幸せは苦難の始まり
24歳の時、最初の結婚をした。
相手は私の1歳下で(とは言え生まれ年は同じ)背が高くて目力が強く、一見キツそうに見えるが実は案外抜けてる所もあって、物静かな性格だった。
本人曰く育った環境はあまりよくなく、父親から暴力を振るわれており、中学を卒業すると同時に家を出たと言っていた。
結婚しようとなった時、互いの親への挨拶や、両家の顔合わせを行うのが一般的だが、彼は家を出てから一度も両親と連絡を取っておらず、これからも取る気はないし、もう死んだものとしているとのこと。
私の両親は彼の話しに不信感を覚えたようだが、私自身が全く気にしておらず、「今までの事よりも大切なのはこれから」という考えだった為、一抹の不安を抱えながらも表立って反対する事はなく見守る事にしたのだと後から聞いた。(しかし父は散々母に愚痴っていたらしい)
いざ始まった結婚生活。
そもそも何故結婚しようという話しが出たかというと、夫が新店舗の立ち上げメンバーに抜擢され、異動の辞令が出た事で遠距離になってしまう事が理由だった。
その為結婚するならば私は仕事を辞めなければならなかったが、別に仕事など引っ越し先で新しく見つければいいと思っていた。
だけど夫に「自分の仕事が落ち着くまで家に居て欲しい」と言われ、暫くの間は専業主婦でいる事を希望される。
結婚して1ヶ月程経った頃、妊娠が発覚する。
1週間~10日程度の遅れは当たり前にあったが、さすがに2週間以上遅れる事はなかった為、心当たりもあったし調べてみると陽性だった。
その後病院へ行き、胎嚢確認、心拍確認を経て、母子手帳を貰いに行くよう医師に言われる。
初めて貰った母子手帳に心が弾んだ。
私が母親になるなんて。父親は当然夫である。
夫は背も高いしかっこいい。二人の子供なのだから自分に似る可能性だってあるのに、自分の遺伝子なんて微塵も受け継がず、間違いなく子供は夫似で男の子だったら絶対かっこよくなるし、女の子だったら絶対美人になると、まだ見ぬ子供への期待値が爆上がりして一人喜んでいた。
その日、夫は早番だった為夕方には帰ってくる。
はやる気持ちを抑え、夫の帰宅を待った。
夕飯を終えて落ち着いた頃、母子手帳を出して夫に妊娠を伝える。
この時、私は当然夫も同じ気持ちで喜んでくれるだろうと思っていた。
実際、妊娠を告げた時夫は喜び、男の子なのか女の子なのか、名前はどうしようか…
その日は子供の話しで盛り上がり、これから家族が増える喜びに幸せな気持ちで眠りについた。
…私だけが。