3.無痛分娩の麻酔を担当するのは?@無痛分娩
SNSで盛り上がっている無痛分娩ネタを、専門家の入駒慎吾が考察していくシリーズです。今回はTwetter上でのアンケート。結果にも興味が湧きましたので、少し考察(解説)させていただきます。
麻酔を担当する医師とは?
無痛分娩は麻酔を用いて出産の痛みを軽減する方法です。つまり、無痛分娩を選択した妊婦さんは、麻酔を受けることになります。みなさん、「麻酔科」という診療科があるのはご存知でしょうか?最近では、医療ドラマでも有名な俳優さんが演じていることも増えてきました。手術のシーンなどで、麻酔科医を認識される方も多いのではないでしょうか?そうです。麻酔科医はその名と通り、手術の麻酔を専門とする医師のことなんです。
それでは、一体どれくらいの麻酔科医が無痛分娩の麻酔を担当しているのでしょうか?答えは下の2016年の調査結果を元にして説明します。ここでは、分娩取り扱い施設を、病院と診療所(開業医さん)に分けて統計がとられています。先ず、病院においては、47%の施設の無痛分娩でで麻酔科医が関わっています。しかし、診療所ではその割合は1割にも満たない状況です。この調査結果から、無痛分娩に麻酔科医が関与することは一般的ではないと言えますね。それでは、なぜこのように麻酔科医の無痛分娩への関与の割合が低いのでしょうか?
麻酔科医の関与が難しい理由
2016年の時点で、日本の無痛分娩普及率は約6.1%と推計されました。これは、フランスや米国の60%以上という割合からすると、非常に低いということになります。無痛分娩の普及率が高い先進諸外国と日本の大きな違いは、分娩取り扱い施設のサイズにあります。これが、無痛分娩の普及率にも、麻酔科医の関与にも少なからず影響してくるんですね。
下の模式図を見てみましょう。米国では巨大バースセンターと呼ばれる施設で、年間1万件以上の分娩が取り扱われています。1日に30件以上のお産があるという計算になります。これを分娩施設の集約化と呼びます。この集約化によって、各施設の分娩ブースには産科を専門とするような麻酔科医を複数名配置することができます。この麻酔科医たちが無痛分娩の麻酔を担当しているのが米国などの方式です。一方、日本ではサイズこそ小さいですが、アクセスのいい病院や診療所で、きめ細かい医療を受けることができます。そして、年間分娩件数が1,000件未満の施設がほとんどになります。そのため、産科専用の麻酔科医を配置することは難しいという医療構造になってしまっているのです。
麻酔科医が担当しなければダメ?
実際、日本のお産は産婦人科医の努力によって支えられてきました。産科医療は、緊急の帝王切開も起こり得るため、麻酔とは切っても切れない関係にあります。そのため、産婦人科研修の一環として、麻酔の訓練はほぼ必須事項でした。ほんの少し前までは、帝王切開の麻酔の過半数が産婦人科医によって行われてだくらいです。また、私は両方の診療科を経験してみて思うのですが、日本の産婦人科医は器用な方が多いです。そして、そんな産婦人科医たちが、麻酔科医を配置できない施設でもしっかり麻酔をしてきたから、今の産科医療があるのだと感謝の気持ちも湧いてきます。そもそも論としては、医師免許があれば、麻酔をしても何の問題もないんです。
日本は分娩取り扱い施設の集約化こそできていませんが、医療へのアクセスが良いなどのメリットも多く、一概に遅れているとは言うことはできません。みなさんも、海外旅行中に現地の病院に行くのは、何だか不安ですよね。私は、日本の医療は世界一だと心底思っているのですが・・・。
話が逸れてしまいましたが、下記に示しました日本無痛分娩関係学会連絡協議会という団体(通称、JALA)も、産婦人科医が無痛分娩の麻酔を担当することをしっかり認めています。法的にも、業界のコンセンサスも、現状もすべてにおいて、必ず麻酔科医が担当しなければならないということはありません。
「誰が麻酔?」ではなく、「どのように麻酔?」
ここまで説明してきたように、すべての無痛分娩において麻酔科医が麻酔を担当することは、現実的に不可能です。実質的な議論としては、「誰が麻酔をするのか?」ではなく、「どのような麻酔をするのか?」を論点とするべきです。安全や質に関するノウハウが詰め込まれた方法を、どれくらい徹底して運用できるかにかかっています。麻酔科医がいるかどうかだけで無痛分娩施設を選択しても、満足のいく無痛分娩を提供してもらえるとは限りません。小さな診療所でも、優れた産婦人科医とスタッフによる質と安全性の高い無痛分娩を提供できるところはあります。そして、私の職業柄、このような施設をいくつも見てきました。
先ずは、担当の先生とお話ししたり、助産師さんに相談してみると良いでしょう。特に、自施設の助産師さんが心からお勧めするような無痛分娩は、きっと素敵なものなのではないでしょうか。
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