「社会をつくるのはわたしたち」Instagramで政治を発信し、U30世代へアプローチ
このインタビューシリーズでは、アジア各地で社会課題解決に取り組む人々の声や生き方をお届けします。
2019年7月に政治と社会をわかりやすく伝えるInstagramを立ち上げ、1週間で1.5万人のフォロワーを獲得したNO YOUTH NO JAPAN。2020年8月に一般社団法人化し、活動3年目となる現在ではフォロワー6.4万人のメディアに成長しています。代表の能條桃子さんは森元会長発言への抗議署名の発起人となり、15万人の同意を集めたことでも話題になりました。この春大学院に進学した能條桃子さんに、立ち上げの経緯や活動内容、今後の展開などを伺ってきました。
留学先のデンマークでみた選挙に衝撃を受け、日本の同世代にInstagramで投票を呼びかけることに
ー 立ち上げ当初、大学生だった能條さんがこの活動を始めた経緯を教えてください。
当時わたしはデンマークに留学中だったのですが、現地は国政選挙・EU議会選挙のダブル選挙で大盛り上がりで、日本とのあまりの違いに衝撃を受けたのがきっかけでした。
周りの友人たちがお祭りのようにワクワクするイベントとして、選挙に参加していたんですよね。寮では夕飯後にポップコーン食べてくつろぎながらテレビで党首討論を見たり、「前回あの政党に入れたけど大失敗だった。今度はこの政党に入れる」なんて会話を普通に交わしたり。開票時には校内にスクリーンが設置され、パブリックビューイングが行われました。
41歳の女性が首相として選ばれる。閣僚20人のうち女性が7人もいるのに「女性比率が低い」と批判の声が上がる。自分と同い年のEU議員が選出される。選挙の結果にも、驚きの連続でした。
日本の同世代に政治の話をすると、「意識が高い人」扱いをされたり、ちょっとひかれちゃったりしてたんですよね。でも、デンマークだと意識の高い・低いに関係なく、みんな政治の話をするし、投票にも行く。
投票率が80%を超えるデンマークでは、「政治に参加するのは当たり前のこと」という共通認識が根付いています。一方、日本では若者の投票率の低さが問題視されていたけれど、そもそも政治に積極的に参加する土壌自体がないことに気づきました。
留学する前から「社会って誰がつくってるんだろう」ってずっと考えていました。社会にはいろいろな問題があり、不満を抱えている人たちがいる。偉い政治家とか大企業がちゃんとしてくれないから、こんなことになっちゃってるのかなって。
でも、デンマークの人たちは「自分たちが社会をつくっている」っていうんですよね。だから、政治にちゃんと参加する。日本でも、「わたしたちが社会をつくっているんだ」っていえるようになりたいって思いました。
ちょうどその頃日本の参院選が迫っていたので、なにかやらなくちゃとウズウズして、同世代の子たちに投票を呼びかけてみることにしました。
ー どのような反応があったのでしょうか?
仲間を募って急ピッチで準備して、アカウントを立ち上げたのが参院選の2週間前です。短期間で1.5万人のフォロワーさんがついて、手応えを感じました。でも蓋を開けてみると、投票率が上がるどころか下がっていて、ショックでしたね。
当初は参院選までの期間限定のつもりだったのですが、直前に投票を呼びかけてバズらせてるだけじゃダメなんだとわかり、活動を続けていくことを決めました。
フォロワー6.4万人のInstagramは「U30世代のための政治と社会の教科書メディア」
(NO YOUTH NO JAPANのInstagramアカウント。毎月U30世代に身近なテーマをとりあげて、わかりやすく解説している。7月のテーマは「性教育」)
ー Instagramでは、どのようなメディア運営をされているのでしょうか?
日本で政治というと、U30世代には「むずかしそう」「面白くなさそう」「ダサい」みたいなイメージがあると思うんですが、そういうのをくつがえしていきたいと考えています。
Instagramはわたしたちの世代に1番身近なSNSで、みんな美味しい食べ物やお洒落なカフェの写真をアップしますよね。その世界観と馴染むような伝え方じゃなきゃダメだと思って、ポップなデザインでわかりやすく、政治と社会の情報を発信しています。
好きなファッションをシェアするのと同じような感覚で、政治への疑問や意見がシェアされる。みんなの生活に自然と政治が入ってくるような、そんな世界がいいなあと思っています。
「U30世代の声を直接政治家に届ける」現役国会議員・地方議員とのインスタライブ
(お笑い芸人の山里亮太さんのMCで、自民党の三原じゅんこさん、立憲民主党の蓮舫さんと1時間半にわたり、インスタライブを行った)
ー Instagramで政治家と対話をする機会も設けていると伺いました。どのような内容なのでしょうか?
「政治家に声を直接届ける」ことを当たり前にしたいので、わたしたちが政治にどういうことを求めているか、お伝えしています。
「国会議員にダイレクトーク」という取り組みでは、毎月テーマを決めて、与野党の国会議員さんにお話を伺っています。また、「Instagramで政治家で話そう」という企画でも、政治家の方とのインスタライブを定期的に行っています。
U30世代と政治家には、双方に対する思い込みがあるんですよね。U30世代は「政治家はどうせうちらの話なんて聞いてないんでしょ」と思っているし、政治家は「若者はどうせ投票行かないし、政治に関心がないんでしょ」って思っている。
そういう人たちもいるけれど、「なにかしなくちゃ」って問題意識を持っているU30世代は沢山いるし、わたしたちの話に耳を傾けてくれる政治家もいる。お互いにもったいないなって。
とはいえ、直接政治家とコミュニケーションをとれる場ってなかなかないので、つくりました。わたしも政治家の方とお話しする機会が増えて、どのような政治的意見を持っているかは、政党よりも個人差が大きいんだなとわかりました。ほかにも、地方選挙の投票率を上げる取り組みや、他メディアへの出演や記事の寄稿、イベントや講演会への登壇なども行っています。
(千葉県知事選挙でU30世代の投票率アップを目標に掲げ、大学生メンバー中心に立ち上がったプロジェクト「Vote For Chiba」。目標数字には届かなかったものの、前回の知事選に比べ、投票率が大幅に上昇)
「この社会はわたしたちがつくっている」そういえるように
(NO YOUTH NO JAPANのメンバーたち。大学生を中心に70名、政治系の団体としては珍しく9割が女性。東京在住組は40%前後で、地方や海外からも幅広く参加している)
ー 今後の予定として、8月に書籍を出版されると伺いました。
デンマークで学校の授業見学をしたとき、社会の教科書にデモのやり方や陳情の仕方、政党の作り方まで書かれていて、驚きました。望ましい社会をつくっていくためには、どうすればいいのか。「行動すればいいんじゃない?」わたしはその教科書からそういうメッセージを受けとりました。
日本の社会の教科書は仕組みの説明ばかりで、どういう社会が望ましいかを考えさせるようなことは全然書かれていません。だったら、いまのわたしたちが欲しい教科書を作ったら面白いんじゃないかと。
ー この教科書をどのような読者に届けたいですか?
高校生や大学生に読んで欲しいですね。政治は社会を変えられる手段で、だから必要なんだよってことを伝えたいです。
最近、SDGsが流行語のようになって、企業が盛んに謳っていたり、社会問題をビジネスで解決するのがいいんだって流れがあるような気がしています。社会問題を解決する手段は多様であるべきですが、ビジネスでは解決できないこともあって、だから政治が必要なんですよね。そもそもビジネスパーソンだって投票するのだから、政治にも関わっているのだし。
上の世代の人たちにも、わたしたちが政治について考えていることを伝えたいです。U30世代にもなんとかしなくちゃって問題意識を持っている人は沢山いるんですけど、なかなか見えづらいんですよね。この教科書を通じて、そういう人たちの存在を可視化できたら。
ー 2年間の活動をふりかえって、どんなことが頭に浮かびますか?
2年前と比べると、できることをすこしずつでも積み重ねてこられているのかな、と思います。でも、U30世代の影響力はまだまだとても小さいし、「若者が声をあげてその声が響く社会」を実現するには、全然至っていないんですよね。
もっと活動を続けて、投票率を上げていかなくちゃいけない。ロビイングや政策提言を通じて、政治家への働きかけもより積極的にしていきたい。わたしたちの声を代弁してくれる同世代の政治家が生まれるように、被選挙権の年齢引き下げなど、制度を変えていく必要もある。
活動を始めた頃は周りの友人が投票にいってくれたら満足していたのに、いまはもっと強欲になっていますね(笑)。まだまだできることがある、もっといけるんじゃないかって思っています。
ー 最後に、社会問題解決のために奮闘しているアジアの社会イノベーターたちにメッセージをお願いします。
ソーシャルセクターでの横のつながりがほとんどないので、もし活動を辞めてしまったらこれまでに培った経験やノウハウ、ネットワークなどが途切れてしまい、下の世代や他の団体に受け継がれていないことに課題を感じています。
シェアハウスを運営して学生団体の拠点としたり、他の団体とのオンライン合宿をしたりもしてきてはいるのですが、そういうつながりも今後作っていけたらと考えています。
アジアだと共通する社会課題もあるでしょうし、みなさんがどんな課題にどう取り組んでいるのか、興味がありますね。お互いに学びあえることも多いと思うので、それぞれの取り組みを共有できるような場を持てたら嬉しいですね。
<写真提供> 一般社団法人 NO YOUTH NO JAPAN
◎一般社団法人 NO YOUTH NO JAPAN:Instagram、ホームページ
このインタビューは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、オンライン会議システムを利用し進行しました。
著者:森川裕美(もりかわゆみ)。ソウル在住6年。通訳案内士(英語)/ライター。小6の母。本が大好きで、1年で150冊前後読みます。コロナ禍でランニングを始め、ラジオを聴きながら漢江沿いを走っています。
発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
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