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TED×NagoyaU 安藤美玖さんが語る、登壇までの物語
2022年7月3日。愛知大学にて開催されたTED×NagoyaUのラストステージに立った安藤美玖さん。彼女の約17分のプレゼンの後、会場は、共感と感動の涙で溢れていました。『すべてを失って気づいた、幸せに生きるために大切なこと』このタイトルからはじまるプレゼンでは、本当の意味での”自立”と、”愛あるつながり”について語られました。
今回、美玖さんはなぜ登壇することを決めたのか。自分の想いと向き合い続けるなかで見えたものとは何だったのか。彼女の軌跡を追い続ける筆者が、登壇の前後に行ったインタビューをもとに、その裏側にあったストーリーを綴ります。
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安藤美玖さん|女性キャリアスクールICORE代表。新卒で株式会社DENSOに入社。営業・人事を担当した後、様々な副業を経て、2020年に独立。現在はICOREを夫婦で経営する傍ら、 パーソナルコーチングや「女性が仕事も人生も諦めず、毎日を元気に生きる」をテーマにVoicyのパーソナリティを務めるなど多岐にわたり活躍中。
”生き続けるメッセンジャーになりたい”
ーそもそも、TEDに挑戦しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
TEDはもともと大好きで、植松努さんのように”自分のストーリーが誰かの励みになったり、1歩を踏み出す勇気になる”そんなメッセージが届けたいと思ったことが、今回の挑戦を決めたきっかけかな。
でも、いざ登壇が決まって「なんで私、TED出たいんだろう?」って改めて考えた時、自分がいなくなっても、誰かの幸せに貢献できるとか、何かヒントになるメッセージを遺しておきたいという想いがあることに気付いたんだよね。昔から好きな偉人、マザー・テレサやアンネ・フランクみたいに「死んだ後も生き続けるメッセンジャー」になりたいって。
ー今回の登壇をきっかけに、発信の裏にあった願いにも気付いていったんですね。そう思うと、顔出しNGから始めたSNSも、顔出し投稿からブログ、Instagram、Voicy…どんどん「美玖さん」が表に現れていますね!発信する媒体が広がっていった理由にも影響しているようにも感じますが?
確かに!それでも、最初は怖かったんだと思う。何者でもない自分が何か発信することに対して”他人から何か言われるんじゃないか、どう思われるんだろう”って。だから「私はこう思ってます!」って言い切りじゃなくて逃げの姿勢で発信してたんだよね。
でも、私のメッセージを見て救われたとか、誰かの役に立てているんだって経験が自信になって。「もっと沢山の人に、私が自分の人生から学んだことを伝えたい!」って思うようになってから、発信の場が広がったのかもしれないな。
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1度は諦めかけた挑戦だった。
ー当日を迎えるまで、複数のプロジェクトが同時進行だったと耳にしました。準備など大変だったのでは…?
いやー、本当に当日までの半年は怒涛だったなって思う!めちゃくちゃ大変だった!!…けど、今思い返しても大事な時間だったな。実は、TEDのオーディションと同時期、精神的につらいことが重なって、締め切り直前まで準備ができないくらい苦しかったんだよね。もう諦めようかと思っていて。前日、アンディ(夫)に「今年じゃないかも。もう無理、諦める。」って伝えたんだ。でも「諦める必要ないでしょ」って、時間ギリギリまで一緒に資料作ってくれたんだよね。
背中を押されて、やるだけやってみようって応募した結果、登壇するチャンスを手にすることが出来たんだ。あの時諦めてたら、今の私はいなかったと思う。本当に、アンディには感謝してる。
ー登壇を決める前、そんな出来事があったんですね…。でも、”やるからには!”という覚悟で挑戦することを決めた美玖さん。プレゼンの内容は、最初から決めていたんですか?
全然!最初は別の内容で考えていたんだよね。登壇が決まった後、私の誕生日の節目に、ICOREの企業理念も一緒に考えてくださっている加来さんに依頼して、新しい自分理念を創って頂いて。そこからガラっと変わったかな。
それまで掲げていた自分理念【Meaningful life 人生の意味を見つけ、命が満たされる人生を】これも最初は、”まさに私の人生!”と思っていた。でも、”使命を追い求めていく”って、ある意味不安に挑んでいくような感じもしていて。そのことに違和感を感じ始めていたんだよね。
”使命”は見つけるものじゃなくて、みんなのなかにすでにあるもの。だから、加来さんと新しく創った自分理念【愛あるつながりで 愛あるつながりをつくる】これを見た時、すごくほっとしたというか、”あ、やっと自分に戻れたんだ”って感覚がしたんだ。
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「愛あるつながりで 愛あるつながりをつくる」自分理念に込められたストーリー
ー”自分に戻れた”と感じた裏側には、どんな想いがあったんでしょうか?
私、これまで”愛”という言葉が苦手だったの。不思議だったんだよね。人が大好きなのに、入り込みたくないって謎の自分がいた。”なんでこんなに人を信じられないんだろう、距離を取ろうとするんだろう、愛することが怖いんだろう”って。分からなくて、答えを追い求めてきたけれど、見つからなくて。評価や肩書、目に見える幸せばかり追いかけて行くうちに、どんどん独りぼっちになる感覚がしていたなぁ。
ー意外…と言ったら失礼かもしれませんが、SNSを通して見る美玖さんからは全く感じられなくて、驚きました。
そうだと思う。自分の弱い一面を見せるのってすごく怖いし、見せちゃいけない、頑張らなくちゃって思ってたからね。
でも、自分の人生を振り返って気付けたことは、自分のことも、人のことも、本当は愛したかったんだということ。それから、17歳でお父さんを失って、愛する家族のつながりが変わってしまった強い痛みから、性格が真逆に転んでいたということ。今回ようやく、お父さんが遺してくれたテニスノートに書かれた『自立』の意味を理解することができたんだ。
だから、自分理念に”愛、つながり”が出てきた時『私って、ここが1番大事な人間だったんだ』って、本当の自分を迎えに行けた気がしたんだよね。やっぱり、全部そこにつながっていたんだなって。このタイミングで自分理念を見つめ直せたのも、TEDに立つ機会に恵まれたことも、自分にとってすごく大きな節目だったと思う。
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自分にも人にも、愛をもって生きられていない人へ届けたい。
ー今回、美玖さんはどんな人に今回のメッセージを届けたいと思っていたんですか?
届けたい人は明確で、”自分にも人にも、愛をもって生きられていない人”なんだよね。その人が、自分のことも人のことも大切に、人生を前に歩いていけるようになって欲しいと思っていて。それが、今回のプレゼンのテーマでもあるんだよね。
きっと、昔の私がそうだったように『こんなふうに生きなきゃ』とか、自分のことを大切に出来ていない人が多いと思う。でも、人生の幸せって”自分と人に、どれだけ愛を持って生きれたか”そのために、”自分に愛ある選択を、人にも愛ある選択をすること。”この、【愛ある自立】と【愛あるつながり】の2つがなによりも大事だと思うし、今回1番伝えたいことなんだよね。
私も、このTEDを通してやっとそのことに気付けた。やっと、その人生を歩いていくことができる。このプレゼンを聴いた人にも、このメッセージが届いて欲しいな。
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溢れたのは”感謝”の気持ち
ー7/3の登壇当日、きっと緊張されましたよね…?どんな心境でしたか?
それが、全然緊張しなかったんだよね。当日の朝は、お父さんやお母さん、協力してくれた人みんなのお陰でこの舞台に立てることへの感謝が込み上げてきていて。
直前まで、みんなが送ってくれた応援コメントを見返したり、LINEの返信をしてたくらい落ち着いていてたな。全力で愛してくれる両親への感謝、私の夢をサポートしてくれてるみんなへの感謝、14年もかかったけど、遠回りも失敗も全部、必要な経験だったと思えたことにも感謝して、あの舞台に立ってた。
ー伝えたい想いが明確だったからこそ、”あとは届けるだけ”そう覚悟が決まっていたんですね。当日、プレゼンを聴いた多くの人から、感動の涙が溢れていました。あんなにも美玖さんの想いが真っ直ぐ届いたのは、なぜだと思いますか?
なんだろう…。でも、自分の言葉で喋った感覚がすごくあった。それこそ、登壇が決まった当初は『良いことを言おう』って意識しちゃってたんだけど、ある人に”どこかで聞いたような言葉に思える”って言われて。その時話した言葉はきっと、誰かに言われて素敵!って思った”借り物の言葉”だったんだろうね。
”自分にしか伝えられないことって何だろう。もし明日死ぬとしたら、一言何と言い遺すだろう?”そこにとことんこだわって、本番1週間前に原稿を読むことを辞めたんだよね。自分の伝えたい1メッセージを考え抜いて、届けたい自分の言葉にこだわったことで、想いがそのまま届いたのかもしれないなぁ。
あと、このプレゼンのイラストも!これを描いてくれた真由美ちゃんは、本当に最後まで『美玖さんが伝えたい想いをとことん描きたい』そう言ってくれて。実は、プレゼンの最後の方は絵からインスピレーションを受けて言葉にしたの!本当に、沢山の人との愛あるつながりの中で見つけた想いだからこそ、言葉に絵に、全てで伝えられたと思う。
ー当日プレゼンを聴いた時、美玖さんはみんなに話しているはずなのに、まるで”1対1”で話しているように感じました。それは、心から”目の前の人に届けたい”という強い想いからくるものだったのかもしれませんね。
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登壇を終えて、今想うこと。
ー発表の後、何か変化はありましたか?
それが、本当にビックリするくらい反響が大きくて!頂いたメッセージを読んで、自分1人の悩みだと思っていたことが、実はそうじゃなかったんだって驚いたんだよね。人に心を開けられないとか、深いつながりを恐れているとか『この方も悩んでたんだ⁉︎』と思う方からも連絡を頂いて。私があのステージで自己開示をしたことで、同じものを抱えている人のモヤモヤが言語化できたり、”代弁してくれた!”と思ってもらえたのかもしれないな。
もう一つ印象的だったことは、みんなからのメッセージが長文だったこと。そして、全部”自分事”として聴いてくれていたこと。プレゼンから感じた気付きから『だから、~します!』って次のアクションまで書かれていて。なかには、十数年ぶりに親御さんに連絡を送られた方もみえて!感じるだけじゃなくて、行動まで変わった。それがすごく嬉しかったな。
ー間違いなく、美玖さんの想いが、相手の”人生を変化させる”きっかけになりましたね。この大きな挑戦やご自身の人生を振り返って、美玖さんご自身にはどんな変化がありましたか?
それこそ、お父さんが亡くなる前、純粋にお腹を抱えて笑ってた”10歳の頃の自分”に戻った感覚かなぁ。これまで頑張らなきゃって走ってきたけど、発表を終えて、noteを書き終えてからは、肩の力が抜けてすごく楽になったんだよね。生きやすいというか、本当の自分で生きる許可が出たように感じてる。
自分の人生と本気で向き合う時間があったからこそ、今進めているプロジェクトや仕事に対しての向き合い方も変わったり。目標を達成することだけじゃなくて、関わってくれてるメンバーや「今」目の前にいる人が幸せになることだけに目が行くようになったことが大きな変化だったと感じてる。
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ーこのプレゼンに励まされた一人として、”頑張っているけど、どうしたら良いか分からない”という人にこそ聴いて欲しいなと思いました。きっと、聴いた後になにか自分の心から想いが溢れてくるはずだから…。
嬉しい!生きづらさを感じた時、自分らしくいられない時、何かに躓いた時に見返して欲しいなって思ってる。私も、もしかしたらこの先、またhave toで溢れてしまう時が来るかもしれない。そうなった時、自分にとっても、このプレゼンの届けたいメッセージが自分に返る場所になるはずだと思っていて。そんなふうに、”実家みたいな場所”として、みんなの心の支えになれたら嬉しいな。
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ーインタビューを終えて
『人間、最後にどうやって死ぬかって考えた時、いくら稼いだか、何を成し遂げたかとかじゃなくて、”どれだけ人に愛を持って関われたか”なんだろうなって思うんだよね。』美玖さんのインタビューするなかで、印象的だった言葉です。
お父様の伝えたかったことは何なのか。美玖さんが長年知りたかった「愛ある自立」と「愛あるつながり」に辿りつくまでの14年間の道のりには、今回語られた内容以上に、様々なことがあったと思います。ただひたすらに人生と向き合い、言語化する。想像できないくらいの葛藤を乗り越え、その答えと、自分の心からの願いを見つけた美玖さんのストーリーに勇気をもらえた人は多いのではないでしょうか。私自身、これから先、立ち止まること、悩むこともあると思います。そんな時こそ、美玖さんのこのプレゼンを聴きたい。きっと、また一歩進む勇気になるから。そう思っています。
みくさんのTED×NagoyaU You Tubeはこちら
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