栃木県塩谷町で、地域おこし協力隊の募集・受け入れ体制構築に向けたリビングラボを実施しました
私たちは2017年から地域おこし協力隊の採用支援と、着任後の研修や伴走支援に関わっています。
令和4年度は、総務省の「地域おこし協力隊募集・受入支援モデル事業」にて、栃木県塩谷町にて専門家として支援を行ってます。
地域おこし協力隊は全国6,015人(令和3年度時点)が活動しています。総務省は令和6年度までに現役隊員を8,000人とするという目標を掲げ、それに向けて隊員募集数や応募数の増加、ミスマッチの解消などに力を入れていく方針です。
今回のモデル事業では、塩谷町をフィールドに栃木県と総務省と連携しながら募集・受入のノウハウを全国に広く共有することを目的としています。
9月初旬。塩谷町で暮らす地域の方々にご協力いただきワークショップを実施しました。
持続可能な取り組みを推進するうえでの鍵は、行政・地域住民・地域おこし協力隊の3者の連携です。協力隊員の募集を行う前の段階から地域で暮らす方々の声を聞き、理解と共感を得ながら募集要項を作成していきます。
今回は塩谷町内の3つのエリア、大宮地区・船生地区・玉生地区の皆さんをお招きして、地域のビジョンや現状について話し合い、地域のことを教えてもらい、その内容を募集内容に反映していきます。
農業に従事されている方、福祉の活動をされている方、塩谷町の協力隊のOBの方、地域でコミュニティスペースを運営されている方、NPOを経営されている方、地域サロンを立ち上げ運営されている方などなど。様々な分野に取り組まれている地域のみなさまにご協力いただきました。
塩谷町に暮らすみなさんと、まちの現状について対話する
まちについて対話をするために行ったのが「ローカルダイアログ」です。自分たちが住みたいまち、暮らしたいまちの姿を考え、カードを使って対話しながらまちづくり戦略をつくっていくワークショップです。
まずは、住みたいまちのビジョンを話し合います。ローカルダイアログの「ビジョンカード」から、自分はどんなまちに暮らしたいか、それに最も近い表現のカードを選びます。
カードの内容は、「まちや地域に誇りや愛着が持てる地域」「子どもから高齢者までが幸せで豊かな生活が送れる地域」……など、さまざまな内容が用意されています。
3つのエリア別々に開催したのですが、全てのエリアで1番多く選ばれたのが「新しいことにチャレンジできたりそれを応援できたりする地域」でした。
同じカードを選んだひとたちも、その理由は様々です。別のカードを選んだ人の考えにも、みなさん共感されている様子でした。こうしてご参加のみなさん自身の考えを共有し合い、いろいろな考えがあってよくて、正解や不正解は無いんだということを実感する時間となりました。
さらに、まちの現状について深掘りをする問いが書かれている「ダイアログカード」を使って対話を進めていきます。
塩谷町では、どんな挑戦が起こっている?
「住んでいる地域をより良くしたり盛り上げたりする活動に参加している人が多いと思う」
というダイアログカードの問いに対して、まずは自分の意見を考えてYESだと思うか、NOだと思うかを共有します。この問に対しては、塩谷町では全エリアでYESと選んだ人の方が多くいらっしゃいました。
次に、それを選んだ理由を共有していきます。今回はこのようなダイアログカードを15枚使って、対話を進めていきます。
YESと答えた人の理由は「まちのボランティア団体に60人登録している」「マルシェや芋掘り、100kmウォークなど、いろいろなイベントがあって参加している人もいる」などが挙がりました。
一方で「子育て世代は子ども優先になるから、やりたくてもやれない」という声も。年代や身を置くコミュニティによって、同じまちに住んでいても違う側面が見えてきます。
また、「地域外の人たちと連携した地域活動が行われていると思う」という問いに対しては、NOだと回答する人が多数でした。
地域内で活動する人たちは目に入るけれども、外との連携については知らないという声が。でも実は、こんな動きがあるんだよ。という情報を知っていて共有してくれる人もいて、それぞれの視点を尊重しながら、町に対しての考えを対話し、深掘りをしていきます。
「住んでいる地域に関心がある人が多いと思う」については「まちに関わることに参加しているのは一部の人たちだ」「活動をしていても、多くの人を巻き込むものにはなかなか発展していない」という見方も。
今回のワークショップには「挑戦したい」という想いを持っている方がたくさんいらっしゃいました。しかし、その想いを思う存分に発揮するには様々な課題があるとのことで、様々なファクトが可視化されました。
働き、学ぶ環境としての塩谷町とは
また「仕事にやりがいや生きがいを感じている人が多いと思う」という問に対して、YESと答える方が多くいらっしゃいました。
塩谷町には様々な分野でのプロフェッショナルがいること、周りに好きなことをやっている人が多い、との声が。さらに別の地域では会社に属して働いており、就農をキッカケに塩谷町に移住してきた方は「農業へは腹をくくって入った。以前よりやりがいを感じている」とのコメントも。
活き活きと仕事をしている人が多いまちだということが伺い知れました。
「子どもが将来の夢や希望の実現に向けて学べる環境があると思う」という問に対しては、意見が分かれるところでした。
塩谷町には駅や高校がありません。エリアも非常に広い、ということで何をするにも送り迎えがネックになると言います。「経験までのアクセスが悪い」「平日は1日に80~120分、送り迎えに時間を使っている」という声も。
また、農業のプロフェッショナルが多い、自然から学べることがある、インターネットで情報を得ることもできる、という視点もありました。
地域にあるものを学びにつなげることにも可能性があるのではないか、など参加者同士のアイディアがつながる瞬間もありました。
その他、ローカルダイアログでは「まちのウェルビーング」「行政との共創のしやすさ」「地域とのつながりやすさ」「くらしやすさ」「地域資源の豊かさ」の5つの分野に関わる問のカードがあり、いろいろな角度からまちについて対話を進めていきました。
この記事でご紹介した内容は、ごくごく一部です。
地域の皆さんからは「塩谷町は良いところなんだけれどね~と思って、ずっときていたけれど、具体的にどういうまちなのかを考える機会になってよかった」「自分ができることがもっとあると感じた」など、前向きなコメントをいただきました。
塩谷町の皆さんにご協力いただいて、町の現状について知りながら新たに着任する地域おこし協力隊の役割について、明確にすることができた時間となりました。
塩谷町には挑戦したいと思っている人たちや、実際に活動している人たちが多くいらっしゃいます。しかし、その活動が知られていなかったり、つながっていないことも課題の一つだということが分かりました。
こうした地域で暮らす人たちの想いや、地域の現状を可視化していき、外からつなげていく存在こそ今の塩谷町に必要なのかもしれません。
引き続き、塩谷町の地域おこし協力隊の募集・着任に向けてサポートを行っていきます。またこうしてレポートを発信していきたいと思いますので、またご覧いただけますと嬉しいです。