「静脈血みたいな色のリップください。」
眼科の待合室で、コンタクトレンズの処方箋をもらうための診察を待っている長い長い待ち時間のあいだ
「あーーつよい色のリップほしいなーーーー」
と、思い付いてしまった。
コンタクトレンズ屋で、過去に退会手続きを忘れ半年程余分に支払いをしてしまったトラウマのある「メルスプラン」という月額プランを再度勧められるも、話を聞いているうちにプランに入らず購入した場合の金額と脳内で比較し、「あっでもふつうに買うよりはそこまで損してなかったんやん」などとのたまう今日の能天気な思考にも助けられ、私はその足で百貨店のコスメコーナーにつよい色の口紅を買いに行った。
でもリップ買うにもある程度色のイメージがないとなあ、どんなのがほしいんだろうか、と歩きながらふと思った。
思いを巡らせているうちに、「深い赤」、「ちょっとつややか」というワードが思い浮かび、深いってどれくらい?つややかさってどんな?などとイメージを具体的にし、それらを総合させた言葉に置き換えると
「静脈血みたいな色のリップほしい、、」
……………となった。
待て。
どこの世界にそんな物騒な物言いでリップ買いにくる女子がおるんや。
気を取り直して。
色んなブランドのコスメが所狭しと並べられたコスメコーナーにたどり着いた私は、とりあえず大好きなディオールから眺めてみた。(大好きとかいいつつディオール一個しかもってないけど。)
リップにも色んな種類がある。マット、セミマット、つややかなやつ(名前忘れた)。
色とりどりの赤、ピンク、朱、紅、深紅、、、様々なブランドも合わせ、その数優に100を越すんじゃなかろうか。
どれ?????????
もうわからん。デパコスなんて全然もってないもん。ふえーん。
自分で見つけるのはあきらめて店員さんに聞いてみた。「あの、深い赤の口紅を探してるんですけど……(さすがに静脈血とはいえない)」
「深い赤ですか?」
と言った瞬間店員さんはテキパキとリップを手にとっては店員さん自身の手に塗り、「これどうですか?」「もっと深いですか?」などとクールに聞いてくれ、私がもっとこういうので……ともにょもにょイメージを伝える度に縦横無尽に各ブランドのコーナーを歩き回り試し塗りをし見せてくれ、店員さんの手にリップの試し塗りアートが出来始めた頃、
「つやっぽいのがよければグロスでもいいですか?」
と提案してくれた。
そうかわたし口紅であることに微塵もこだわりはない!!
イメージどおりの色が唇に塗れればなんでもいい!!
すいません私が口紅とか言ったから……などと自責の念に駆られているうちにクールな店員さんはテキパキとイメージ通りの色を見つけてくれ、テキパキと唇に塗るための試し塗りの準備をしてくれた。(とてもすばやかった)
鏡の前で試しに塗ってみると驚いた。
「顔がちげえ!!!!!!」
わたしの顔じゃないみたいだった。
グロスの色はもし悪女を演じるなら塗ってみたいレベルの深さの紅。かっこいい系女子の、クール通り越してコールドレベルの強さ。いや、すげーイメージ通りなんだけど。静脈血みたいだし。
でもこのほよほよした顔に?この深さのグロス?似合うの?果たして??
へんじゃない…………??
おろおろしているわたしに店員さんは「どうですか?」と聞いてくれた。
「いや、あの、色はすごいイメージ通りなんですけど、似合わないかもなって…………」
こう言うと「そしたらじゃあもっと違う感じでー」とテキパキと探しに行ってくれるのかなーと思ったのもつかの間、
「そんなことないです。とってもお似合いです。」
ズバッ
クールに、そしてやさしく断言してくれた。
押し売りでない、真摯な気持ちであることがとても伝わって、さらにおろおろしてしまったけどとてもうれしかった。
全然自分の顔じゃないみたいで本当にびっくりしたけど、なりたい自分はほんとはきっとこんな顔をしているのかもなあって思ったから。
そんなすっげーかっこいい顔にならないと似合わなそうな静脈血色の……いや、「クールビーツ」というカラーらしい、そのリップグロスがこちら。
塗ってみると
こんなかんじ。
つえー女だなーっていうかんじがする!!びびる!!でもこういう顔になっていきたいらしいしなってみたいらしい!
マスクだからってリップ省いてたけどちゃんと塗ろう。隠せるうちにちょっとずつ慣れていこう。徐々に徐々に変身していきます。