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不動産鑑定士修了考査 出題傾向分析及び対策(多肢択一・計算問題編 2024年版)

全国200名弱の不動産鑑定士実務修習生のみなさまこんにちは。irisです。いつもは不動産鑑定士試験の演習問題ソムリエをやっていますが、今回は表題の通り真面目な記事です。
近年急速に難化が進む不動産鑑定士の修了考査。その出題傾向と具体的な対策について書いていきます。今回は記述の考査のうち、多肢択一及び計算問題編です。
なお先に結論から言ってしまうと、現行の修了考査ではこの多肢択一および計算問題こそが合否を分ける最重要問題であり、しっかりとした対策が必須です。不合格(または再考査)となってしまうパターンの過半は、この多肢択一および計算問題の対策不足と言って差し支えないと思います。

※ 修了考査の過去問等はこちらから


多肢択一問題の出題傾向

記述の考査のうち、多肢択一問題は基本的に合計13問出題されます。実務修習開始時に配布されるテキスト及びe-ラーニングで学んだ分野が出題範囲であり、分野別の出題数は下表の通りです。

(過去問をもとに筆者作成。「0.5」とは、1問のうち半分がその分野からの出題であったことを示す。なお、第13回修了考査における択一問題は合計12問であった。)

表の内、青色網掛け部分の10分野は、毎年必ず出題される分野と考えてよいかと思います。直近2回の考査では、行政法規・建築計画で3問出題される形となっているので、どれか1分野出題されない可能性もありますが、それでもできる限りの対策が必要と思料します。
網掛けしていない下5つは出題頻度が低い分野ですが、例えば更地の問題の中に開発法の知識を問う肢が、区分所有建物およびその敷地の問題の中に原価法や登記の知識を問う肢がちょっとずつ含まれる場合も当然ありえるので、全部捨てていいとは言えないと考えます

続いて出題形式別の出題数を下表にまとめています。

(過去問をもとに筆者作成)

第13回は全てが個数選択問題という狂気じみた出題形式であったものの、直近3回は単純選択5:個数選択8という比率に落ち着いてきています。ご承知の通り個数選択問題は消去法が効きにくいため、正確な知識のインプットが求められます。

計算問題の出題傾向

記述の考査のうち、計算問題は基本的に2問出題されます。出題範囲は多肢択一問題と同じであり、分野別の出題数は下表の通りです。

(過去問をもとに筆者作成)

多肢択一問題と違い、出題分野は各年バラバラです。第17回では2問ともこれまで出題されてこなかった新たな分野(開発法と新規賃料)が出題されました。
とはいえ出題分野自体は多肢択一問題対策の勉強範囲と比べればそこまで広くはないです。ちなみに上記分野以外で出題されていない主な計算論点で思い当たるところでは、宅地見込地の控除法インウッド式などでしょうか。もしかしたら出るかもしれませんね。

得点戦略と対策

得点戦略(総論)

まずは修了考査における「記述の考査」の配点を見ていきます。

  • 多肢択一問題 39点(3点×13問)

  • 計算問題 11点(5点×1問+6点×1問)

  • 論述問題 50点(A・Bともに25点ずつ)

「記述の考査」に出題される各問題は、多肢択一が一番難しく、次いで論述、計算が一番簡単という印象です。(これはどの年度でも概ねこのような傾向かと思います)したがって得点戦略としては、

  • 多肢択一問題は半分できればOK(13問中7問正解で21点)

  • 計算問題は全問正解したい(11点)

  • 論述問題は6割をしっかり取る(30点)

が理想的かなと思います(上記で合計62点)。

多肢択一問題の対策

上記の通り半分正解できればOKの多肢択一問題ですが、前段で分析の通り個数選択問題が多く、正確な知識のインプットが求められますので、意外と頑張って対策しないと足元をすくわれます。多肢択一問題対策のために使える教材はほぼ5点に集約され、重要度の高い順に並べると以下の通りだと思います。

  1. 実務修習テキスト

  2. 修了考査の過去問、e-ラーニングで出題された確認テストの問題

  3. e-ラーニングで配布されたレジュメ

  4. 不動産鑑定士短答式試験の過去問

詳細は分野別対策の項で書きますが、重要なのは「実務修習テキスト」の読み込みです。地道ですがこれが重要と考えます。
過去問や確認テストは問題に慣れるために有用な教材ですから、もちろん活用していただきたいです。ただし本番の問題は確認テストの問題より数段難しいですし、過去問は6年分しかありませんので、これらの問題を解いているだけで簡単に目標点をクリアできるかというと、正直苦しいと思います。
「e-ラーニングで配布されたレジュメ」は修了考査対策初期に、記憶をよみがえらせるために軽く活用する程度でいいと思います。レジュメはあくまでも概要が書かれているだけであり、本番の問題はもっと突っ込んだ箇所を問うてきます。
「不動産鑑定士短答式試験の過去問」はほぼ使わないかな。(修了考査の問題は短答式試験で問われる内容とはちょっと違うため)

それでは分野別の対策内容について以下に記していきます。

■ 行政法規・建築計画
唯一毎年複数問出題される分野です。過去の出題内容は全て実務修習テキストに書かれている内容ですので、極論を言えばテキスト完全暗記で全問正解が可能ですただし超マニアックな論点まで出題されます。例えばこちら。

自然公園法において、第2種特別地域で敷地面積が500㎡未満の場合は、建蔽率は10%、容積率は20%に制限される。

第16回修了考査 問題2 (4)

不動産鑑定士試験の短答でもボツ法令として名高い自然公園法のマニアックな論点からの出題です。しかし一応実務修習テキストには載っています

わが国で大半を占めるといわれる3種類のアスベストのうち、クロシドライト、アモサイトは平成7年、クリソタイルは平成8年に、労働安全衛生法に基づき製造・輸入等が禁止となっている。

第15回修了考査 問題2 (4)

まさかのアスベストの歴史に関する問題ですが、これも一応実務修習テキストには載っています

このように頭おかしい難しい肢も含まれているため、現実には全問正解はかなり難しいです。とはいえ直近2回の考査(第16回と17回)では3問も出題されている分野ですから、全部捨ててしまうというわけにはいかない。何とか最低でも1問は正解を拾いたいです。
なお、頭おかしい難しい肢に遭遇してしまった時はどうしようもないので、不必要に時間をかけず、一度目をつむって深呼吸し、「1問くらい落としてもいいや」と心の中でつぶやき、鉛筆を転がして解答を決めましょう。

参考までに、過去6回における法令別の出題肢数は下表の通りです。

(過去問をもとに筆者作成)

建築基準法と都市計画法で全体の約6割を占めますので、この2法令は少なくともちゃんとテキストに目を通しておかれるのがいいと思います。他は過去に複数の肢で出題されている法令も要チェックです。
冒頭でも述べた通り、出題内容は全て実務修習テキストに書いている内容ですので、時間が許すならひたすらテキストを読み込んで、内容を頭に詰め込んでいくべき分野です。

■ ガイドライン・倫理
他の分野に比べ素直な問題が出るため、何が何でも正解したい分野です
実務経験のない人は特に、なんとなく書いてあることのイメージが湧かなくて好きでない人も多いかと思いますが、正解を計算できる数少ない分野のため、ここは頑張ってテキストを読み込んでいきましょう。

■ 更地
実務修習テキストに明確には示されていない内容がちょくちょく出題される地味に厄介な分野です。特に条件設定がらみの問題は、テキストに載っている原理・原則論に照らして、考えて正誤を判定しなければなりません。例えばこちら。

都市計画事業の施行者が都市計画道路用地の取得を目的とする場合においては、当該都市計画事業の影響がないものとしてという条件を設定して鑑定評価を行うことができる。

第12回修了考査 問題4 (1)

造成工事が完了していない宅地について当該工事の完了を前提として鑑定評価を行う場合には、造成工事が未竣工の状態であることを鑑定評価書に明記したうえで、鑑定評価書の利用者の範囲、判断能力等に十分注意のうえ想定上の条件を設定する必要がある。

第17回修了考査 問題6 (4)

その他、不動産鑑定士試験の短答や論文では出題されてこなかった「開発型証券化」に関連する論点(開発法の適用の可能性や開発賃貸型DCF法など)にも気を付けておきましょう。収益還元法や開発法のページに該当箇所がありますのでテキストを読んでおいたほうが良いかと思います。以下は開発法の問題として出題されたものですが、例えばこんな感じ。

開発型証券化において、SPC 等が更地等を取得し、賃貸を想定しない一棟の建物を建築して売却することを想定したときの更地価格を求める場合にも、開発法を適用することがある。

第16回修了考査 問題12 ニ

■ 貸家及びその敷地
更地と同じく、正誤の判定に迷う条件設定がらみの問題や、評価において留意しておくべき実務的なポイントを問う問題が多く出題されます。例えばこんな感じ。

貸家及びその敷地について、吹付けアスベストの対策工事が実施中である場合で、工事完了後の不動産として対象不動産の確定、確認が可能な程度に工事が完了している場合は、当該工事が完了したものとして、条件を付して鑑定評価を行って差し支えない。

第16回修了考査 問題8 ロ

定期借家契約の場合、一定期間に渡る一定額の賃料支払いが担保されており、継続賃料の固定性及び賃料改定条項につき留意する必要はあるが、借地借家法第32条に規定する借賃増減請求要因には留意する必要はない。

第15回修了考査 問題8 ハ

個人的な印象として、貸家及びその敷地は他の分野より実務経験が有る人のほうが有利な問題が多い気がします。実務経験無しの人は過去問を参考に心して対策しておいたほうが良いかもしれません。

■ 区分所有建物およびその敷地
この分野における出題内容は概ね以下の3点に集約されていますので、この傾向が続くなら比較的正解を取りやすい(最低でも2分の1に絞りこみやすい)分野だと思います。テキストをよく読んで対策しておきましょう。

① 配分率関連

一棟の区分所有建物及びその敷地の積算価格に配分率を乗じて対象不動産の積算価格を求める場合において、専用使用権があることによる増分価値は配分率の中に含めてはならず、必ず別途に補正を行わなければならない。

第14回修了考査 問題10 ロ

② 管理規約記載事項(共用部の範囲、専用使用権等)の評価への織り込み方

専用使用権が付着しており、管理規約において専用使用料を支払うこととされている場合における区分所有建物及びその敷地の鑑定評価にあたっては、総費用の中に専用使用料の額を計上する必要はない。

第12回修了考査 問題7 ロ

③ 法令(区分所有法・不動産登記法など)の知識

建物区分所有にかかる敷地利用権のうち、登記され、専有部分と一体化したものを敷地権という。敷地権には所有権、地上権、賃借権、使用借権がある。

第16回修了考査 問題9 ハ

区分所有法によると、担保権を専有部分に設定すれば、その担保権の効力は当然にその共用部分に及ぶ。

第17回修了考査 問題8 ロ

■ 地代・家賃
新規賃料・継続賃料の別を問わず幅広い論点から出題されます。その中でも特に気を付けておくべき点は主に以下の3つかなと思います。

① 直近合意時点の取り扱いに関する問題

賃料自動改定特約があり自動的に賃料改定がされている場合に、当該自動的に賃料が改定された時点が直近合意時点となる。

第12回修了考査 問題9 ハ

② 一時金の取り扱いに関する問題

建設協力金は、金融的性格の一時金であり、支払賃料に影響を及ぼすことはない。

第13回修了考査 問題11 ロ (第17回修了考査にも類題あり)

③ 民法や借地借家法の知識を問う問題

賃貸借契約時に一般的に授受する敷金について、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とした債務を履行せず、賃借人が敷金をその債務に充当することを請求したときは、賃貸人は敷金をその債務に充当しなければならない。

第16回修了考査 問題11 ハ

継続賃料の場合の価格時点は、借地借家法32条の請求権(形成権)を行使して相手方に到達した時点で、かつ賃料増額請求において明示されている基準時点をいう。

第16回修了考査 問題11 ニ

■ 収益還元法
主に総収益・総費用・各種利回りについて、査定上の実務的な問題が多めに出題される傾向があります。収益還元法は一般実地演習と基本演習で結構な数を取り扱うはずで、実務経験無しの人でも各種演習を通じて多少は実務上の勘所が身についている思いますので、この分野は何とか正解を取りたいところです。
注意するとすれば「複利計算」(元利逓増償還率とか、土地残余法における未収入期間修正率とか…)の知識はテキストを読んでしっかり頭に入れておきましょう。覚えてないとまず解けません。あとは更地のところでも書きましたが、開発賃貸型DCF法関連論点も要注意です。

■ 税金
行政法規と同じく、極論テキストを完全暗記すれば正解できる分野ですが、結構マニアックな論点も出題される厄介な分野です。
ただし行政法規とは違い、出題は例年1問です。大っぴらに推奨はしませんが、頻出10分野の中でどれか1つを捨てるとするならば、私はこれを選ぶと思います
なお行政法規と同じく、しっかり対策してもなお解答が困難な頭おかしいマニアックな肢に遭遇してしまった時は、行政法規と同じく、不必要に時間をかけず鉛筆様にすべてを託して解答を決めましょう。

■ 借地権・底地
地代・家賃と同じように、幅広い論点から出題されますが、以下のような一時金の取り扱いに関する問題、借地借家法の知識を問う問題に要注意です(マニアックな論点や覚えてないと答えようがない問題が出てくる可能性大のため)。

前払地代方式での定期借地権においては、未経過前払地代の別途精算を前提とした価格となるため、未経過前払地代は定期借地権価格に影響を及ぼさない。

第14回修了考査 問題8 ホ

借地借家法における法定更新後の存続期間は、堅固建物は30年、非堅固建物は20年である。

第16回修了考査 問題7 (1)

■ 原価法
出題内容としては主に減価修正(特に耐用年数関連)と付帯費用がらみの問題が多いです。
原価法も収益還元法と同じく、一般実地演習と基本演習で結構な数を取り扱って力がついているはずですので、この分野が出た場合は何とか正解を取りたいところです。

■ 統計
過去5回の修了考査では一度も独立した1問として出題されたことはありませんので、対策の優先度は最も低いと考えます。
ただし過去の出題内容は非常に素直で優しめの問題が多いので、出たら結構ラッキーなのではと思います。取りこぼさないよう他分野の対策の合間にテキストを読んでおきましょう。

■ 登記
行政法規や税金と同じく、マニアックな論点が出てきやすい分野です。区分所有建物およびその敷地がらみの論点は必ず覚えていくとして、残りは自分に足りない知識についてテキストを読んで補完していくイメージで対策しましょう。(例えば私の場合は地役権がらみの知識が怪しかったので、よく対策して臨んだ記憶があります)

■ 宅地見込地
出題頻度は最も低い分野ですが、一般実地演習で取り扱う修習生は少ないでしょうし、覚えていないと正解できないであろう論点もある(例えば甲種地域・乙種地域・丙種地域の定義とか)ので、一応テキストに目を通しておいたほうが良いかと思います。

■ 開発法
出題頻度が低く、出題傾向が読めない分野ですが、更地とセットものだと思ってテキストに目を通しておきましょう。

多肢択一問題対策まとめ

長くなりましたが、多肢択一問題の対策をまとめると以下の通りです。

  • テキストの読み込み大事。超大事。

  • 正解を取りに行きたい分野は「行政法規・建築計画」のうち1問、「ガイドライン・倫理」「区分所有建物およびその敷地」「収益還元法」の計4問。残り3問は何とか頑張ろう。

  • 出題頻度が低い5分野も、他の分野との関連性が高い論点についてはちゃんと対策すること。

計算問題の対策

得点戦略(総論)の項でも述べましたが、計算問題は何とか2問とも正解をしたいところです。もし2問とも不正解となると、記述の考査で60点を取るのはちょっと厳しくなると思います。万全の対策をしていきましょう。

計算問題は過去問およびe-ラーニング確認テストの問題に加え、実務修習テキストにもいくつか掲載されていますので、対策のための教材は揃っていると思います。なお修了考査の計算問題は、不動産鑑定士短答試験の計算問題よりも基本的にはややこしい問題が多いため、短答試験の過去問はあまり有効な対策になりえません。

対策方法としては論文試験の演習問題よろしく、繰り返し電卓をしばいて問題を解くことに尽きますが、私の経験上、以下の計算論点については特にちゃんと対策しておいたほうが良いと思いますので列挙しておきます。

  • 複利計算全般

  • 特定道路による容積率緩和の計算

  • 道路斜線制限の計算と適用距離

  • 買入限度額比による限定価格の計算

おわりに

気が付けば相当な分量となってしまいました…ここまで読んでいただきありがとうございます。
多肢択一および計算問題の対策は、短答試験のように過去問の蓄積が豊富にあるわけではありませんので、結構地道な作業になりがちです。また、修了考査直前期になると、どうしても論述や口述対策で頭がいっぱいになると思いますので、多肢択一および計算問題対策はなるべく前もって計画的にやっておくと、間違いないかなと思います。

この記事が修了考査合格の一助になれば幸いです。それではまた。

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