正確さとも、正解とも、無縁に。
「フジコヘミングの時間」
という映画を見た。
フジコヘミングってイメージの中では勝手に化け物扱いしていて(すみません)没頭してピアノを奏でる感じもそうだし、あの独特な風貌やファッション全て含めて、妖怪だな(ほんとすみません)・・・いつかは生で聞きたいな~と漠然と思っていた。
数年前の時点でかなりお年を召されていたと記憶してたし、もしかしてもう生きてないのかも?と思う一方で、ずっと前から変わらぬ印象で、そのうち行けばいいかと思ったり、まあ、要は目にすれば気になるけど、積極的に追っかけてなかった、そんな矢先の訃報。2024年4月21日 享年92歳。
すごい。本当に。
そして、彼女の魂の音楽は、もう永遠に生では聞けなくなってしまった。
その「フジコヘミングの時間」
ちょっと前にボブ・マーリーの映画「ONE LOVE」を見て、90分という短さもあるけど「ボヘミアン・ラブソディ」に比べてあまりの薄味具合に心が全然動かず
「むむむ、これは私、感性が死んでる?疲れてる?」と思ってたけど、
「フジコヘミングの時間」は、圧巻だった。
心震えた。うるうるした。
フジコは思想家じゃない。
だから、思想や理想は一切語らない。
でも、音が語りかけてくる。しかも、もんのすごい迫力で。
「あなたは、命を懸けて、どう生きるの?」
スクリーンの中のフジコはめちゃくちゃ魅力的でチャーミングで孤独で、意外と普通で、で、やっぱり狂気の人だ。
極貧の中で辛うじて1年に一度開催していたリサイタルが噂になり、誰かの目に留まって、テレビを通じて人気を博すようになるまで20年近く。世に出たのが60歳だよ、60歳。
しかも若いころに病気で失った右耳の聴覚は戻らず、左耳も40%しか聞こえない体で、80歳超えて、年間60講演を世界中で、しかもマネージャーもつけず全部自分で。
代表曲である「ラ・カンパネラ」を「その人が全部でる」「命懸けで弾くんだから」の言葉どおり、すさまじく澄んだ音がキラキラと飛沫を挙げているように聞こえてくる、素人の私の耳にも違いがわかる音の純粋さ。
音の粒のど真ん中を貫くようなタッチ。
その狂気じみた美しい音を支える毎日4~5時間の地道な練習。
初めてピアノソロに心震えさせられたよ。
そんなフジコの日常は、住むのが夢だったパリで友人に支えられて猫と暮らす日々。
部屋の中は細部までこだわりぬいたアンティークの家具や雑貨であふれてて、一つ一つをいとおしそうに語る姿とか、街に繰り出して、カフェでコーヒーを一人飲む姿とか、自分が美しいと感じるものに囲まれて生きることとか、文化が薫る環境に身を浸して自分の好きに生きることが、精神生活にどれほどの豊かさをもたらすだろう。って感じた。
正確さよりも、正解よりも、内側からほとばしるものを優先させたい。
心を込めて出す音と、何の気なしに出す音の違い。色のあるなし。
そうか、人の色気ってのは、何の気なしに生きてても出ないんだよな。
心を込めて真剣に生きる人の気に色が宿る。
そうやって。
人生は、時間をかけて自分を愛する旅である。
今も、BGMはフジコヘミング「ため息」。
代表曲である「ラ・カンパネラ」以上に心臓に来る曲。
勝手に
「あんたが主役だ。クライマックスは自分で作れよ」
と語りかけてくる(笑
それにしてもリストの曲ってば、本当に超絶技巧(笑
美しさって、本当に自分だけのものだ。