ワカさん
今日、働いているお店に「ワカさん」という男性が来ました。
初めてお会いしたので、なんてお呼びしたら良いですか?と聞いて、お名前を知りました。
ずっと「迷惑かけてごめんね」とか「ダメでごめんね」って言っていて、どうも相当酔っ払っていました。
だけど、とても柔らかそうな男性で、確かに酔っ払っていたので話が通じないところはありましたが、私は全く嫌でもなく迷惑にも思いませんでした。
でも、同じ職場の人達は迷惑に思ってかなり冷たかったし、他のお客さん達も冷たい目を向けていました。
私もワカさんに手を取られたので仕事に支障がありましたが、それでも私はワカさんを嫌に思う気持ちにはなれませんでした。その日初めて会った人だけど、暖かい人だと感じたんです。気の弱そうな、おじいさんでした。
ワカさんは私に話してくれました。
ほんの僅かな時間でしたが、ワカさんの事を知れて、私は嬉しかったです。
それでももう、他のお客さんやうちのスタッフ達の苛立ちや冷たい目が強くなって、ワカさんが「ごめんね、迷惑かけてごめんね」が止まらなくなったので、私は、心苦しかったのですが、帰ってもらうことにしました。
お会計を済ませてお見送りしたとき、
あなたは、かわいい。
あなたは素敵な女性だ。
ごめんね、迷惑かけて
と言われて、泣きそうになりました。
泣いたら、その後の仕事に支障が出るので我慢しました
ワカさん、気をつけて帰ってよ
怪我しないで、ほんとにお願いね
って言うので精一杯でした
ほんとはタクシーに乗せるまで付き合いたかったけど、現場を離れるわけにはいかないし、本人も帰りたがってなかったのもあって、とにかく心配で仕方なかったけど、そのままサヨナラをしました。
その後、仕事中も気を抜くとワカさんの事を考えてしまって、「ほんとにあのまま帰して良かったのだろうか」「ちゃんと無事に帰れるまで見送るべきだったな」「厄介者払いしたみたいになってしまって本当に申し訳ない」そんな罪悪感でいっぱいになって、心の整理がつかず、仕事中にも関わらず、はらりと涙が零れてしまいました。
慌ててトイレに行って、しっかり泣いて心を落ち着かせてから戻りましたが、結局仕事を終えた帰り道で堪らず泣いてしまいました。
自分を責める気持ちが止まりません。
それと、あの時感じた、みんなの冷たい目と冷たい空気を忘れられません。
私が、"ワカさんが心配だな"と言った時に「あんだけ酔っ払う方が悪い」と言ったみんなの言葉が頭から離れません。
たぶん、あの冷たい空気がショックだったんだと思います。
どれだけ酔っていても、ワカさんは優しいひとでした。
確かにひどく泥酔していて、話が通じないこともありましたが、ごめんね、と謝って、ありがとう、と言って、このお店すきだよ、ここのマスターすきだよ、あなたは素敵な女性だ、と人を褒めていたんです。
こんな僕でごめんね、と言われた時私の胸は張り裂けそうでした。そう思わせてしまってごめんね、と何度も思いました。
どうかワカさんが悪い人に捕まっていませんように
怪我もなく、嫌な気持ちもなく、ただただ幸せにこの夜を過ごしていますように
この先も、幸せに満ちた毎日でありますように
神様、おねがいします
私の幸せ全てを投じてもいい
ワカさんが幸せでありますように
でないと私の心は
もう潰れてしまいそうなくらい痛いです
ᴛʜᴀɴᴋ ʏᴏᴜ
月波イロ