバットや牛乳瓶が突っ込まれいる写真にドン引きするデイヴ(俺は潔癖症ではないと言い訳しつつ)。
どんなバンドを結成しようとしているのか聞くと、既に3人のメンバーは決定してるとの答えが返ってきた。
ヴォーカルのジェイムズ・ヘットフィールド(この頃はまだギターは弾いていなかった)、ベースのロン・マクガヴニー、そしてドラマーのラーズ。彼らは本物の凄腕ギタリストを探しているのだと言う。
バンドには名前もなく活動もしていなかったにも係らず、ラーズはメタル・ブレイドのプロデューサーであるブライアン・スレイゲルと話を付けていて、コンピレーションアルバムMetal Massacreの1枠を確保していた(後に知ったことだが)。
あとはバンドを結成し、曲を作り、レコーディングをするだけだ。
ラーズは大変若く、野望を語っていても、自分を含め他の多くのワナビーと同じように見えた。デイヴは殆ど期待せずに自宅に戻るが、予想に反して2日後に電話があった。
「オーディションってことか?」
「まぁ、そうだね」
■オーディション
オーディションはロン・マクガヴニーの家にて。さほど裕福ではなく安っぽい地域だったが、食うためにドラッグを売っている自分の生活とは比べるべくもない。
ロンは写真が趣味でモトリー・クルーの大ファン。ペイントした髪をスプレーで立たせたヴィンスの写真を見せてきたが、デイヴは全く理解できなかった。
オーディションなんて初めてだったから、内心誇りを傷つけられたデイヴは口数が少ない。
オーディションは、はじめから雰囲気がおかしかった。
その場にはラーズ、ジェイムズ、ロン以外にも何人か集まっていたが、デイヴが機材をセットするあいだ別の部屋に行ってしまった。
デイヴはギターを弾き始めたが、聴きに来たり一緒にプレイしたり質問したりする者はいなかった。
30分ほど経ってから痺れをきらしてデイヴが家の中に入って行くと、彼らは酒を飲んでハイになっていた。
「おい、やるのかやらないのか、どっちだ?」
訊くと、
ラーズはニッと笑って手を振り、言った。
「もういいよ。君は合格」
ジェイムズはガリガリに痩せていて、スパンデックスのタイツとブーツを履き、太いレザーのブレスレットを着けていた。ロックスターになり切ろうとしていたのは見え見えで、長い髪をなびかせたルディ・サーゾみたいだった。
▼Chapter4に続く