自然と壁際に置きたくなる形|ささやかなデザイン
「ささやかなデザイン」とは、非デザイナーがデザインの感度を高められるよう、身近なものを見る目を養うコーナーです。意識をしていないと気づかないけれど、実は快適な生活に貢献しているデザインを見つけて解説します!
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「毎日、必ず本屋に足を運んでいます!」というのはさすがに嘘になってしまうけれど、それぐらいの気概は持っているくらいの本好きです。
予定の合間を縫って本屋をぶらつこうと、ビルのフロアを足早に通り抜けていました。
赤い色が目に入って、ふと目を向けるとそこには見慣れた消火器。存在は認識していたけれどきちんと見たことはなかったな。よく見ると興味深い形をしているなと少し立ち止まって観察してしまいました。
僕が目をつけたのは、消火器自体ではなく、消火器を置く場所を定めている土台(?)の部分。ペットボトルのような形のボンベだけで消火器の機能は果たせますが、それだけだとどこに置いておけばいいかわからない。さらには、通りすがりの人のカバンが少し触れただけで倒れてしまうかもしれない。そういったリスクを回避するためにこの土台があります。
よく見ると、形がヘンです。消火器を支える役割を果たすだけなら、ただ中心がくぼんでいればよさそうなのに…なぜ三角形?
その答えは、すでにみなさんも感じ取っているはず。もしこの消火器のセットを自分が設置するとしたらどのあたりに置くでしょうか。きっと三角形の短辺を壁につけたくなるはずです。
つまり消火器の土台に「壁にぴったりつけたくなるアフォーダンス」があるということになります。アフォーダンスというのは、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンによる造語で、製品や環境に備わる物理的な特徴のこと。
たとえばドラえもんのどこでもドアは丸い取っ手が付いています。この取っ手を見たら、なにも意識せずとも掴んで引く動作をすべきことがわかるでしょう。
ざっくり言うと、このようにウンウン考えずに使い方がわかるような物理的な特徴のことをアフォーダンスと呼びます。
先述の消火器に再び目を向けると、単に倒れないように支える機能に加えて、設置する人が自然と壁際に置くよう促す形になっているので通行を邪魔することを防げます。
こんな風にして「このモノにはこんなアフォーダンスがある!」なんて観察すると楽しいですよ。