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「PERFECT DAYS」 ②

前回は舞台挨拶の感想を書いたので、今回は映画本編の感想を(ネタバレ無し)。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。
淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。
昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。
そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。
そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。

映画.com


トイレ掃除とかいうとなんか説教臭い映画かなあ?と思いがちだけど、全然そんなことない。
役所広司演じる「平山さん」というおじさんの毎日・・・朝起きて布団上げて歯磨きして出勤→渋谷の個性的な建物の公衆トイレ清掃の仕事→帰宅後銭湯に行って、飲み屋で一杯ひっかけて夜眠りにつくまで、の時間が繰り返し繰り返し続く。
ただそれだけの映画。

主人公が国家を揺るがすような大事件に巻き込まれるとか人妻との危険な情事の末の破滅がやってくることはない。
ごくごく平凡な日々。
ときどきイレギュラーな出来事が起こって平山さんのルーティンを乱すけど、基本的には平凡な毎日がスクリーンで映し出される。

なのに観ている人の心の奥深いところが振動する、不思議!。
ときにクスクス笑い声が漏れたり
琴線に触れて涙が頬を伝うこともある。
全然退屈しないし、なんならあと4時間ぐらい平山さんの日常を観ていたくなる。


特筆すべきことはこの作品は
・商業映画として制作されていない
・ほとんどがテスト無し一発本番で撮影
だということ。

だから普段観ている映画とはテイストが随分異なるので、最初は戸惑う。
BGMが無いのよ〜。
たまに音楽がかかるけど、それは主人公がカセットテープで聴いている音楽が流れているだけ。
そしてフィクションなのにドキュメンタリーのように見えてきて、気づいたら主人公の平山さんが実在すると思い込んでしまう。
この鑑賞体験は稀有だと思うんです!!
「役所広司という役者が演じてる物語」ではなく「実在する平山さんの話」に感覚がスライドしていく…。

その主人公の平山さんはこれまた映えない生活をしているんだなあ。
築年数何十年のオンボロ安アパートに住み、年季の入った車で出勤、スマホとかパソコンとかネット環境無し、服も超地味。
正直なところ、決して裕福な暮らしをしているようには見えない。

だけどその日常はなんだか幸せそう。
平山さんは全然喋らない、寡黙な男だからどんな気持ちで生きているかわからないけど
その表情や仕草からは毎日の生活に満ち足りていることが伝わってくる。


一見、悟りを拓いた修行僧のようにみえる平山さん。
丁寧な暮らしをしてる人かミニマリストか、と思えば実はそうでもない。
成熟した精神性を兼ね備えている男性だと思ってみてたら、意外と幼稚な側面もあったり(男子中学生か!とツッコミたくなる場面が出てくる)。
なんだか凄く人間らしくて、時間が過ぎれば過ぎるほど平山さんをどんどん好きになっていく。

脇を固めるキャストもとっても良い。
柄本時生演じる若者はダメ男だけど憎めないし
ホームレスの田中泯はリアル妖精さん!
姪っ子役の女の子は瑞々しいし
ネタバレになるからあまり書けないけど、三浦友和最高やん!!!とジタバタしたくなる芝居をしてくれている、はぁ~。


幸せって何だろう?
私は自分の満足をどれだけ知っているんだろう?
そんな問いを平山さんの日常を通じて感じたんです。


そしてこの映画の最大の魅力は、観終わったあと平山さんのことばかり考えること!。
いろんなことを考察したり妄想したり。

「一体、平山さんにはどんな過去があったんだろう?」
「どうしてトイレ清掃員の仕事に就いたんだろう?。」
「コロナ禍のとき平山さんどうしてたのかなあ?」
「こんな寒い日のトイレ掃除はツライだろうなあ、どうしてるんだろう?」

もはや病気(笑)
そして映画館を出たその足で、街中の木漏れ日を探すようになるんよすきっと。



役所   初めて柳井さんにお会いしたとき、「この映画を観た人が、平山さんに会いたくて東京の渋谷のトイレに来てくれるような雰囲気の映画になるといいですね」とおっしゃって、なるほどと思いました。

糸井 うん、それはできたんじゃないですかね。

役所 ああ、よかった。ちょっとホッとしました。

ほぼ日刊イトイ新聞


ええ、役所さん!
この映画を見終わると無性に平山さんに会いに渋谷へ行きたくなります。

でもね…行ったところで彼のルーティンを乱したくないから、きっと遠くから掃除道具抱えて公衆トイレに入っていく後ろ姿とか代々木八幡の境内で休憩している横顔を眺めるだけだとおもう。
もしどこかで平山さんに話し掛ける機会があったとしても(例えば浅草の飲み屋とか石川さゆりの店の常連になれたりして)
寡黙な平山さんは多分何も答えてくれなくてただ優しく微笑んでいるだけ。
そんな気がする・・・

あとね、あまりネットニュースとか評論で取り上げられていないけど、役所さんのトイレ掃除技術が自然過ぎて怖い(汗)。
よーーーく考えてみてね、やってるのは役所広司なんだから。
撮影前のトイレ掃除の研修は僅か2日間だったそうで、それであの熟練した技術とか流れるような手順とか便座便器との距離とか気配を消す立ち居振る舞いとか…
アンビリーバボー(゚д゚)!

役所さん隠してるけど実は役作りのために3ヶ月ぐらい公衆トイレの掃除やってたはず。
そしてあの安アパートでもそれぐらい生活してたはず。
じゃないと、この映画はおかしいよ!!と思ってしまうぐらい自然なのね…。
あ、安アパート暮らしは映画「すばらしき世界」でもう経験済みでしたね。
あの映画も撮影前にあのボロアパートで役所さん実際に何ヶ月か暮らしていたはず(妄想)。
いやもうそう思わないと納得出来ないんですよ本当に!!


あああ!!ネタバレ無し縛りで感想を語るのはフラストレーション!(笑)
この映画は細部に神が宿っているのでそのあたりまで喋りたくなる…
なので次回がっつりネタバレ有りで感想を書かせてもらいます!



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