「バウムクーヘンエンド」2021/09/15
・嘆息ニュース
こーゆーのがあるから、アヤシイ民間療法にハマって事態を悪化させる人が絶えないんだと思うと腹が立つやね。
一応病気持ちの身としては、手を尽くしても結果が出ないときに現れた何かに縋りたくなる気持ちも、それがイマイチだったとき「いやもう少し続ければ効果が出るかも」と突き進みつつもガリガリ気持ちが消耗していく感じも少しながら察することができるので、すごく嫌なニュースだと思った。
イマドキTVなんかの言うこと真に受ける奴が悪いという話は、ある種の真理なんだけど、それは全く別の問題だ。
・バウムクーヘンエンド
という言葉を初めて知った。
創作物の中で主人公とヒロインのような、最後にはくっつくだろうと予想されているカップリングが成立せず、どちらかが別の相手と恋愛関係になって物語が終わることを意味する言葉らしい。
そうなった場合、「好きだった相手の結婚式に出席したあと家で引出物のバウムクーヘンを泣きながら食ってそう」というのが語源らしい。
しかも本当にこういうシチュエーションがある作品が元ネタというわけではなく「有力カップルだった奴が振られた相手の結婚式に出たら帰宅後に泣きながらバウムクーヘン食うことになるよな」という情景が多くの人の心の中から出てきた「無いあるある」的なのも面白い。
確かにバウムクーヘンエンドにあたりそうな作品はあるなーと思うのに、いざ並べようと思うと思いつかないな。「H2」はそれっぽいけどちょっと違うし……。「ニセコイ」も違う。
無いなら自分で例を作ればよくない? と思い立ち文を書いてたんだが、思ったより時間がかかって明日に支障を来たしそうなのでやめ。
彼女から「大切な話があるから週末に会えない?」とLINEが来てからずっと俺は挙動不審だ。
今日だって、待ち合わせの2時間前にこの喫茶店に着いてしまって、アイスコーヒーを何倍もおかわりしている。彼女に言われてやめたはずの貧乏ゆすり癖も復活だ。テーブルの上のアイスコーヒーはその振動で微かに水面を揺らしている。
小学生の頃と殆ど変わらないノリでずっと付き合ってきたけど、俺たちももう二十代後半。しかもあいつのばあちゃんは1年ほど前に転んで骨折して以来すっかり気弱になってしまい「孫は見れないかもしれない」なんて言ってるらしい。
だからB子は焦っているのかもしれない。
--でもやっぱり、こういうのって男の方から切り出した方がいいよな。結婚後ずっと「プロポーズは私からだったんだから!」って言われちまう。
とはいえ何て言えばいいのか。だってあいつのことなんて、鼻水垂らしてた子供の頃から知ってるんだぜ。あんまりクサい台詞なら、噴き出しちまうかもしれない。でも女ってプロポーズの台詞が大事って聞いたことがあるような……あ、指輪!! すっかり忘れてた! 向かいの壁の時計に目をやると、彼女との約束の時間まであと5分。つーかさ、そもそもあいつの薬指のサイズも知らないや。格好つかねえなあ、俺。
でもこれも10年後には笑い話になってるかもな、と思ったとき、背中側から声がした。「A太」
B子の声に驚いて、振り向こうとしたのに座っていた椅子ごと俺は転げた。
イテテ……と立ち上がろうとしたとき、俺の前に大きな手が差し出された。そして上から低く優しい声が降ってきた。
「大丈夫ですか? お怪我はしてませんか」
「だーいじょぶ、コイツがこの程度でケガなんかしないわよ!」想定外の手と声についフリーズした俺のかわりにB子が返した。B子は俺の背中を「ほら、早く立つ!」とバシッと叩き、それでやっとフリーズが解けた俺は立ち上がり、B子の連れてきた謎の男を正面から見つめる。大きな手と優しい声の持ち主を。
B子は彼の右腕を掴み、「まあまあ〜話は座ってからってことで」と男を俺の斜向かいに座らせ、自分は彼の隣、俺の真ん前に座った。
ね、こんな文章で支障来たしたらやべーでしょ。